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返礼品なしのふるさと納税は成り立つのか

税控除受けて、実質タダで地方の特産品がもらえるお得な制度!
よく聞くふるさと納税に対する宣伝文句だ。

これだけ聞くと非常にがめつい。初めて耳にする人からすると詐欺か何か?となりかねない内容である。
ただ上記宣伝文句は嘘ではない。ふるさと納税は正当な「税控除受けて、実質タダで地方の特産品がもらえるお得な制度」なのだ。

ただ、おそらく関係者各位、程度の差はあれど、どこか危うさの上になりたっている制度であることは、心のどこかで認識しているのだろう。
定期的に「返礼品に頼らないふるさと納税を」という趣旨の発言が聞こえてくる。

私は現在、ふるさと納税に係る仕事もしているが、その考えには賛成だ。
その理由は、各受益者、つまり自治体・返礼品事業者・寄付者の意識面における影響と単純にお得を前提としたふるさと納税の持続性に不安があるからである。


ふるさと納税3つの意義

総務省はふるさと納税には3つの大きな意義があるとしている。

1.納税者が寄付先を選択することで、その使われ方を考えるきっかけとなる。税に対する意識が高まり、自分ごととしてとらえる機会となる。

2.応援したい地域に力になれる制度である。

3.自治体が取組をアピールすることで自治体間競争が進む。また、地域のことを改めて考えるきっかけとなる。

納税者と自治体が、お互いの成長を高める新しい関係を築くための制度。
自治体は納税者の「志」に応えられる施策の向上を図り、納税者は地方行政への関心と参加意識を高める。

まさに地方が目指すべき形の一つであろう。
ただ、そう綺麗に事は運ばないのが世の常である。


意義の形骸化

総務省の掲げる3つの意義は、残念ながら多くの自治体において形骸化してしまっていると私は感じている。
もちろん、この理念実現の為に本当に(本当に!)頑張っている自治体もいるが、数だけで言うとごく一部である。

やはり実質タダで特産品が届くという全能感は大きく、多くの自治体は未だ返礼品のお得感を全面的に押し出し、寄付者も多くは通販感覚で「地域」ではなく「返礼品」を選んでいる。
さらに返礼品が選択の要因として大きすぎる為、自治体の取組は目立たない。このため、本来ふるさと納税の本懐となるはずの「寄付の使い道」は当たり障りのないものが連なり、アピールされることも少ない。

また、返礼品を提供する事業者にとってふるさと納税は「自治体が運営代行してくれる通販」という側面がある。ふるさと納税の仕組みと理念を理解している方ばかりではなく、「自治体が手取り足取り何とかしてくれるもの」という意識の方も少なくない。

寄付者の「需要」に基づいて、自治体は返礼品に注力し、寄附の活用とそのアピールを蔑ろにしている。返礼品事業者にとってもコストがかからず儲かる仕組みなので、意義云々は置いといて推進を後押しする。
さらには業務を委託事業者に「丸投げ」している自治体も少なくない。

当初掲げられた意義は失われ、「お得感」に担保された「堕落」とも呼ばれかねない環境が広がっている。もちろん全てがこのような状態という訳ではないが、恐らく関係者各位は大なり小なり現況に危機感を抱いている。
このため定期的に「返礼品に頼らないふるさと納税を」という声が上がってくるのだろう。


返礼品無くして成り立つのか

この一連の流れの根本にあるのは返礼品である。
返礼品がお得だからこそ、寄付者はふるさと納税をし、返礼品目当てにふるさと納税をするからこそ、事業者は返礼品競争に勤しみ、自治体は寄付用途を蔑ろにする。

では返礼品なしでふるさと納税が成り立つか。
実際のところ、「お得感」が減少するほど、ふるさと納税から人々の心は離れていくだろう。
多くの寄付者は「お得だから」寄付しているのである。裏を返せば「お得」じゃないと活用しないということだ。
いくら自治体が「魅力的」な取り組みを頑張っていたとしても、直接的な利益が無ければ応援する人はグッと減ると思われる。たとえ、自分の「ふるさと」だとしても寄付する人は少ないのではないだろうか。

実際、私が関係している自治体にて返礼品なしで寄付を申し込む寄付者は0.5%もいない。
つまり200人に1人もいないということだ。
関連自治体が寄付の活用をプッシュしていないという点もあるだろうが、自治体によって劇的に変わるかについては疑問である。

このように返礼品が呼び水となっている制度で返礼品を無くすのは現実的ではない。ただ返礼品が歪さを生み出している面がある。
元も子もないことをいうと、各自治体がこの現状を認識し、バランス良く運営することが重要となってくるのであろう。
少なくとも私が頑張っていると感じる自治体は、そのように運営している。

自治体は理念を内にしっかりと備え、返礼品事業者を巻き込み、返礼品充実を図りつつも、その精神性をしっかり伝えていく。
返礼品を通じてつながった寄付者に対しては、いただいた支援を「しっかり活用した」取組を伝えることで、「お得感」に担保されたものだけではない支援をお願いする。

事業のスタートとなる自治体が背筋を伸ばすことができれば、返礼品事業者・寄付者に徐々に波及していくのではないか。
楽観的かもしれないが、頑張っている自治体の姿を見ていると、そう感じる。

一関係者としては、このように背筋を伸ばして、バランス感覚をもってふるさと納税に取り組める自治体が増えてくることを祈るばかりである。
現状のふるさと納税の推進は受益者各位への影響、特に意識面への影響がどこか心配である。

ただやはり先述の通り、現実問題として、返礼品無くしてふるさと納税制度が成り立つのは難しいだろう。大いに歪さはあるが、地方を支援するという芽が一気に摘まれるのは惜しい。

一方で、「お得」に捉われない支援の環が広がれば良いなという想いがあるのも正直なところである。まずは自分からと思い、ここ数年は返礼品なしのふるさと納税を行っている。
物欲がない自分としては、これはこれで中々良いものである。元々もらえるはずの無いものだ。元から無かったと思えば、それが意欲のある地域の為になっていると思えば何ということはない。

少しずつ、このような意識が広まっていけば、ふるさと納税の歪さも減少していくではないか、エゴ丸出しだが、最近はそのように考えている。



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