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銀河フェニックス物語<恋愛編> 第四話(4) お出かけは教習船で

教官席のレイターに手伝ってもらいながら突風教習船を飛ばしたティリーは幸せを感じた。
銀河フェニックス物語 総目次
<恋愛編>お出かけは教習船で (1)(2)(3
<恋愛編>のマガジン

 レイターに操縦を教えてもらっているうちに、見慣れたアステロイドベルトに着いた。
「とりあえず、初級コースから行ってみるか」
 小惑星帯をレイターの助手席で飛ぶのが好きだ。ジェットコースターのようなスリルと迫力はやみつきになる。

 自分で飛ばすのは初めて。と言ってもレイターが操縦しているようなものだから安心だ。
 スタート地点から発進させる。

 うわっ。見る間に小惑星が迫ってきた。あわてて操縦棹を切る。
「バカ、逆だ!」
「え?」
 ぎりぎりのところを通り抜ける。
「きゃあ、またきた」
 抜けたと思ったら、次の小惑星が目の前にあった。

「右だ右!」
 レイターの言うとおり操縦棹を右へ回転させた。
 隣の小惑星にぶつかりそうになる。レイターがあわてて教官席を操作する。
「行き過ぎ! メガマンモスの加速はガレガレの船とは違うんだぜ」
 わかっていても反応できない。小惑星帯の操縦ってこんなに難しいの?

「とにかく、あんたの操縦棹がメインなんだからな」

n27見上げるどなる逆4

 珍しくレイターの声に余裕がない。
「そ、そうなのね」
「こっちは仮で繋いであるだけだ。ティリーさん、頼むぜ」
「頼むぜと言われても」
「ほら、そこは上に逃げんだよ」
 上下左右に操縦棹を操作する。

 わたしの操縦では全然避け切れていない。激突しないように隣でレイターが必死に補正しているのがわかる。
 何とかポイントを抜け出た。

「ふうぅ」
 レイターとわたしは同時にため息をついた。緊張したけれど、やっぱり絶叫マシンと似ている。興奮が心地いい。脳内にドーパミンがあふれている。

「ドキドキしたけど、楽しかったわね」

n13ティリー3s笑顔2

「マジかよ。俺は初級でこんなに手に汗かいたの生まれて初めてだ! ジェットコースターより怖いじゃねえか」
「え?」
 ちらりと横を見る。
「何でもねぇ」
 前から思っていたけれど、この人ジェットコースターが怖いんだ。『銀河一の操縦士』で銀河最高速度の記録保持者のくせに。


 その時、通信音が鳴り、モニターに紫の前髪が印象的な男性が写った。
「レイターじゃないか」
「およ、総長さまじゃねぇの」 

画像6

 飛ばし屋『ギャラクシー連合会』の総長アレグロさんだ。前に、レイターがバトルをした時にあいさつをしたことがある。荒くれ者の飛ばし屋を束ねているというのに物腰が柔らかい人だ。

 アレグロさんの小型機が近づいてきた。

「びっくりしたぞ、裏将軍の『突風教習船』を見つけた時は」
「俺も総長がこんなとこを、うろついてるとはびっくりだぜ」
「たまには一人で飛びたい時もあるさ」
「一人? 武闘派連れてねぇのかよ」
「ああ」
「どうりで地味な船だ」

 アレグロさんはレイターの飛ばし屋時代の仲間だ。

 かつて裏将軍率いる『ギャラクシー・フェニックス』が銀河中の飛ばし屋を統一したことは今では伝説だ。当時、アレグロさんは裏将軍側近の軍師だったそうだ。 

ギャラクシーフェニックスの旗青

「レイター、久しぶりに上級で飛ばさないか?」
 アレグロさんは現役の飛ばし屋だ。
「ふ~む。今、操縦してんの俺じゃねぇんだよな」
「そうか、突風教習船の操縦席はもうお前は座れないからな。誰が乗ってるんだ」
「俺の彼女」
「彼女だと?」
 アレグロさんが驚いた顔をした。レイターはわたしと付き合っていることを伝えていなかったようだ。

 レイターがカメラをわたしに向けた。
「こんにちわ、アレグロさん」
 笑顔で会釈する。
「ああ、ティリーさんでしたか。よかった。今日はいい日だ。僥倖の極みです。レイターを何卒よろしくお願い致します」
 丁寧で大仰なあいさつにあわてる。
「こ、こちらこそ」
「レイター、お前に特定の彼女ができたというのは安心したぞ」
「人生いろいろあるのさ」

 レイターは特定の彼女を作らない主義だった。
 十七歳で前の彼女のフローラを亡くしてから、ずっと……

ハイスクール5

 裏将軍時代、レイターはフローラの後を追って死のうと危険な飛ばしを続けていた。バトル終了後の「また、死に損なった」という裏将軍の決め台詞は、彼の本心だった。

 アレグロさんはそんなレイターをずっと見守ってきたのだ。  (5)へ続く

<出会い編>第一話「永世中立星の叛乱」→物語のスタート版
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ティリー「サポートしていただけたらうれしいです」 レイター「船を維持するにゃ、カネがかかるんだよな」 ティリー「フェニックス号のためじゃないです。この世界を維持するためです」 レイター「なんか、すげぇな……」