銀河フェニックス物語<裏将軍編>第一話(5) 涙と風の交差点
・銀河フェニックス物語 総目次
・<ハイスクール編>「花は咲き、花は散る」(1)
・<裏将軍編>第一話「涙と風の交差点」(1) (2) (3) (4)
アステロイドベルトにある小惑星に到着した。そこで老師の工場を初めて見た。
老師は船を分解してパーツを売ってるだけじゃなかった。小型船の試作機を製造していた。機体の周りで設計士たちが議論している。
「老師、この子どもは?」
「見学させてやれ」
俺は子どもと言われてムッとした。だが、作業を目にした途端、俺はガキのようにその様子に見入った。
軍のメカニックとは全然違う。
面白いほど深くて広い発想がそこにあった。俺はその会話の一言一言に刺激を受けた。ここでは何でもありだ。たまらなくなって、俺はつい議論に口出した。
「それだったら、尾翼の角度の方が影響大きいぜ」
全員の視線が俺に集まった。
俺は夢中で意見を言った。
「だってこっちの推力を五十上げるより、抵抗減らす方が効果は高いじゃねぇか」
「……」
みんな黙ってしまった。何だか雰囲気が気まずそうだ。
「老師、この子どもは何者ですか?」
リーダーらしき細身の男が老師にたずねた。じいさんがニヤリと笑った。
「ルーギア、こいつはわしの直弟子候補じゃ」
みんなの顔色が変わった。弟子? って話は聞いてないぞ。俺は設計士になるつもりはさらさらない。けど、話の輪の中に入れてもらえるならこの際何でもいい。
「そうならそうと、最初からそう言ってください。とりあえず尾翼の角度の検討から入ろう」
俺の意見が採用された。俺はうれしかった。
延々と議論と試行錯誤を繰り返す、彼らが『風の設計士団』だった。
老師は俺を飯炊き係として連れてきたのだ。『風の設計師団』の実体はあまり知られていないが、最高の腕を持つ独立系の設計士集団、と称賛されていることは俺も知っていた。
十五人前後の設計士たちが入れ替わり立ち替わり議論に加わっては消えていく。
俺にとってそのぐらいの人数の飯を作るのは朝飯前だ。
だけど、その間、話が聞けないのがくやしかった。
二十四時間、七十二時間、一週間、同じ議題で話し続けることもあった。途中で疲弊し、ついていけなくなる設計士が出ると老師が脱落を宣言した。結論まで生き残るメンバーは『風の設計士団』の中でも大体決まっていた。
老師とリーダーのルーギアとサブリーダー。あと二、三人がいたりいなかったり。
俺は飯を作るために中抜けしてるから勘定に入っていない。が、最後まで聞いていたし議論にも参加した。俺は船の話をしていれば全然疲れなかった。ある一定の結論がまとまった後でもまだ違う視点やアイデアを出すこともできた。
そんな俺を太ったサブリーダーは疎ましそうに見た。
「この線でどこが不満なんだ」
「不満だなんて言ってねぇけど、こっちの関数でも試したらもっと効率あがりそうだろ」
「今から計算しろというのか。おまえは途中で抜けていたからいいが俺たちはずっと続けてるんだぞ」
「じゃあ、俺がやるよ」
老師は俺たちのやりとりを楽しそうに見ていた。
*
その日の議論は八方ふさがりだった。
エンジンの推力を一定以上どうしても上げられない。
もうこれ以上は無理なのか、どこかに策はあるのか。議論を繰り返したけれど、ぐるぐると同じところを回っているような感じだった。
会議室の空気が重たい。
俺は何かひらめきそうな感じがしてた。でも、うまく形になって出てこない。
rrrrrr…
ちっ、アラームが鳴った。飯をつくる時間だ。(6)へ続く
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ティリー「サポートしていただけたらうれしいです」 レイター「船を維持するにゃ、カネがかかるんだよな」 ティリー「フェニックス号のためじゃないです。この世界を維持するためです」 レイター「なんか、すげぇな……」