マガジンのカバー画像

Original Sin③[第33話から]現在連載中

8
「おうちに帰るまでは『りんね』です」 マガジン①https://note.com/3z_s/m/mcc32d71a0849🦀⋆*マガジン②https://note.com/3z_…
運営しているクリエイター

記事一覧

第36話.燻製ニシンの虚偽【Original Sin】

「……こういうのって、お金が入っているんじゃないの?」
 地面に落ちた香典袋をしゃがんで拾い集める八足(やたり)の背を、定まらない視界の中、見つめている鏡花。渡したら即座に立ち去るつもりだった八足は、黒と白の水引を直視して、溜息を吐く。
「……葬式で渡すものじゃん」
 受け取りを拒まれた袋を集め終えて立ち上がる八足。鏡花は動きにつられて上を向いて、しかし顔を強張らせ、動けない。
「昔からなんだよ。

もっとみる

第37話.嘘つきのパラドックス【Original Sin】

 駅前のバス停のべンチ。白いスタンドカラーのブラウスと黒いジャンバースカート。黒いキャップを深く被った鏡花が灰色の横髪を俯くままに風に浮かせて、座っている。やがて、隣に通学バッグとクラフト紙の袋が置かれ、学ラン姿の八足(やたり)もべンチに座る。
「あんた、一時間半も待ってたの? 塾の説明はしたろ? 先に行っとけって」
 硬い制服の袖を上げて、チープカシオの針を確認する八足は気まずそうに「……メール

もっとみる

第38話.バックルームのプロバカートル【Original Sin】

 
 車の助手席に乗り込む八足(やたり)。後部座席には、ふわふわとした金髪ボブカット、紺色の制服を着た少女が座っている。傍らにはラベンダー色のランドセル。
「落ち込んでる?」「別に」「連絡先、教えたんでしょ? 来たくなったら来ると思うよ」
 八足がシートベルトを締めたのを確認して、車を出す千景。
「莉恋(りこ)が熱出して、学校に迎えに行ってたんだよね。八足くんを塾で降ろしたら、今日は仕事早退するか

もっとみる

第39話.天空のティーポット【Original Sin】

 
 和室の床の間に押し込まれて置かれた本棚と、床脇の地袋上の本立てに資料集を戻し終える千景。松田が部屋を出た後、梶と國村の前に積まれて、時折、手に取られる資料以外を綺麗に片付ける。
「平安時代から生きている人間の倫理観とか、道徳とか、善悪正邪ってどうなっているんでしょうね?」
 足を崩して座っている二人の前に腰を下ろす千景。
「生まれ変わっているかもしれないなら父親と母親が必要ですし、少なくとも

もっとみる

第40話.ロッシュ限界【Original Sin】

 

 水を含む緩い土に桜海の草履が沈む。千景は玄関ポーチから庭全体に広がる薄い水溜りに目を移す。
「まりかちゃんの事、覚えているの?」
「それなりには」
 梶は桜海にそう返すと、また玄関前のコンクリートにしゃがみ込み、大きな溜息を吐く。
「千景はどうする? 此処で話を訊き続けたら、いよいよ巻き込まれると思うけど?」
「乗り掛かった舟状態だと」
「沈んでいる船なのに?」
 動かない千景と、其の場に

もっとみる

第41話.Image of God【Original Sin】

 それから千景は運転席側のドアを開ける。ケータイを耳に当て、呼び出し音を聴くものの応答は無い。

 遠くから響く音で目を覚ます、りんね。突き当りには白い壁。身体を起こし、逆さまになったウーパールーパーのぬいぐるみを抱き締める。シルクのパジャマを着たりんねはぬいぐるみを抱いたまま、寝室と居間の間の小部屋から、複数の音がするキッチンを覗く。
正面を向き直すと見慣れたローソファの背凭れ。黒いテーブルの上

もっとみる

第42話.亀がアキレスに言ったこと【Original Sin】

「怜莉さん。今日は2007年10月29日で合ってる……?」

2001年10月。
仕事中のまりかは積み重ねた段ボールを抱え、店の裏口から出る。従業員用の自転車が複数並べてある方向。誰かに名前を呼ばれ、顔を上げる。
「……梶さん」

「どうして、あたしの事、思い出したの?」
 店の裏の低いブロック塀に軽く寄りかかる梶。天壇青の様な色のスーツを着ている。まりかもまたカナリア色のエプロン姿で、塀に寄りか

もっとみる

第43話.シミュレーション仮説【Original Sin】

 警察署内の廊下を歩く梶と刑事の小松。
「朝から訪ねてきて、一体何なんですか?」
「警察って24時間いつでも来て良いんじゃないの?」
「大体、何ですか? あの時の部屋って」
 立ち止まる梶を振り返る小松。
「小松が協力的なのは分かるよ? 結果的に怜莉を傷付けたの気にしてるんだろ? 他はどうよ?」
「他? 民間人に協力してもらえる範囲なんて限られています」
「そうじゃなくてさ。同じ場所に同じ人が居て

もっとみる