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「心に火をつける業界系アニメ」が、今年に入って、続いたことを考える

 アニメそのものに、そんなに詳しいわけではありませんし、個々の作品を詳細に語れる知識も力もありません。それでも、今年(2020年)に入って、3本、「心に火をつけるような」、それも、いわゆる「業界」を描いたアニメが続いて、それは偶然なのでしょうが、それが続いた意味を考えたいと思いました。


「映像研には手を出すな!」

(番組ホームページ  http://eizouken-anime.com)

 今年に入って、始まったのは、「映像研には手を出すな!」でした。
 アート関係者のツイッターか何かで、おもしろいらしいと、知りました。恥ずかしながら、そんな漫画があって、アニメ化すること自体を知らなかったのですが、監督の湯浅政明の作品は、少しだけ見ていました。

 もう10年も前になってしまったのですが、「四畳半神話体系」という、自意識過剰の、だけど、どこか身に覚えのある大学生の話で、部屋を突き抜け続けていくようなオープニングも印象的でした。それに2014年の「ピンポン」のアニメ化は、漫画でストーリーを知っていたのに、毎週、楽しみで、原作が、これだけ再現されていることに驚き、渋谷のタワーレコード の「ピンポン展」にまで行きました。その原画を見て、オープニングは鉛筆で描かれているのも知って、すごい、と心の中でつぶやいていました。

 こだわりの強い映像。
 それは、「映像研には手を出すな!」では、存分に発揮された、というよりも、その原作を再現するのに必要だと、惜しみなく使われた印象でした。たとえば、登場人物の妄想を映像化するにも、その未完成な感じまできちんと表現されている凄さはありましたが、それは、ストーリーとして必要で、それを正確に表しているだけ、といったようにも見えました。

 主人公が女子高生3人ですが、得意ジャンルが違う2人のクリエーターと、1人のプロデューサーという奇跡の組み合わせで、そのチームが最高で、若い女性を描いているのに、「エロス資産」を使っていないのは、たぶん伝えたいことがブレるからでしょうし、とにかくアニメを創っていくことが、どんなことよりも優先される姿が、本当に気持ちがいい作品でした。ものすごく手間ひまがかかっているのは、素人でも分かるのですが、何かを創りたくなる気持ちになれました。


「ランウェイで笑って」

 同時期に始まったのが「ランウェイで笑って」でした。
 個人的には、最初は、ほとんど興味が持てないファンション業界の話だと思っていました。
 主人公の1人は女子高生。モデル事務所の社長を父に持ち、小さい頃からモデル、それもパリコレを目指すという設定で、小学生の時には158センチとなり、将来も順調そうだったのですが、そこで身長が止まってしまいます。
 読者モデルではなく、プロのモデルを目指すのであれば、身長というのは絶対的な基準というのは、私のような素人でも分かるのですが、そんな不可能と思える状態でも、それでもパリコレをあきらめないのがストーリーの柱の一つです。
 
 もう1人は、男子高校生。デザイナーを目指しているのですが、母親が病気がちで、妹が3人いて、経済的な状況で、その後の道をあきらめそうになる、という限界を持っていて、それを、身長が足りなくてもモデルを目指す女子高生と出会い、一種のチームとして組むことで、またデザイナーの道を歩みはじめます。

 さらに、エリートとしてデザイナーを目指す男子大学生。モデルとしての才能を、身長も含めてふんだんに持っているのに、デザイナーになることを、あきらめられない女性も登場します。

 大人たちは、それなりに安定していますが、若い登場人物は、当然かもしれませんが、どの人物も、自分の努力や工夫ではどうしようもないような、理不尽な条件を、何とかしようとし続けるアニメです。

 特に2人の主人公は、毎回、かなり心にダメージを与えられる出来事があるのですが、それでも、だいたいは、その回の後半には立ち直るといった、ファッション業界が舞台ですが、いわゆる「スポ根」ものの印象でした。あとになって、「少年マガジン」の連載だと知り、納得するような気持ちになれました。

 映像的なことよりも、オーソドックスなストーリーをまっすぐに描いていることで、幅広い年齢層にも受け入れられる作品だと思いました。


「波よ聞いてくれ」

 これまでの2作は、すでにアニメ放映は終わってしまっているのですが、この「波よ聞いてくれ」は、6月上旬現在でも、まだ放送が続いている作品です。

 舞台は北海道。レストランで働いている20代後半の女性が主人公。どこかの飲み屋で、ラジオ局のディレクターと知り合ったことがきっかけで、ローカルFM局パーソナリティになっていく、というストーリーです。素人が、急にプロとなっていく話で、それは現実的ではないようにも思えるのですが、主人公の、しゃべりの能力の高さが、そんなことを考えさせないほど、圧倒的で、ひたむきにプロを目指す、というようなシリアスさよりも、仕事に出会ったように見えます。

 それは、同時に、主人公と出会ったディレクターにとっても、またいろいろなことが、新たに始まっているようなのですが、あとは、周囲の状況とどう戦っていくか、という話が、進んでいきます。

 主人公と同居することになる、ラジオ局の若い女性AD。主人公の元カレなど、登場人物の個性も強く、ストーリーにひきこまれて、笑ったりしていますが、基本的には、ラジオ業界に天才がやってきて力を発揮していく(だけど、それは派手ではなく、わかる人には分かるという限定したレベルから始まる)という話で、それは、見るたびに、気持ちが引き上げられるアニメです。

 それは一見、無理な設定かもしれませんが、アナウンサーなど「話す仕事」は、本当に適性の仕事で、向いているかどうかはすぐにわかる、ということも聞いたことがあります。
 そして、何より北海道からは、大泉洋が出ています。有名な話ですが、芸能活動を始めていたとはいえ、大学生で、ほぼ素人の彼を抜擢して、「水曜どうでしょう」は全国的な知名度を得た、という実話が、こうしたアニメのリアリティの下支えをしているようにも思います。

「水曜どうでしょう」ホームページ  https://www.htb.co.jp/suidou/ 


 今も放映は続いています。すでに終盤ですが、その熱量に乗れれば、今からでも間に合うように思います。


(付記:2020年6月20日に、「波よ聞いてくれ」は最終回を迎えました。ここまで広げた話が、自然に一応のまとまった上に、未来まで予感させる話でした)。


「業界系アニメ」が続いた理由を考える

 どれも、いわゆる「業界系アニメ」だと思います。
 そして、どの作品も、もちろんいろいろな見方はあるとは思うのですが、「心に火をつける」ような熱量のある作品だと思います。しかも、視聴者として見ていて、どの作品も、プロとしてのスキルも、きちんと描かれている「業界系アニメ」であるように思いました。

 ただ、どの業界も、どう考えても隆盛を極めているというよりは、どちらかといえば、下り坂といっていい「業界」という共通点もあるとも考えられます。

 そういった経緯については、様々な分析もされていると思いますが、国全体の勢いが下がっている状態では仕方がないともいえますし、アニメも、アパレルも、ラジオも、かつては「花形」といっていい時もあったのですから、その盛りをすぎたら、下っていくのは必然だとも思います。これまでの人類の歴史でも、そうやって消えていく業界や職業は、どれだけあったのかは、分かりません。

 ただ、とても粗い見方で申し訳ないのですが、たとえば業界全体が下がってくると、輝く個人が現れる、という法則はあるかと思います。それは、同時に、突然、優れた作品があらわれる、といった現象でもあるのでしょう。

 今回、こうして半年の間に、「心に火をつける業界系アニメ」が続いたのは、衰退する一方になるかもしれない業界に、新しい才能をリクルーティングするためではないか、と思いました。もちろん、製作者側に、そんな意識はないと思いますが、そんな役割を担っているように感じました。

 人がいなければ、その世界は、必ず衰退し、そして、場合によっては消滅するのは、避けられない運命のようなものだと思います。だから、生き残ろうとするならば、新しい人を外から、できたら若い人間を引き入れようとして、今回、偶然ですが、形になったことが、こうして「心に火をつけるような業界系アニメ」が続いた理由だと思っています。

 もちろん、それは一つの狭い見方で、あくまで偶然で、しかも的外れな分析の可能性も高いのですが、この3作を見ていて、自分が若くて、やる気もあったら、アニメか、アパレルか、ラジオか、そこに未来があるかどうかもわからないけど、それも踏まえた上で、どこかの業界に入ろうと思っていたのではないか、と考えたせいもあります。

 そういう偶然の瞬間があるかもしれない、と思えたこと自体が、視聴者として幸運でしたが、あと10年くらいたって、それぞれの業界の衰退をなかったことにするような才能があらわれて、その人物が、もしも、こうしたアニメを見たことがキッカケであれば、この粗い見方が正しいことが証明されるかもしれません。(かなり確率は低そうです)。

 こうしたことが全て、妄想に近いとしても、それでも、この時期に、まっすぐな作品を続けて見られたことも、こうして他の人にも見て欲しくて、何か書こうと思えたことも、自分にとっては、幸運でした。


(参考資料)

https://sokoani.com 『「そこ あに」そこそこアニメを語るネットラジオ』



(他にもいろいろと書いています↓。クリックして読んでもらえたら、ありがたく思います)。

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