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#短編

蜥蜴

わたしたちは、ソファーにふたりならんで腰を下ろしていた。付き合い始めて約ひと月。この部屋に来たのは何回目だろう。部屋が整理整頓されすぎているせいだろうか、わたしはまだ慣れなかった。白で統一された部屋には観葉植物の緑が映えている。わたしは、隣に座っている彼の肩にもたれながら、目の前の大画面を見つめる。彼の指がわたしのウェーブした髪をもてあそんでいた。
わたしの目は、目の前の画面に惹きつけられていた。

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夜の冒険

学校に行く前、わたしは窓の外を見ながら食パンをかじっていた。マンションの窓から見える空は、雲ひとつなかった。
窓の外を、わたしの母が落ちていったのが見えた。
きっと、わたしはまだ夢を見ているんだ。

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ぼくは、通っている塾のビルの階段を下りて、通りに出た。夕暮れ時になっていた。カバンからスマホを取り出しイヤホンを

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治療とその効果 第4話

ベッドの上で目が覚めた。光を顔に感じた。ベッドの左側にある、窓のカーテン越しに差し込んだ日の光だった。ぼくはバネ仕掛けの人形のように飛び起きた。顔から血の気が引いているのを感じる。
「遅刻!?」
暗いうちに起きないと会社の始業時刻には間に合わない。視線を枕元に向ける。昨夜セットしたはずの目覚まし時計は、もう昼前の時間を指していた。昨日の帰り際の、先輩の責めるような顔が頭に浮かんだ。
「どうしよう、

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治療とその効果 第3話

気がつくと、ぼくは自室のベッドの上に寝ていた。天井の照明の光が目に入った。スーツのまま寝ていることに気づき慌てて上半身を起こす。自分と同じ顔の男との対面を思い出した。ベッドの左の窓はカーテン越しに暗い。夜は明けていないようだ。部屋を見まわした。男は床でベッドの横にもたれていた。先程は気がつかなかったが男は部屋に干して有ったスエットの上下を身につけていた。
男はぼくが起きたのに気がついたのか顔を上げ

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治療とその効果 第2話

マンションのオートロックの番号を押すと自動ドアが開く。入って左手にある管理人室の電気は既に消えていた。ぼくは管理人の顔を思い出そうとしたができなかった。
土日の休みもなく毎日仕事、仕事だ。管理人に会ったことなど、住んでいる3年の間、1、2度しかないことに気づいた。自分のことがバカに思え、思わず口角が上がる。目は笑っていないだろう。
玄関ホールを入り目の前にあるエレベーターのボタンを押す。エレベータ

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