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「実質」が「情報」をこえる幸福感。

 最初は、本当に恥ずかしいほど、ミーハーな動機でした。

 テレビを見ていて、ドラマ仕立てとはいえ、毎回、役者の人たちの訪れる「グルメバーガー 」といわれるお店の、ハンバーガーが、 とてもおいしそうでした。
 それは、演技力によって、演出によって、よりそういう風に見えていることを、頭でわかりながらも、やっぱり見ていて、少し幸福感をわけてもらったような気持ちになっていたようで、自分の表情もやや柔らかくなっていたように思います。
 
 そして、いつのまにか「食べたい」という気持ちが準備されていたようでした。

外食自粛

 今年になって、世界はコロナ禍に覆われて、そして、外出自粛の時期も続き、家族に喘息を持っている人間がいると、より感染に気をつけなくてはいけなくて、そのせいか、緊急事態宣言が発出され、解除されても、あまり外へ出かける気も起きず、外食は、より感染リスクが高まるような気がして、よけいに行かない、というよりは、行けませんでした。

 それでも、6月の真夏日には、近所ですが、ソーシャルディスタンスとビニールに覆われたマクドナルドに行き、ソフトクリームを食べたこともありました(リンクあり)。ただ、その時も、短い滞在時間で、同じフロアにいるお客さんは数名だったにもかかわらず、周囲を見て、人々の動きにも敏感になり、最初は味もよく分からなかったのですが、やはりなめているうちに、おいしいがまさってきて、本当に久しぶりのささやかな外食は、うれしい気持ちになりました。その時は、それでも緊張感があったことが印象に残り、再び、外食に行く気持ちには、あまりなれませんでした。

 それから少しあとに、見ていたのが、「女子グルメバーガー部」でした。金曜日の深夜の放送を録画して、昼間に視聴していました。7月から始まり、思った以上に、「グルメバーガー」がおいしそうで、そういうネーミングにすることで、今までは2000円近い金額に、気持ちが敬遠していたのですが、そこにしかないもの、とてもおいしいものだったら、値段相応かも、と思うようになったのは、外食ができない、してはいけない、という7月から、3ヶ月かけて、毎週、その番組を見続けて、微妙に洗脳されていたのかもしれません。

美術館とグルメバーガー

 季節が進んでも、コロナへの新しい感染者は、それほど減らないこともあり、感染予防に気をつけたり、混んでいる電車は避けるような生活は続けていました。

 それでも、外へ行くたびに、そんな緊張感を持っている人間は自分だけではないか、と思うこともあったのですが、それでも、これまでの習慣で、ずっと見てきたアートには触れたくなり、そして、美術館だったら空いているとも思って、再び出かけ始めたのが8月でした。

 それは、とても楽しい経験で、自分にとっては必要なことだと思ったりもしたのですが、すぐに頻繁に行ったわけではなく、でも、どうしても見たい展覧会があったので、事前予約をして、出かけたのが、コロナ禍になって最初に美術館に行ってから、1ヶ月くらいは過ぎていました。

 その頃は、全12回の「女子グルメバーガー部」も終盤に差しかかり、毎週、新しいお店に訪れ、それがどこにあるかも分かっていたのですが、自分たちが出かけたい場所とは距離が離れていて、だから、わざわざ「グルメバーガー 」だけを食べにいくのは、ちょっとハードルが高いままでした。

 だけど、竹橋の美術館に行く時は、これまで番組で見てきた「グルメバーガー 」だったら、末広町で降りたら、近い場所がある。昼ごろに美術館に行って、ゆっくり見て、午後3時くらいに、食事をすれば、夕方の通勤ラッシュまでには帰ってこれる。そんな勝手なスケジュールを頭の中で組んでいたら、ちょっと贅沢な気分になれました。
 美術館とグルメバーガー 。
 1日で、どちらも行けたら、それは充実した時間になると思いました。

初めての「グルメバーガー」

 美術館の作品は、とてもよかったので、(リンクあり)思ったよりも、いい時間になりました。

 そして、展覧会を、ゆっくりと見ることができたあと、妻に相談をしたら、まだそんなに疲れていないし、バーガーを食べたいというので、地下鉄を乗り継ぐことにしました。

 最寄駅で降りて、歩いたら、そこは何度か来ていた「アーツ千代田3331」の横を通りました。その施設は、元は学校だったということは知っていましたが、そこを通り過ぎて、側面から見るのは初めてでした。

「グルメバーガー 」の店は、確か、ピンクのドアだったはず、とドラマを見た時の記憶と照らし合わせていたら、思ったよりも、近くに、どちらかといえば、ひっそりとありました。

 あ、あの時、あのロリータファッションの若い女優さんが入っていった店だ。ここだったのか。何度か近くまで来ていたのに、気がつかなかった。

 中をのぞいたら、お客さんは3組くらい。そんなに『密』にはなっていないのを確認して、ドアをあけて、入る。中もピンクだったはずだけど、そんなに派手でなくて、テレビで見た感じよりも落ち着いている。

 妻と一緒に向き合って座る。
 他のお客さんが食べているバーガー。飲んでいるのは、あ、確か、あれはミルクセーキだ、そういえば、このお店の看板のところに、それがあったから、ここの名物だったし、たしか、テレビでも飲んでた。

 黙ったままだったのだけど、そんな、これまでの「情報」で、頭の中は忙しかったと思います。

ドーナツではさまれている「ルーサーバーガー」

 メニューを見ている時も、まだ頭の中は「情報」で忙しかったのですが、妻と話をして、どれにする?という話になり、妻は、アボカドバーガーにする、というので、せっかくだから、チーズをのせたら?というと、それだとおなかいっぱいになっちゃうから、と言い、微妙に小競りあったものの、確かに無理に満腹になっても、と思い、妻の注文は決まりました。

 わたしは、確かテレビ番組でも言っていた、ドーナツではさまれたバーガー(「ルーサーバーガー」)が気になっていたので、甘いものではさまれていることに、微妙な抵抗感はありましたが、もしかしたら、このお店には、2度とこないかもしれない。そんなことを思って、やっぱり朝から甘いパンを食べていたアメリカ出張のことも思い出し、そして、ここしかないもの、だと思って、頼みました。

 今日は美術館も行ったし、待っている時間も妻と二人ですから、何を話すでもなく話しながら、待っていて、周囲も見ていました。いま立った二人のお客さんは親子かな、片方のミルクセーキが半分くらい残っている、といったことが気になったりもしますが、本当に余計なお世話でした。そして、ドリンクは、ジンジャエールと、コーラにしたけれど、まだミルクセーキに未練があったから、そうやって目に入るのだと思いました。それでも、二人で相談して、バーガーを食べたら、たぶんミルクセーキまで飲めないかも、という話になり、お腹具合と相談して、もし、余力があったら頼もう、ということになりました。

「実質」が「情報」を上回る幸福感

 バーガーが来ました。

 ドーナツではさまれていて、一番上のドーナツには砂糖が塗ってあるので、気をつけないと、紙についてしまう、と思い、なんとなく持ち方に悩みながらも、テーブルにある包み紙をとって、二人で、ハンバーガーに、久しぶりに、とまどいながらも、かぶりつきました。

 口の中に、いろいろな味が広がって、ふくらんで、そして、最初はドーナツの甘さが気になったのですが、食べていると、ハンバーガーの全体の味の、ちゃんと一員になっているのが分かりました。そんなことを思っていても、途中から、やっぱり、ただおいしかったし、食べ進めると、満足感が広がってきます。

 「今は、情報を食べる時代」みたいな言い方をよく聞くし、ある意味本当だと思いますし、今日もついさっきまでは「情報」を食べに来ていたような気持ちになっていましたが、こうして、食べていると、そして、こぼれないように、でも、味を逃さないように、などと思って、ただ食べていると、おいしくて、それは「実質」が「情報」を上回った瞬間で、シンプルに幸福感が広がる時間でした。

 そうやって、顔のあちこちに、いろいろなソースをつけながら、けっこう必死で食べて、妻の様子もみて、おいしい?と聞いたら、笑顔で答えてくれたり、二人で、互いのバーガーを交換して食べて、感想を言い合ったりして、その時間はずっと充実していました。

 たしか、1400円とか、1600円くらいはしたのですが、外食をして、これだけ幸福感を味わえるとは思いませんでした。それは、久しぶりにちゃんと外食をした、ということもあるのでしょうが、今、こうして書いていても、あの時に食べた満足感や充実した感じは、思い出せる気がします。

 おいしいものは、ありがたい。

 妻と一緒に食べ終えて、ミルクセーキについては、微妙に迷って、だけど、年齢的にも無理すると、あれなので、次に来た時に、と思いました。「アーツ千代田3331」に来た時には寄りたいけれど、その一方で、ここでこんなに幸せな感じがするのだったら、あの番組で見た、別の店にも行きたい気持ちはありました。まだ「情報」と「実質」の間で、揺れている感じなのかもしれません。

 いい1日でした。




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コロナ渦中の横浜トリエンナーレ

三浦みかんを、いただきました。

暮らしまわりのこと。

読書感想 「食べたくなる本」 三浦哲哉 『「食」への健全な距離感』。

「コロナ禍日記 ー 身のまわりの気持ち」③ 2020年5月   (有料マガジンです)。


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