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【東北ひとり旅】蔵王で知らない人と旅したら、東横イン宿泊券を貰ったの巻

0. エピローグ的なやつ

1. 福島に現れた桃乞食のはなし

2.[教訓]素人が"田舎へ泊まろう"をやったらめちゃ怒られる

* * *

白石蔵王駅のバス停で、私はぼーっとしていた。
その理由は三つあった。
一つは、やりたかった一番のこと、"田舎へ泊まろう"を初日でやり遂げた達成感から。
二つめは、予想外のお叱りに疲れてしまったから。
三つめは、おばあちゃんが恐くて、バスの出発時間より一時間も早くきてしまったからだ。はは。
バスが来るまで、気づいたらうとうととしてしまっていた。ここが日本でよかった。私の全てが詰まった小さなリュック、海外だったらもう盗まれていてもおかしくない。
夏休みシーズンなのに、時刻が迫ってもバスを待つ人はわずか数人だった。それでも私たちは日本人らしく列をなして乗り込み、あっという間に扉は閉じた。
目的地は蔵王。観光マップを見て、"お釜"という湖のような水たまりがあることを知り、目指すことにした。
寝てしまおうと思っていたのに、山頂に近づいていくワクワク感で眠れない。いつもそうだ。いつまでも心が小学生なのだ。窓の外を眺めていたら、後ろにいた男性に声をかけられた。「一人ですか?」
乗車時間は意外と長かった。
彼は学校の先生だと言った。ご丁寧に名刺も差し出してくれた。記憶が曖昧だが、中学か高校の先生で、群馬あたりだったと思う。私も自己紹介と、この旅について話をした。大学のこと、ゼミをやめて旅に出ていること、農家に突撃して桃を齧ったこと、田舎に泊まろうがしたかったこと、昨日それでおばあさんに怒られて堪えていること、でも優しさにも触れられて、やってよかったこと。
先生らしく、時に褒めながら、時に心配し怪訝な顔をしながら、受容してくれた。大学生だったあの頃の私には大人のおじさんに感じたけど、今の私とさほど変わりないのかもしれない。学生の私には、社会人というだけで随分、年配に感じていた。
到着した後、自然と一緒に観光した。綺麗な風景に思わず揃って声をあげたり。写真を撮りあったり。側から見たら歳の差カップルだったと思う。旅先で知り合った教師と女子大生…なんかヤラシイ響きだが、最後はこんなお別れだった。
「知らない人の家に泊まるのはやっぱり心配だよ。ちゃんと宿に泊まりなさい。あ、そうだ…財布に…これ使って」東横インの宿泊チケットだった。そんなもの見たことなかったから驚いたし、はじめましての私に、親身になってくれて、心配してくれて、頭ごなしに否定するわけじゃなく自ら代案を示してくれて、嬉しかった。私もこんな大人になりたいと思った。

先生、お元気にしてますか。
私はあの後、携帯を壊してしまい、メールのやり取りが途切れてしまいました。学校宛に改めてお礼のお手紙を書こうかと思ったのですが、他の先生に怪しまれたらどうしようと(今思えばそれも意味不明ですが)悩んでしまい、送れませんでした。
これが当人の所に届くことはないと思うけど、もし奇跡的に、「こんなこと何年か前にあったな…あの時の子だったりする?!」と思った方がいたら、間違いなくあなたでしょう。こんな出来事を経験してる人、そういません。
本当にありがとう。ひとりぼっちで蔵王を観光しないで済んだし、あなたがくれた東横インのチケットは、疲れ果てた私を山形で救ってくれました。
あなたみたいな人が学校の先生をすることで、学生に与える影響も大きいんだろうなと思います。はじめまして、そしてもう会うこともないであろう私に優しくしてくれた人。子どもたちにはもっと優しいんだろうな。
御釜、青とも緑とも、形容しがたい美しい色をしていたように記憶しています。もう一度見てみたいと思いながらも、あの一度きりです。もしかしたらあれが最初で最後かもしれません。その瞬間が心優しい先生、あなたとでよかったです。

* * *

この後私は、日が暮れかけた石巻で、怪しいお爺さんにナンパされます。人生で一番濃い、とんでもない夜が訪れます。(続)

4.一生忘れられない夜



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