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愛しのマゴット、あなたはかくも麗しく....

マゴット療法を知ってるかい?

人間という生き物はマゴットを創傷の治療に利用したりするんだ。
それは数千年前から知られていた治療法らしい。

あれは6月にしては異様に暑い、週明けの月曜日の事だった。

その朝、バタバタと準備をしていた母は気がついた。お弁当箱が娘のランドセルに入りっぱなしだったってことを...。


「ウゥっ..やばい...水曜日から入れっぱなしだ!」

そう...先週の木曜日は祝日だったのだ。
休み好きなこの国の住人は、祝日の木曜と土曜に挟まれた金曜日は“橋の日”と呼んで休みにする。

学校は水曜日で終わりの長い週末だった。
すでにお弁当を出し忘れて丸4日以上経過していた。

「あぁ〜もうっ!!」

眉間に皺を寄せてドカドカとピアノ横の定位置のランドセルまで急ぐ。

ランドセルの底にお弁当箱が見えた。取り出すと蓋がキッチリ閉まってない。。

“ぱなし”の娘らしい...。

舌打ちをしながら確認のためランドセルを覗くと、一番底に何かが零れ落ちている。

あぁ〜もう!!

呆れて盛大にため息を吐きながら手を突っ込む。

“むにゅ..ょ...”

人生初の感触は本能的にそして、瞬時に“不快感”として識別され脳に伝達された。

「ヒエェ!??」

かろうじてナゾの感触物質を、ランドセルから取り出すまでは保持したが秒で手から放り出した。

パッ!

床に落ちるか速いか、瞬時に微細に分散して動き始めた。

「きゃぁー!」

たった1秒前に手の中で感じた感触と、目前で広がりつつある光景。
その両方は脳で処理できるキャパシティーを余裕で超えていた。

床に蠢くのは小さなマゴットちゃん達だった

絶叫に恐れ慄いたのか、ランドセル奥の暗闇から朝日が照らす広い土地に放たれて不安になったのかマゴットちゃん達は、我先にピアノの下に潜りこもうと身をくねらせている。

※成虫(蝿)は光の方へ、幼虫(マゴット)は暗い所へ向かう習性があるそうだ。

少女の母親はこのショック状態でも辛うじて、彼等の行き先を遮らねば、更にとんでもない事態になると予測した。

「お願い! 箒と塵取り!!!」

「早く!!取ってきてっ!!!!!」


絶叫を聞きつけ集まっていた男子達は、母の悲痛な命令に脱兎の如く「箒と塵取り」を取りに走る。

こんなやり取りの間にも、先陣はピアノの下に辿り着こうとしていた。箒と塵取りをもぎ取るように受け取り、必死になってマゴットちゃん達の行方を遮り掃き集める。

塵取りの中のモノをもう一度確認のために見てみた。何度見てもそれはツヤツヤとしたウジ虫マゴットちゃん達だった。

我が娘のランドセルから....

それは母を打ちのめすには充分な、かつて無いインパクトの事実だった。

この絶望感と無力感よ



そう、冒頭で書いたようにその6月は異常に暑かった。

窓を全開にしていた週末、田舎のこの家に何匹も大きなハエが侵入していた(網戸なんてものは無い)。

ブンブン飛ぶハエが五月蝿くって....

でもそれはよくある田舎の日常の光景だと思っていた。。

あぁ...アレは母親だったのだな...
そんな重要なミッションに励んでいたなんて夢にも思ってなかったよ....

しかし、娘のランドセルから虫が湧くなんていう非日常は、お弁当を出し忘れていなければ...
いや、せめて残さず完食していれば...
いやいや、蓋さえしっかり閉まっていれば決して起こらなかったはず。。
あの指先の不快感と蠢くおぞましい姿が相まって涙目になって娘を叱ったが、いかんせん学校へ行く時間が迫っていた。


「こんなランドセル持って行けないでしょう!?早くこっちのカバンに詰め替えて行きなさい!!」

誰もいなくなった家で、何が事実として起きたのかを反芻してみた。

せめても救いは、ウジ虫の別名が愛らしい“マゴット”であること....

そしてその名前からある療法のことも思い出した。

「マゴット療法」


うろ覚えの名前で検索すると知らなかった知識に触れることができた。
最も彼女の慰めになったのは、ウジ虫は不潔ではないこと。その口先から出る粘液は傷を癒す力(殺菌力)が有る、ということも新しく得た知識だった。

「ウジ虫は汚くって不潔だってのは濡れ衣だったんだ...」


ついでに、

子ども
ランドセル
ウジ虫

というキーワードを入れて検索してみる

“もしか、同じ様な体験をした人がいるかも知れない”

けれどもヒットは、0件....

「ランドセルからウジ虫」

いつか絶対にこの話を書き記そう...
後世で、同じように共感を求めて検索する人が淋しくならない様に....


母親はそう堅く心に誓った。



掃き集めたマゴットちゃん達は新鮮な生き餌として水槽に投入され、アッと言う間に藻屑の様に消えて行った(観賞魚たちに食べられた)ことを、追記しておく。


残酷だ。
生きることは、日常は、ホラーと隣り合わせなのかも知れない。



#私だけかもしれないレア体験

玄関に貼ってある娘が描いたポスター
 1:靴を揃える
2:手を洗う
    3:お弁当箱を台所へ
 4:宿題をする
  5:ルールを守る


元旦にこの様な投稿をして良いのかどうなのか...
大変気持ち悪い話で申し訳ありません🙇🏻‍♀️
初笑いにしてやってくださいませ。

(尚これは紛れもない実話で、長女小4の時のことです。)

どうか嫌にならず今年もお付き合いのほど、どうぞ宜しくお願いいたします🎍❤️‍🩹

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