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言葉を考える③「亜人」…「世界」をつくるタイトル

 今回は、4年も前のことで、すみませんが、アニメのタイトルについて、考えたいと思いました。

「亜人」

 原作は、2012年から連載されている漫画であり、その原作を読んでいないので、何かを語る資格はないのかもしれませんが、そのアニメの第1回目に、とても感心し、今もタイトルやネーミングなどで「世界」をつくる、といったことを考える時に思い出します。

「亜人」とは、人間なのですが、死なない人間です。何回死んでも、何回でも生き返る存在です。しかも、前回の死因がケガだったりした場合は、生き返る時は治っていたりします。
 しかも、様々な特徴は、一般的な人間と差がないため、死んで、生き返って、初めて「亜人」だったことがわかる、という設定です。

 アニメ放映の、第1回目は、そうした存在が過去に戦場で発見され、それが現在は行方不明であり、ただ、それが「死なない」だけなので、本当にいるかどうかもわからないが、高校生が授業で習っているだけに、事実なのだろうという描写があります。

 その死なない人間に「亜人」という名前をつけたところが、すごい見定めだと思いました。

差別の構造

「亜人」の「亜」は、おそらくは「亜流」の「亜」です。
 生物的にいえば、不死の存在であるのですから、一般的な人間よりも「上」の存在といっていいはずです。それなのに、そこに「亜流」の「亜」をつける、というのは、一般的な人間と比べたら、「二流の人間」といっているようなものです。

 差別の構造が、ここにあらわれているように思いました。

 その背景にあるのは、たぶん恐れです。
 死なない人間、という存在は、すでに生物といえるかどうか分からないので、ある意味では「神」として扱われてもおかしくないのですが、少数であること、表に出てこないことで、ある種の都市伝説として扱われ、一般的には、縁遠い存在にもなっています。

 そして、死なない、というのは、理解が出来にくいことです。
 不死へのあこがれがある以上、どこか、自分もそうであったら、という願望があるはずですが、でも、死ななければわかりません。そして、「亜人」でない以上、死んだら、そこで終わりです。

 そんなあこがれや、理解のできにくさ、畏怖などが混じっていけば、自分の心の平安を保つためには、自分と関係ないことにして、さらに「下」の存在として考えたほうが安心ができます。

 もし、死なない人間が大量にいたとしたら、それは一般的な人間よりも「上」にたってしまう可能性もあるのだけど、どうやら本当に少数らしく、あまり表に出てくることもない。それであれば、わたしたち「死んでしまう一般的な人間」こそが「本当の人間」であって、「死なない人間は、人間に似た何か、でしかない」と思ってしまえば、そこで、安心もできますが、それは、同時に、差別が生じる瞬間でもあるはずです。

もし「亜人」がいたとしたら

 主人公の高校生は、大勢の人が見守る前でトラックにひかれ、その場で生き返ったために「亜人」であることが分かり(といっても本人もわざとひかれたわけでもなく、自分自身も、初めて知るのですが)、政府筋などに追われることになります。

 話が進むと、こうしたストーリーによくあるように、不死の存在である「亜人」は、国がからむ某研究所に閉じ込められ、絶対に死なないし、生き返った時は、その前の死因なども治っていているため、人体実験で、あらゆる殺され方をされていたりします。
 おそらく、他の「亜人」も見つかったら、恐れと差別の中で、こうした扱いを受けているに違いありません。だから、「亜人」は、それがバレないように生きていくしかないでしょう。

 質の違う存在。少数。しかも、優れた能力。

 もし、現実に「亜人」がいたら、畏怖と差別とともに、まるでいなかったように扱われる確率が高いのではないか、と思わせるリアリティが、「亜人」のアニメの第1回目にはありました。

見たかった「亜人」のストーリー

 第2回目からも楽しみにしていたのですが、途中から「亜人」には、「ジョジョの奇妙な冒険」に出てくる「スタンド」(本人の分身で特殊能力を持つ戦う存在)のようなものを出せる能力もあることが分かり、どんどんバトルものになっていって、勝手ながら、ちょっとがっかりしました。

 その戦いは「人間+亜人」VS「亜人」の、これまで「死なない存在」であることを理由に、無限に殺されると言う「差別」を受けてきた「亜人」の戦いでもあると思いました。だから、その戦いを先導する「亜人」の元・軍人は、とても危険で正しくない存在で、こういう人が「亜人」ではいけないような人ですが、それでも、ある種の正当性は、この戦いに存在していると思います。


 ただ、個人的には、「亜人」は、ただ死なない存在で、そのことで「忌避」と「差別」を受け続け、その中で、どうやって生き残っていくのか。そして、人間の側がどうやって「亜人」と共存していくのか。しかも、全員が、一般的な人間である保証もなく、もしかしたら、自分も「亜人」かもしれない、という中で、どうやって社会を再構築していくのか。(感染しているという前提で生活する、という現在と微妙に似ているかもしれません)。

 
 そんなストーリーのアニメを見たかったのですが、それは地味というか、ややこしくて、視聴率が低迷するかも、とは感じ、バトルものになるのは、仕方がないのかな、と思いながらも、それでも見続けたのは、バトルを先導する元・軍人の「死なない」ことを前提にした戦い方に興味をひかれるところがあったからです。銃で撃たれ、動けなくなったら、自らの頭を撃ち抜き、一度死んで、生き返ると、その怪我が治っています。相手にしたら、本当に恐いと思いますが、そうした「亜人」を相手にする、一般の人間側の戸惑いも含めての戦い方も、考えさせられるところがありました。

 死なない相手をどうやって捕獲し、しかも無力化するか、といえば、生き返ったとしても、すぐに死んでしまうような、過酷で、外部と遮断された環境に閉じ込め続けるしかなくて、それは、核のことも連想させます。さらには、西遊記の孫悟空は、山の下に閉じ込められていた、という描写があったはずですから、孫悟空も「亜人」だったのかもしれない、といったことまで考えが広がるので、私が無知なだけで、こうしたテーマは古今東西で、無限に描かれていたことだと、改めて気がつきます。

「死なない人間」の、死の概念

 さらに、できたら描いて欲しかったのが、「亜人」という(この名称に対して、当事者がどう思っているのか、はっきりとは分かりませんでしたが)存在が、死に対して、どのように考えているのかも、もう少し描いて欲しかったと思いました。(ただ、原作を読んでいないので、あくまでテレビアニメへの感想であり、もし原作に十分に描かれていたら、すみません)。


 死んでも生き返る。
 確かに、それは何度も経験すれば、そのことに慣れが出てくるかもしれません。
 だけど、絶対に無限にそれが続く保証はないので、毎回、死ぬことに対しての恐れは、一般的な人間とは、決定的に違うのか、それとも意外と、それに対しては似ているのか。
 さらには、死なない存在であるとしたら、その無限の寿命を持つ人間が、どのような思考を持つようになるのか、それとも意外と一般的な人間と変わらないのか。せっかくだから、そのあたりも見たかったというのは、視聴者のワガママだとは思います。


 アニメでは、「亜人」の死に関して、言及され、それが、どういうものか、ある意味、証明される場面もあります。

「差別」されるのなら、戦いのあとの「支配」を選ぼうとしている元・軍人の「亜人」と、その方法を阻止しようとする高校生の主人公である「亜人」が戦った時、「亜人」の死について、元・軍人が語っています。

 高校生の主人公をおいつめ、「亜人」は本当に死なないのか、といったことを問いかけます。

「亜人」は死んでも生き返る。それは確かだ。だけど、首を切り落として、その頭部を、体から遠くに放置した場合、胴体側から、新しい頭部が生えてくる。その新しい頭部は、それまでの頭部と同じという保証はない。それまでの意識や記憶は、古い頭部と共に消滅してしまうかもしれない。それは「亜人」の死といえないだろうか。

 そして、高校生の主人公の頭部を切り離そうとするのですが、こうしたストーリーの常として、頭部を切り離され、遠い場所に放置されたのは、元・軍人のほうでした。

 ただ、その復活した頭部は、あっさりと、それまでの記憶や意識は保持されていることが示されてしまったので、「亜人」は、「本当に死なない」ことになりました。

 これが、もし、新しい頭部には、違う意識が宿るような展開になったら、その意識は誰なのか。最初の頭部を持つ「亜人」は、死んでいないのか、それとも死んだといえるのか、と複雑なテーマがまた増えて、興味深くなりそうだったので、あっさりと復活してしまったことに、ワガママな視聴者としては、やっぱりちょっと残念でした。

 ただ、そんなあれこれ文句みたいなモノを言ったとしても、死なない人間に「亜人」というネーミングをして、それをタイトルにしたことは、すごいことだと、今でも思っています。そのタイトルがなかったら、こんな風にいろいろなことを考えることさえ、できなかったはずでした。


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