銀河フェニックス物語 <番外編> 今日やったこと ショートショート
銀河フェニックス物語 <番外編> 朝のルーティーン の続きです
きょうは、仕事も任務もなんも入ってねぇ日曜日。
朝起きて、まずは相場をチェックする。
裏情報通りに地方星系の中央銀行が為替介入したな。よし、危ねぇところは切り抜けた。
ティリーさんのふくれっ面が頭に浮かぶ。言ったら怒るだろうな。卑怯者って。
前に、任務で関わった企業の株を売って儲けた時には、アーサーの奴が青筋を立てて噛みついてきた。
将軍家には銀河中の情報が集まってくる。資金運用に使わなきゃもったいねぇだろが。
さて、ぐうたらしたいところだが、きょうはここフェニックス号へティリーさんが遊びに来る。会うのは一週間ぶりだ。
二人で小惑星帯をぶっ飛ばして、きょうこそ『あの感覚』にたどり着きてぇ。俺の思い通りに船が動く全知全能な『あの感覚』。あれを扱えれば俺は真の『銀河一の操縦士』になれる。
格納庫にあるガレガレの小型機はよくできてる。俺のヘビーな改造によく耐えてる。船をいじれば金がかかる。やっぱ違法じゃねぇ金集めは許してもらわねぇとな。
夕飯はどうするかな。
ティリーさんは今週、取引先と揉めて仕事に追われてたから、ろくなものを食ってねぇ。めんどくさがって、職場でサプリメントかゼリー飲料ってところだろう。きょうは 調理師免許を持っている俺が、おいしい肉でも焼いてやるか。
いい肉を調達し、つけ合わせの青菜を船内の野菜工場で収穫する。よしよし、よく育ってる。
と、その時ティリーさんから連絡が入った。一目見ていい話じゃねぇことがわかった。
「ごめん、取引先に呼び出されて、これから仕事になっちゃった」
ガレガレの船の飛ばしにつきあってほしかったが、しょうがねぇ。
「じゃあ、夕飯、食いに来いよ」
「それが……本当にごめんなさい。仕事終わったらみんなでお肉を食べに行こうって話になってて。今週忙しかったうえに休日出勤になっちゃったから、憂さ晴らししようって」
よりによって肉かよ。
「ほう、そりゃよございましたな。ちょうど俺も上等な肉を手に入れたところでしてね。どうぞ、楽しんでいらしてください」
「怒ってる?」
「怒ってねぇよ」
「来週、代休取れたら会いに行くから」
「へいへい」
不機嫌さを隠さずに返事をする。ティリーさんが申し訳なさそうに眉間にしわを寄せた。
俺だって仕事を断れねぇことはわかってる。職場仲間とのコミュニケーションも大切だ。
ま、ティリーさんの優等生の元カレなら「がんばっておいで」と笑って送り出すんだろうが、俺はそんなに聞き分けはよくねぇ。きょう死んだら、来週は会えねぇんだよ。
*
イライラしながらアステロイドベルトを一人でぶっ飛ばす。
苛立ちは集中を高める。いつもより小惑星にぶつかるギリギリまで攻め込む。タイムが更新される。
ティリーさんが助手席にいたら、喜びが二倍になるのにな。普段は口喧嘩ばかりしてるが、気持ちの共有ってやつは感情を増幅する。
一方で、俺はティリーさんという歯止めが必要だということを忘れてた。
一人で操縦桿を握ってると、昔の飛ばしが近づいてくる時がある。このまま死んでも構やしねぇって感覚。
恐怖心の欠如が注意力の欠如につながる。
「やべっ!」
思わず声に出した。
小惑星の裏から岩石が飛んできた。
操縦桿を思いっきり切りながら補助ブースターを逆噴射させる。規定量を超えるエネルギーをぶち込んで反転。
ふぅ。すれすれのところで直径一メートルの岩石が通り過ぎていく。ぶつかったらヤバかった。
近くで誰か事故ったな。
ぶっ壊しとくか。
慣性で飛び続ける岩石をレーザー弾で粉砕する。
ティリーさんが乗ってねぇから、集中するために警告レーダー切ってたんだった。
ちっ、補助ブースターが動かねぇぞ。負荷かけ過ぎたな。帰るのに問題はねぇが、出費いくらだよ。今朝の儲けは確実に吹っ飛んだな。
夕飯の肉はお預け、青菜炒めで我慢だ。これが今日、俺がやったことかよ。さえねぇな。
ま、生きてるから来週はティリーさんに会える。よしとするか。 (おしまい)
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<出会い編>第一話「永世中立星の叛乱」→物語のスタート版
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ティリー「サポートしていただけたらうれしいです」 レイター「船を維持するにゃ、カネがかかるんだよな」 ティリー「フェニックス号のためじゃないです。この世界を維持するためです」 レイター「なんか、すげぇな……」