歳差運動3-⑥

参加者名簿の通し番号と班別の組み合わせによるグループ別の話し合いになるとのことだ。

俺は通し番号の下一桁が4でC班、“しーしー”なんて嫌な語呂合わせだぜ。厄介者を追い払う隠語だよ。            俺は確かに厄介者に違いないが…

同じ学年を担当している異なる市町村の学校から参加している10名前後が話し合いのグループを構成する。            実践報告と意見交換が話し合いの主旨となる。

俺たちのグループは俺を入れて9人。お互い知らぬ者同士のようだ。もちろん俺も誰ひとり知らない。              テーブルを寄せ、円卓にして顔を見合わせるとちょっとした緊張感に包まれる。改めてひとりひとりの顔を見ると溌剌とした若手教師のインパクトを感じる。みんな不安な面持ちでテーブルに置かれた資料に目を落としているが、真剣そのものである。       そこに飲み物などが置かれていたとしたら合コンの一場面だと錯覚するに違いない。もちろん年寄りの俺だけが蚊帳の外になる。

当然、お見合いの仲人然とした俺が話し合いの司会者になった。というよりご指名され押しつけられた。まあ、年の功ってやつだろうよ…

参加者の個性をはかるため、もう一度全員の表情を見た。本当にみんな若い。     

俺に役に立つことができるのだろうか…  などと俺も神妙な気持ちになってきた。

授業開始のチャイム代わりに咳払いをひとつして場を整えた。

「え-、司会を務めさせていただく、北城小学校からまいりました、種田耕一と申します。司会は不慣れですので、皆さんの自由な発言を期待します。よろしくお願いします」

と差し障りのない、定型のあいさつをした。

「それではと…始めに自己紹介としますか…名前と学校名…それから…学校の紹介を道徳的な観点からお願いします」

と、口開けになる先生を指名しようと名簿を見ていたら、“えぇ-?”というような雰囲気になった。               すぐに察しがついた。

「あっ、難しかったですか?スミマセン…説明が足りなくて…」

「たとえば……うちの学校は児童数が少なくって、1年生から6年生までがみんな顔見知りになっていて、休み時間に校庭で遊んでいる様子を見ると、学年関係なく仲よく交流しているようです…とか」

「ついでに自分が道徳的な人間かどうか言ってもらっても構いませんよ。道徳が教科化されましたが…数値化できませんけど、5段階評価で自分は何点かと…」

続けざまに、

「ちなみに私の名前の耕一は…コウの字が耕すとなっていて、その名の通り子どもたちの心を耕すのがうまい! なんて言われてますけど…笑(sns的表現ですみません)」

みんなから一斉に笑いが聞こえてきた。  どうやら若者の緊張感をほぐすことができたようだ。


~続く


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