見出し画像

そして、バトンは渡された

週末に購入したロース肉のパックが、本日消費期限を迎えていた。
「6月5日」という字面を見て、小学生の頃から付き合いのある友人の誕生日だったことを思い出した。


あの子がもう31か。

1ヶ月後には自分もその土俵に上がるというのに、しみじみと思った。



大型パックの肉を、少量ずつラップに包んで冷凍する手法は、社会人になってから行いはじめた。学生の時は毎日買い物に行けたし、それほど肉を食べていなかったからだ。


1つ塊を作ったところで、ラップがきれた。


そうだった。サランラップは、最後まで終わりを感じさせない、そういう奴なのである。(半額以下のクソ安いラップは、まだ50cm以上残っている段階から、「もうやめさせてくれや」と言わんばかりに芯から離れ、外界へ飛び出してくる割に切れもせず、私の生活をめちゃくちゃにするのだが、これに関しては以前も記事を書いているので今回は割愛するとしよう)
いつも笑顔で、最後まで僕に何も告げず、突然いなくなったあの日の君のように、サランラップは突然終わりを迎えるのである。


もう部屋着に着替えてしまったし、外に出るのはだるい。しかし、サランラップがなければ、包みようがない。

しかたなく私は、携帯とエコバッグだけを小さなショルダーバッグに入れて、Tシャツと短パンでドラッグストアへ出かけた。



私は難なく、特売のサランラップを1つ購入した。
20cm×50mの、赤いやつだ。


本当はキッチンペーパーも買う必要があったのだけれど、あまり体積のある荷物を持つ気分になれなかったので、それだけを買った。

なんとなく、エコバッグは出さず、直接手に持って店を出た。
サランラップだけを手に持ってみると、なんだかリレーのバトンのようだった。

だんだん、「っていうか、Tシャツに短パンの人が、20cmほどの細長い赤いものを持っていたら、それはもうバトンじゃないですか!?」と思えてきた。


そう思うと、すれ違う人々が、私のスタートを待っているような気さえしてきた。


私は、周囲の期待に応えるように走り出した。


走り出すと、それはもう、ますますバトンだった。適度な重さがあるため、腕を振りやすい。
だんだんスピードが上がっていく、、


私を目撃した人は、完全にリレーをしていると思っただろう。まさか私が、ただラップを買った後に、やみくもに走っている人間だとは思わないはずだ。
なので、念のため、「これを次の走者に誰よりも早く渡さなければ、、!」という表情で走った。



ラップを持った私が、繁華街を駆け抜け、スタバの前を通り、高速の高架下をすり抜けていく、、、


------------


小学校低学年の頃、学年代表のリレー選手だった事を思い出していた。
その時は、5.6年生の時1番足が速かった陸上部の葛原くんより、足が速かった。小柄で可愛いキエちゃんも、たしかに足が速かったけれど、私が、絶対に、誰よりも早くゴールしてやろうと、闘志を燃やしていた。

そうして毎日、月曜だろうが遠足の前日だろうが、明日のことなんか考えず、日が暮れるまで外で遊んだ日々のことを思った。
負けず嫌いで、勝つまで勝負し続けた。未来のことも過去のことも、考えたりしなかった。何もかもが予想できず、ただ全ての力を、現在に注いだ、、、

------------
-------

既にそれは、サランラップとしての役割以上に、バトンであった。そもそも「バトン」という言葉は概念的であるから、それは必ずしも細長い筒である必要はないのだ。
実際、この瞬間、確かにサンラップは、私の過去と現在を繋いでいた、、、



などと、わけのわからない事を言っていないで、早く肉を小分けにして包むべきである。


そして、本日も旭化成に1度ならず感謝をして寝るとしよう。


この記事が参加している募集

スキしてみて

今日やったこと

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?