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とても個人的な平成史④「オタク文化の興隆と変化と浸透」 エヴァンゲリオンの衝撃

 1997年夏。平成9年。
 「新世紀エヴァンゲリオン」という名前は知っていた。どこかで、「ガンダム」のパクリではないか、という気持ちがあった。「ガンダム」も、ろくに見ていないのに、ちらっと見かけていたエヴェンゲリオンは、小さい頃に見ていた「マジンガーZ」から始まるロボットアニメの延長線上にあって、そして、もしかしたら、新しさを更新しないものではないか、とまで思っていた。

 そんな風に、ロクに知りもしないのに、無意識に近いところで自信を持てるのは、自分自身は、物心がつく前から「鉄腕アトム」を見ていて、そのオープニングの時に、よろこんで食卓のまわりを小走りしていたらしい。そういう、アニメとか特撮が幼児期からそばにあって、嫌でも身に染みている世代だという、あまり根拠のない自信があるせいだと思う。

 本当に遅れに遅れた視聴者として、夜中に初めて、ちゃんと最初のテレビシリーズ「新世紀エヴァンゲリオン」を見たのが1997年の夏のことだった。映画の公開を控えて、何日かで一挙に再放送をしてくれたからだった。

 とにかく映像の情報量と圧縮度が尋常ではなかった。気持ち良くて、気持ち悪くて、気持ち良くて、気持ち悪くて、気持ちがいい。本当はもっと重層的に重なるように、ジェットのエンジン音が無段階に駆け上がって音階をあげていくように、ほぼ強制的に感覚が刺激され続け、最終的には、気持ちのよくなる映像だった。

 オープニングテーマの映像も、開始してから50秒以降。歌のサビにかかる前から、画面が、たたみかけるように、とても短い時間で変わっていき、その時点で、すでに刺激が重層的になっていた。

 見る前に、どこか軽く考えていた自分は、愚かだった。確かに、見たことがあるような要素ばかりにも思えた部分はあったのに、これまでに経験したことがないような映像ばかりで構成されていた。まだ、こんな作品が生まれてくる可能性があったことに、驚きもあり、夜中なのに、目が離せなくなっていた。

 テレビシリーズは、回を重ねるごとに、途中からバトルよりも、内省的な描写が多くなり、人によっては、暗いと拒絶されるような内容になっても、個人的には何しろ気持ち悪くて気持ち良くて、を繰り返し刺激される映像のままだった。最終2話は、制作が間に合わなくなったせいか、静止画が多用され、すでにアニメでもなくなりかけていた。しかも、どこか、現実に帰れ、といったメッセージすらありそうだったのだけど、皮肉なことに、そういうことも含めて魅力的な映像になっていた。のちに劇場版「Air/まごころを、君に」でも、映画を見ている客席が映ったりと、やはり日常に戻れ、というメッセージがあるようにも見えたが、それでも、そういうことも含めて魅力的だった。30歳を過ぎて、改めて、こんなに惹きつけられるアニメが出てくるとは思わなかった。見る前とは、気持ちがまったく違っていた。これまで、見ないで、軽く考えていた自分は、間違っていたと思った。

 

 「エヴァンゲリオン」を見て、思い出していたのは、過去のアニメの不満点だった。ガンダムを見てきた人には、既知のことだと思うが、疑問なく巨大ロボに乗り込む主人公の屈託のなさは謎だったし、いろいろなメカの動きも、ところどころ遅すぎた。

 エヴァンゲリオンは、これまでのあらゆるアニメのパクリ、みたいなことも言われていたのを、いろいろな場所で見た気もしたのだけど、それは、これまでのアニメの要素を全部入れた上で、その不満点を解消するような作りだから、そう見えても当然ではないか、とも思うようになった。今だに「エヴァ」と略称で呼べないくらいで、熱心なファンに対しては、どこか申し訳ないようなレベルの視聴者だとは思うのだけど、そんなことを、考えるようになった。
 登場するシトは、ずっと正体不明で、もちろん名前がついていたりすることもなかったし、街の色や機械の古び方や、ドアの閉まり方のスピードの速さなど、過去に感じた巨大ロボットアニメへの不満が、すべてが解消されているように思った。


 「エヴァンゲリオン」を制作した人は、おそらく自分と似た世代で、小さい頃からアニメを見続けてきて、少なくとも、それまでの不満は解消したいと思って、それをとんでもない力で実現させてしまったのではないか、というのが、素朴な感想だった。そして、映像の魅力で、ストーリーや内容は、分かりにくいとしても、自分の内面的なことをひたすら語っていたとしても、見せることができる凄さがあった。ものすごく美しいメロディーとアレンジにパッケージされて、個人的な語りだけを歌に乗せたような楽曲が大ヒットする、という構造と似ているのかもしれない。監督の庵野秀明が、ほぼ同世代なのも知った。


 さらに、気がついたこともあった。
 大人になり、昔のアニメの話になった時に、他の人が生き生きと語る作品の中に、「アルプスの少女ハイジ」があって、その記憶が、自分に、ほぼなかったのが少し不思議だった。「ハイジ」とまったく同じ日曜日の午後7時半に家で見ていたのは「宇宙戦艦ヤマト」で、そちらをみんなが見ていると思っていたのに、実は低視聴率だというのを知ったのは、それから随分とあとだった。でも、そこでヤマトを選んでいたことが、そんなに本格的でないとしても、すでにオタク的な感覚だったのかも、と気づいたのは、「エヴァンゲリオン」を見てからだった。個人的なこととはいえ、自分の20年間のことが、少し塗り替えられるような気持ちまであった。

 自分では、おたく的なものは遠いと思っていて、それを避けたい気持ちになるのは、おたくと言われている人たちの、人との関係性がどうも好きになれなかったせいもある。そのことは自分の誤解や理解不足があるとしても、その避けたい気持ちに拍車をかけたのが、東京・埼玉連続幼女誘拐殺害事件であり、それはちょうど昭和から平成にかけてのことだった。犯人が、おたくではないか、といわれたこともあり、おたくは、隠さなくてはいけないことのように思われる時期が確かにあった。

 そうした後ろめたさを忘れさせたのが、エヴァンゲリオンの作品としての凄さと、それに伴う経済的な大成功「社会現象」だったのではないか。そのことで、「おたく」もしくは「オタク」への見方まで変えた可能性も高い。

 この「社会現象」は、経済的な成功という輝かしさと共にあったが、作品そのものは、すべてを照らす明るさではなく、それこそ、オタク的な暗さも闇のように抱えたまま、拡散していった。そのことは、オタクの時代は終わったという見方もあり、もしかしたら、そうなのかもしれない。だけど、このエヴェンゲリオンの、暗さも含めた構成要素は、少しずつ下っていくような平成の歩みと相性がよく、社会のすみずみまで浸透していったのではないだろうか。薄くなってしまえば、表面的には、オタクも、おたくも存在しないように見える。それが平成という時代で完了したことなのかもしれない。

「エヴァンゲリオン」の中にもあったように思えた、現実に帰れ、というメッセージに逆行するように、その後、深夜アニメというジャンルが成立したのも、平成の時代だった。

 2017年9月号の「芸術新潮」で、は、「日本アニメ100年にふさわしいランキング」が特集されていた。「宇宙戦艦ヤマト」と、「機動戦士ガンダム」の両作品2位の上の、1位が「エヴァンゲリオン」だった。

 平成が終わって、令和に入り、2020年の6月には、映画「シン・エヴァンゲリオン」が公開される予定だった。そこで、2007年から始まっていた 新しいエヴァンゲリオンが終わるはずだったのが、コロナ禍のため、公開が延期になったままでもある。
 公式ホームページには「さらば、全てのエヴァンゲリオン。」の文字がある。
 5月には、いろいろなメディアで、これまでの「エヴァンゲリオン」が見られるらしい。

 個人的にも、どうやら衝撃はまだ続いている。ユニクロがTシャツを販売しているのを知り、よくできていると思い、欲しくなって、2着買った。送られてきた段ボールまで、期待に応えてくれるものだった。開ける前から、ちょっとワクワクした。

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この「とても個人的な平成史」シリーズについて

「昭和らしい」とか、古くさいという意味も含めて「昭和っぽい」みたいな言い方を聞いたことはありますが、「平成っぽい」や「平成らしさ」は、あまり聞いた事がないような気がします。
 新しい元号が始まって、すぐに今の恐慌のような状態になってしまい、「平成らしさ」を振り返る前に、このまま、いろいろなことが消えていってしまうようにも思いました。
 だから、家にいる時間が多い時に、個人的に「平成史」を少しずつでも、書いていこうと思いました。私自身の、とても小さく、消えてしまいそうな、ささいな出来事や思い出しか書けませんが、もし、他の方々の「平成史」も集まっていけば、その記憶の集積としての「平成の印象」が出来上がるのではないかと思います。


(参考資料)

ウィキペディア

東京・埼玉連続幼女誘拐殺人事件

https://ja.wikipedia.org/wiki/東京・埼玉連続幼女誘拐殺人事件
深夜アニメ
https://ja.wikipedia.org/wiki/深夜アニメ#概要


(他にもいろいろと書いています↓。もし、よろしかったら、クリックして読んでもらえると、うれしく思います)。

とても個人的な平成史③「アニメが産業に成長した時代」  ガンダムが大仏に見えた日

とても個人的な平成史②「変わらなさの象徴」 守りが堅い人・所ジョージ

とても個人的な音楽史③「シド・ヴィシャス」の「マイウェイ」。



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