見出し画像

魂の一杯は魂をいたわる

同居する家族が中3女子ひとりだけなので、修学旅行=私もひとりを楽しむ期間になる。
小学校の修学旅行のときは、母と一緒に「大人の修学旅行だ!」などと言いながら神戸の北野ホテルに宿泊して休暇を満喫した。なかなか親孝行できるタイミングがないから、あれはいい思い出になったと思う。
絶対行こうと思っていたセレクトショップにOPEN時間に着くようにして行ったのにCLOSEしていて、定休日を勘違いしていたうっかりをやらかしたこともいい思い出にしておきたい。親孝行とは。

今回の修学旅行も母を誘おうと思っていたのだけれど、母がどうにも仕事を休めない時期だったこともあり、友人を誘おうかどうしようか……と少し考えた末に「ひとり旅でいいや」と京都の「行ったことのない場所」を中心に遊びに行くことにした。
最初から「どこにも行かない」という選択肢はなかった。晩ごはん作らないと、とか、送迎の時間だ、とか、あれこれ気遣う必要のない貴重な日に家でじっと仕事だけしているのは考えられなくて、早々と担当様にも「この日だけは完全休業!」と宣言していたくらいだ。

結果的にとにかくもう、ものすごく、もしかしたら人生で一番と言っていいくらい心がぐったりとしていたから、ひとりで逃避できるタイミングを抑えていた自分を褒めておきたい。休むべきときに休むって本当に大事。

よくわからない天気の隨心院

小野小町ゆかりの寺院

京都にはよく行くものの、市街地から少し離れる場所にはなかなか縁がない。というので、ちょうどクリエイター仲間にオススメされていた山科の隨心院へ行ってみた。
イレギュラーな事態が発生して出発を予定より遅らせたこともあって、バカみたいに密に組み込んでいた寺院めぐりをここ一点に集中させることにしたから、のんびりと過ごせた。

ずっとパラパラ降っていたのに、このタイミングだけ外が明るくなって驚いた
書院を行き来する廊下の趣
広いし静かだしで散歩が捗る

小野小町さんはもらった恋文をたとえ気のない相手からのものでも大事に扱っていたようで、そんなところまで美人か~~~などと思いつつ、平安時代から令和に至ってもなお「恋が叶わなかった絶世の美女」と言われ続けるのも大変だな……と労いの心も芽生えてしまった。
なんかこう、好きで美人に生まれたわけじゃないわい! とか、人の失恋をいつまでぐだぐだ語ってんだ! とか、いろいろ言いたくなりそうだなって。美女も大変だ。絶世の美女になったことがないから知らんけども。

広くて静かで、庭園の手入れがこまやかに行き届いた、とても好きな寺院だった。雨でしっとりした空気だったのもよかった。
小町さんにあやかろうと『文章上達祈願』ができるのもいいし、絵馬には「美人になりますように」というものが多かった気がする。

こういうトトロがいそうな道があると楽しくなる

晴れてきたので、ひとまずずっと気になっていたラーメン店に行くことにした。

読後、行きたい店リストに追加してそのままだった。なかなか縁が巡ってこなくてそのままになることも多いなか、これは絶好の機会だったので。

少し脱線するけれど、私が岸田奈美さんの文章に出会った記事はこちらだ↓

今でも定期的に読み返しては笑っているし、私も素直にブラデリスユーザーになったことは言うまでもない。戦士たちが戻ってくるぞ。

話をラーメンに戻して。私は離れではなくて本店のほうへ伺った。
着いたのが17時前くらいだったと思うんだけど、すでに外国人観光客の行列ができていて、あらためて並ぶようにと時間指定のメモをもらい、それなら近所をぶらぶらしよう……としたところで「待って……私、スキンケア用品一式忘れてきてるな!?」ということに気がついた。
なにかが抜けているとは思っていたが、どうやらそれだったらしい。私がなにもやらかさずに家を空けるなんてできるはずがない、という無駄な自信がある。うっかりせずにはどこにも行けない記録をまたしても更新してしまった。
これはもうついでだし、京都大丸に行ってデパコス試そう、この待ち時間むしろちょうどいいわ! と来た道を引き返した。

あとになって、楽天ポイントが貯まっていたのをいいことにちょっといいお宿を選んでいたから、アメニティのスキンケア用品でも事足りることに気づくのだけど、まあそれはそれで……これはこれで……アイブロウパウダーも買えたことですし……

気を取り直して行列に並ぶ。ひとりラーメン部
初めての店ではトッピングなしでノーマルをいただくマイルール

上品なラーメンであった。おいしかった。
帰り際、会計時に店員さんと少し話ができた。長い時間お待たせしてしまって、と申し訳なさそうに言われたものの、人気店であることはわかっていたし、並ぶことまでセットで考えていたうえに店員さんの対応がとても気持ちよかったから少しも気にならなかった。

「絶対に最高のサービスをお届けするぞ」という接客の気迫というか、人と接するときにこうだったらいいよね、みたいなお手本というか、とにかくフロントを守るスタッフさんのプロの気概が感じられて、途中から「あれ、私ラーメン食べに来たんだよな……?」と考えてしまうほどだった。
ラーメン1杯に対する付加価値が大きい。まさに魂がこもっている。

接客オブザイヤーもまごころオブザイヤーも麺オブザイヤーも全部この日の1杯で決まってしまった。勝手に。
たぶん、与えられるだけじゃなくて、心のやりとりみたいなのが成立していたんだと思う。ものすごく疲れた心には救いの手のようだった。おいしいってだけで十分すぎるくらいなのに、とてもありがたかった。

「すぐ道が暗くなるのでお気をつけて」と見送ってくれたのも、とてもさりげないひと言が足されている。「お気をつけて」だけじゃないんだな、心を感じるなあ、と普段言葉足らずになりがちな私は学んだのだった。

翌日はまたクリエイター仲間をお誘いして一緒にランチやらお茶やらしたのだけど、まさか警報が出るレベルの大雨になるとは思わず。
こんな日に呼び出して申し訳ないとは思いながら、なんかもう店に着くまでに足元びっちゃびちゃになっていっそ面白かったので、これはこれでいい思い出になりそうだ。雨女記録までまた更新してしまった。
自らがどこかに行く計画を立てるとだいたいが雨だ。心身ともに潤ったからまあいいか。でもどうせ更新するならもっと別のいいことがいいなあ。




いつもあたたかいサポートをありがとうございます。メッセージもとても嬉しくて、大事に読ませていただいております。