見出し画像

【脳科学から見たアート思考】

day4 『芸術的創造は脳のどこから産まれるか?』 大黒達也

音楽家であり、ケンブリッジ大学で音楽の神経科学を専門とする著者が最新の脳科学に関する様々な論文からアーティストの創造性を探求した本です。創造性を脳神経の中で起こる現象として捉えたとき、それが脳のどういった機能や状況から生まれてくるのか?アイデアの発案(創造性)と評価(知能)つまり、アート思考(直感)とロジカル思考(論理)を同時に使い分け、安心感と不安感、確実性と不確実性をバランスよく内在化させていることが芸術性の源泉だと述べています。

私自身もミュージシャンとして、同時に新規事業やイノベーションの現場にいた人間として、とても腑に落ちる内容でした。譜面が読めない私がなぜトランペットで即興演奏ができるようになったのか?その時、脳の中ではどんなことが起きているのか?実は、これがまさにアート思考の発想法で、理論ではない直感やヒラメキの音楽なのです。譜面が読めない私は、誰かにモテたいとか、音楽で稼がなきゃとか、音楽学習の課題をクリアするといった外発的動機ではなく、ただ単にトランペットを吹きたいという衝動、いってみれば本質的な内発的動機(パッション)と、まだ聴いたことがない音楽への好奇心から、様々な音楽や演奏に合わせて手探りで吹き続けているうちに、気がつくと自分の中にたくさんの音の引き出しが蓄積されていたのです。即興演奏は、リズムや他の人が今出した音を聴いて瞬時に蓄積された経験(音の引き出し)の中から自分の音を選び出し演奏します。たくさんの内在する音の要素と今発せられた音を結びつけることは、今までにない物やサービスを生み出す行為に似ています。

1時間オンライン 2

ジョブズもまさにこれが創造性だと語っています。

筆者はこれを『音楽家は長期間の音楽訓練によって、音楽に普遍的な統計的モデルを脳内で作成している。たとえ初めての音楽を聴いてもその曲の統計的モデルを瞬時に作成し予測しやすくしている。』また、脳波活動の研究によれば、ジャズの即興演奏時は譜面通りに決まったメロディーを演奏している時に比べアルファ波が増大することがわかったいるそうです。このアルファ波は行動計画などを反映する前頭葉の実行機能が抑制されている時に増加すると考えられていて、間違いという概念や明確な目標がない(正解がない)即興演奏においては、脳は自由で創造的な活動していることを示します。つまり、論理的思考をいかに抑制するかが創造性の可能性を高めることになる。新しいことを生み出すには予測(直感)と思考のバランスが重要になるということです。
そのためには多くの感動や経験を蓄積し、それを瞬時に柔軟に結びつける必要があるわけです。その点においては、即興演奏も新規事業のアイデア創出も大変似ているといえます。ただし、この状況に至るまで長期間の音楽訓練が必要とされるように、ビジネスにおいても多くの知見や経験、失敗の蓄積が必要でこの集積がなければ新規事業を生み出すことは不可能です。セミナーではよく話しますが、イノベーションをよく0から1を生み出すと言いますが、私は『1+1+1+1+1+1+1+1+1+1≠新しい1』だと思っています。恐れず間違えてトライアンドエラーを積み重ねて初めて新しい1が生まれます。

今まで右脳と左脳について、論理的な左脳に対して、創造的な右脳とされてきましたが、最新の研究によれば、創造的な思考状態の脳では

スクリーンショット 2020-05-01 2.49.37

●デフォルトモードネットワーク(前頭葉側頭前野・海馬)
 自由で創造的な活動
●エグゼクティブコントロールネットワーク(前頭前皮質背外側部)
 アイデアの評価、明確なゴール
●サライアンスネットワーク(前帯状皮質)
 2つの仲介役
この3つのネットワークを同時に使いアイデアの発案評価を同時に行っていると考えられており、必ずしも右脳左脳で区別するものではないようです。

脳科学の研究はAIの進化と共に、その対比含めて、これからの大きな課題となってくるでしょう。AIは当然のことながら人間の脳が作り上げた産物です。アートの語源がラテン語のアルス(芸術)でギリシャ語のテクネー(技術)であることから、元は同じであったはずです。つまり、アートとテクノロジーは人類の文明と共に始まったのです。これからの時代のテクノロジーはもっとアートや即興演奏の領域で語られる必要があると感じています。今こそ、この分離した概念を1つとして扱う必要があると感じています。



この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?