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銀河フェニックス物語<少年編> 一に練習、二に訓練 (2)

銀河フェニックス物語 総目次
<少年編>マガジン

 レイターの足を、紙一枚のところでかわす。

 このまま、好きにさせておくわけにはいかない。
 リーチを生かして腕を掴んだ。

「エイやぁっ!」
 力任せに振り回すようにして投げる。

 レイターの小さな身体を、仰向けに地面に叩きつけた。
 その瞬間、首に痛みがはしった。  

 はあ、はぁ。

 僕は肩で息をしていた。
 こんな短時間で息が切れるとは。緊張と集中、そして少しの恐怖。レイターの身体が軽いとわかっていたから、強引に投げ技をかけた。

 レイターは地面に転がったまま動かない。背中を地面で強く打ったが、怪我はしていないはずだ。

バルダン横顔軍前目

 バルダン軍曹が寄ってきた。
「レイターの負けだ」
 レイターは寝転がったまま、プイっと横を向いた。
「悔しかったら練習しろ。一に練習、二に訓練だ」

「ちっ」
 レイターは砂をはたきながらふらふら起き上がると、そのまま立ち去った。
 バルダン軍曹は僕を見た。

「お手本になる、いい戦いだったなぁ。さすが首席の坊ちゃんだ。しっかし、あいつがナイフを持っていたら大変だった」
 バルダン軍曹は僕の首を指差して笑った。

 首筋に手を当てると血が出ていた。
 レイターは僕に投げられながら、僕の首を爪で思いっきり引っ掻いていた。
 正確な頸動脈への攻撃。レイターが僕を殺す気だったら、僕は死んでいた。

 彼に噛まれた手も痛い。
 勝ったとはいえ、僕の方が負傷の程度は大きかった。

少年正面@2戦闘む首血

 バルダン軍曹は隊員たちの方を向いた。
「フフフ、あいつゲリラ兵の様だな。次に、レイターと対戦したい奴いるか?」
 手を挙げる隊員はいなかった。
 僕は格闘技戦でバルダン軍曹の次に勝率が高い。その僕をあれだけ手こずらせたのだ。

 将軍家の跡取りである僕は、幼いころから人を殺すための訓練を受けてきた。
 だが、これまでに人を手に掛けたことは無い。

 一方、先日、レイターは、僕の目の前で躊躇なく宇宙海賊を撃ち殺した。
 あの時交わした会話を思い出す。
「君は、本当は銃を扱えるんだな」 
「ダグんとこにいたら、銃ぐらい撃てねぇと」
 老舗マフィアで『裏社会の帝王』ダグ・グレゴリー。
「これまでにも、人に向けて銃を撃ったことがあるのか?」
「そりゃそうさ、他に何を撃つんだよ」
 僕は様々なものを撃ってきた。練習の的、人型ロボット、無人偵察機、野生動物・・・。
 だが、人に実弾を撃ったことは無い。

 戦いながらレイターから感じた鋭い気配。あれは「殺気」だ。

 殺らなければ、殺される。
 マフィアの抗争の中で、彼はこれまでに何人殺めてきたのだろうか。

  * *

 バルダンの部屋をレイターが訪ねた。

「四十三、四十四・・・」
 指立て伏せをしているバルダンの背中にレイターが飛び乗り、胡坐を組んだ。

「なあ、バルダン、どうしたらアーサーの奴、倒せる?」
「四十八、四十九、五十。難しい質問だな。お前のウエイトじゃ、俺の重りにもならんぞ」
「フン」

アイス少年怒り

 レイターがピョンと飛び降りると、バルダンは立ち上がった。

「アーサーは体格にも恵まれとるし、ガキの頃からずっと訓練してきてるんだ。この俺が負けることもあるんだぞ。お前が付け焼き刃で戦って、かなう相手じゃない」
 レイターは口を尖らせた。
「ちっ、勝たなくてもいいんだよ。一発、蹴りてぇんだ」

「ふむ、じゃあ、極意を教えてやる」

「ほんと?」
 レイターが期待の目でバルダンを見上げた。    最終回へ続く

<出会い編>第一話「永世中立星の叛乱」→物語のスタート版
イラストのマガジン

ティリー「サポートしていただけたらうれしいです」 レイター「船を維持するにゃ、カネがかかるんだよな」 ティリー「フェニックス号のためじゃないです。この世界を維持するためです」 レイター「なんか、すげぇな……」