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『「距離」が消滅していた土曜日』 2020.6.6

 午前9時前、1週間ぶりに電車に乗って出かける。
 駅のホームで電車を待っていて、止まったら、学生が塊のように降りてくる。それは、何ヶ月か前だったら、いつもの光景だけど、先週よりも、電車に人が明らかに多くなっている象徴のような出来事だった。

 電車内では、もう「距離」が消滅していた。
 人数が増えたせいもあって、車内のイスには、人がすきまなく座っている。見事にほぼ全員がマスクをしているが、先週には微妙な「距離」への緊張感があったのだけど、今日は「ソーシャルディスタンス」をとるのが、ほぼ不可能な電車内の密度になっている。

 窓が開いているのは先週と一緒だったが、車内は1週間で変わっていた。
 全体的に「密」になっていて、逃げる場所がないような気持ちになっていて、横を見たら、車内では、ほぼ1人だけのノーマスクの健康な青年が穏やかな顔をして、こちらを見ていた。失礼な発想だけど、彼が感染していて、ここでセキでもしたら、私は確実に感染すると思った。それは、ただの自分だけのイメージだけど、ちょっとこわくなった。だけど、今日は、そんなことで、こわくなるのが、車内ではすでに自分だけではないか、とも思うような空気感だった。

 ソーシャルディスタンスは、電車の中では、もうなかったことになっているのかもしれない。
 東京都内の感染者が増えているというニュースを聞いて、土曜日でさえ、こんな状況になっていたら、それも仕方がないのだろうとも思う。自分もそうだけど、外へ出て働かないといけない人が大幅に減らない限り、東京都内の感染者が減少するのは不可能だと、思った。

 駅に着いたら、電車を待っている女子高生が2人、小さい扇風機を持っている。
 気温が高くなっている。

 電車を降りて、ホームを歩いて、乗り換える。先週までは、人の波の中でも、「距離」を気にしていそうな人が、数人いたと思ったのだけど、今日は、そんなこともできないくらいの密度になってきているし、私も「距離」をとろうとはしているのだけど、それがほぼできなくなっているのは、わかる。

 乗り換えた電車の座席は、びっしりと人がうまっている。
 窓は開いている。
 車内は静かなままなのだけど、明らかに活気が戻ってきているのは、人数が多くなっていることと、緊張感が減ってきているからだと思う。

 日本では、比較的、感染者が少ないのは、民度がうんぬんという発言があったけど、そういう根拠のなさそうな言葉でも、もしかしたら、ゆるみに加担しているのだろうか。それとも、2ヶ月の緊張が続いて、いったん緊急事態宣言が解除されると、東京アラートが発動したとしても、もう緊張感は戻らないだけなのかもしれない。さらには、今日まで、満員電車に1週間乗り続けたとしたら、もう「距離」をあきらめざるを得ないだけなのだろうか。


 テレビなどで見る、学校で小学生が「ソーシャルディスタンス」を保とうとしている光景、隣の子の消しゴムが落ちていても、拾うのではなく、落ちてるよ、と声をかけましょう、などと教師が言っている映像。ライブハウスや映画館などが、これでは採算がとれないような、だけど、十分な「距離」をとるような努力をしているニュース。顔の前にシールドをつけて営業再開をしている銀座などのクラブの光景。テレビ画面などで見ただけに過ぎないのだけど、そうしたいろいろな努力や工夫に比べると、通勤電車への対策は、もっと困難な要素があるのは想像できたとしても、やっぱり足りないと思ってしまう。

 感染拡大防止を本気で継続するのならば、通勤電車のことを考えるよりも前に、あれだけ「夜の街」が連呼されたり、ライブハウスのことを「密」の象徴として語るのは、アンバランスだとは思う。それは、個人的なわずかな経験に過ぎないけれど、1週間で、電車の中の「距離」が消えていたことと、感染者数の増大は、時差があるからイコールではないと思うのだけど、やっぱり関係がありそうで、こわい。自分自身は、経済的なことを、かなりあきらめたとはいえ(だから別の恐怖もあるが)、本当の満員電車を避けられているのだから、恵まれているとは思っても、それでも、「距離」が消滅している土曜日の電車には恐さを感じた。


 帰りの電車も、「距離」をとって座っている座席は、1車両10席のうち、長いものでは一つだけだった。2駅過ぎた頃には、全部の座席で「距離」が消滅していた。

 立っていて、ドアのそばの鉄の手すりに、つい、さわった時に、思った以上の冷たさもあるのだけど、ちょっと体がゾッとしてしまった。この感覚は、過敏かもしれない、という自覚もあるが、すでに少数派になっている可能性が高く感じるほど、電車内は、変わっていた。


 乗り換えても、すでに「距離」はなくなっていた。

 こうした状況を、なるべく避けつつ、それでも、生きていくことができるのだろうか、と思う。だけど、これよりも人が多くいる場所にいなくてはいけないとしたら、それは、人によるけど、とても不安なのは間違いないと思う。電車の中では、人が多くなったら、その時は「距離」をとるのは不可能になってしまう恐さを、今日は少しだけ分かったように思った。

 これからも気をつけて、「距離」を保つ努力もしようと思っているが、第2波が来たら、避け切れる感じがしない。



(他にも、いろいろと書いています↓。クリックして読んでもらえたら、うれしいです)。


「アフターコロナのあとに、適応できない予感がした土曜日」 2020.5.23

「コンビニで、雑誌の表紙を、破ってしまった夜」2020.5.18

「病気についての常識」で、改めて確認してみたいこと。


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