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大人が思っているほど子どもは子どもじゃないー山田詠美『蝶々の纏足』が私の心を浄化した

昨日は、詩の思い出を書きましたが、今日は本の思い出を書きます。

小学生のころの私は、今よりもずっと大人でした。大人だったというか、大人の空気に敏感だったというべきかもしれません。

水曜日になると決まって機嫌が悪い担任の女の先生の雰囲気。教育実習の女の先生が男の先生に気に入られようとしている仕草。お母さんが親戚の人と話している電話の内容。とにかく小学生の私にとって、大人の行動は全て「お見通し」だったのです。

「子どもだと思って見てるけど、私、全部わかってるよ」

私は心の中でずっとそう思っていました。

自分がそうだったからか、大人になった今、小学生(特に女子)のことを私は子どもだとは思っていません。

しかし、だんたんと私が歳を重ねていくとで、そのギャップは埋められていきました。周りの大人も私のことを子どもとしては見なくなり、「私の中の私」と「大人が考える私」の年齢が近づいていくようになっていったのです。流れゆく時のなかで、私は少女時代の心の中にあった「大人の気持ち」を、ゆっくりと静かに忘れていってしまいます。


そして、その気持ちを鮮明に思い出させてくれたのが、山田詠美の『蝶々の纏足』でした。

この本を読んだとき「私以外にもこんな気持ちになった人がいるんだ」と驚きました。

具体的に何が?とか、どこが?と言うわけではなく、「大人が子どもだと思っている子どもはそんなに子どもじゃない」とか、「大人が思っている子どもなんてどこにもいない」という感覚が、です。

当時、小学生だった私はこういうことを思っていて、でもうまく言葉で伝えられなかっただけなんだ、とはっきりわかりました。そして、私はこの本を読むことで、自分の気持ちが浄化されていくのを感じました。

あの「私だけしか知っていないと思っていた秘密を他の誰かも知っていた」という共犯者同士のような感覚。それはときとして、背徳感であったり、優越感であったりしたのだと思います。本を読むことで、私はそんな気持ちを感じるようになりました。


最後は、お手紙で締めくくりたいと思います。

山田詠美様

あれから25年ほど経ってしまいましたが、お礼を言わせてください。
10代の私を救ってくれた何人かのうちの一人があなたです。
あなたに出会って、大人になるのも悪くないなと思えるようになりました。
そして、若い女の子たちにそんなふうに思ってもらえる大人になろうと思いました。
多少悪いこともしたけど、芯から腐らなかったのは、あなたとあなたの本があったからです。

本当にありがとうございました。

10代でこの本に出会えてよかった。

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