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銀河フェニックス物語 <番外編>  この街がすき ショートショート

「あなたの好きな街を教えてください。抽選で十名様に素敵なプレゼントを差し上げます」
 フェニックス号で宇宙船レースを見ていたら、不動産屋のコマーシャルが入った。
「ねぇ、レイターが、好きな街ってどこ? いろんな星へ出かけたんでしょ」
 隣に座るティリーさんがピザをつまみながら俺に顔を向けた。

t27@ピザやや縦口

「あん?」
 俺は『銀河一の操縦士』だ。ソラ系中心部から、銀河の先の戦地までどこへでも船を飛ばしてきた。すぐには答えが出てこなかった。額に手を当てて考えてみる。

「街っつうか、俺は宇宙を飛んでる時が好きなんだよな」
 漆黒の闇。何者にも干渉されない空間にエンジン音だけが響く世界は、俺を安心させる。

「それじゃあ、プレゼントはもらえないわよ」
「ふむ」
 二度と行きたくねぇって星はいくつもある。逆に、好きってことは、また行きてぇ街を考えればいいのか。

「わたしはやっぱり、故郷のアンタレスかな。のんびりできるもの」
 故郷ってのは多くの人にとって好きな街なのだろう。宇宙船乗りにとっても母港だ。

 だが、俺は違う。地球には帰る場所もねぇし、帰りたくもねぇ。

 ただ、ふと、青い地球を懐かしく感じた。月から見る地球は美しい。
 遠い昔、永遠の愛を誓ったあの日も、俺とフローラの目の前で宝石のように輝いていた。

花は咲き花は散る3

 俺の住居登録地は将軍家の居宅「月の屋敷」だ。縁あって、二年ほどそこで暮らした。
 月での生活は、凪のように平穏だった。ハイスクールの友人とゲーセンで宇宙船飛ばして、喧嘩して、買い食いして、サッカーして、遊んで、恋をして…… 

 温もりが常に隣にあった夢のような時間は、シャボン玉のように一瞬ではじけ飛んだ。

 珍しいな、あの頃のことを思い出すのは。

 身体の弱い彼女を連れて、こっそり出掛けた月のショッピングモール。アマ星の石でできたペンダントを買った店は、まだあるのだろうか。

 今はもうどこにもいないフローラとデートした月の街。

肩を抱く大バックなし

 今の彼女を前にして、昔の彼女と出かけた場所が頭に浮かんでくるってのは問題だな。
 あの街にもう一度行きてぇと俺は思っているのだろうか。

 けど、わかってる。俺が今こうして過去と向き合えてるのはティリーさんがいるからだ。だから、俺は正直に伝える。
「故郷じゃねえけど、月もいいかな」

 ティリーさんが吹き出した。
「思った以上に平凡ね。月ってレイターの故郷みたいなもんでしょうが。銀河一の操縦士のことだから、どこかのレース場でも言い出すんじゃないかと思ってたわ」
「そっか、その手があったか。そうだな、ナセノミラもいいな、いや、テッグレスか。ネル星の小惑星帯も捨てがたいな」
 俺は調子に乗ってしゃべり続けた。

 俺はうれしい。
 俺の彼女は、俺より俺をわかってる。ティリーさんと飛ばせば、もう一度行きてぇ星が増えていくに違いねぇ。

月夜普段着 大

「この街がすき」って言える場所が、俺を待っている気がした。     (おしまい)


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この街がすき

ティリー「サポートしていただけたらうれしいです」 レイター「船を維持するにゃ、カネがかかるんだよな」 ティリー「フェニックス号のためじゃないです。この世界を維持するためです」 レイター「なんか、すげぇな……」