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「沈黙の13日間」― コンピュータ弱者の記録

 復活した起動音の後に、いつものようにりんごのマークが現れ、その下に白いラインが伸びてから、伸びきって、毎日使っているデスクトップになるはずだった。

 だけど、ラインが伸び切る前に、また画面が黒くなり、起動音がしてりんごのマークが現れ、ラインが伸びきらず、また画面が黒くなって起動音がしてりんごのマークが出てきての繰り返しが続くだけだった。

 何か、怖くなった。

1日目

 もう1回、電源を切って、また始めても、同じことの繰り返しになり、そのうちにノートブックコンピューターのフタを閉めても、ジャーンという起動音が止まらなくて、怖かった。

 それで、また電源を切って、その後に、キーボードを押して、以前のマックブックプロと同様な操作をしたのだけど、それは、何にもならず、ただ、同じことの繰り返しになった。

 その時点で、いろいろなことが嫌になり、復旧に時間がかかりそうだったので、携帯も持っていないので(リンクあり)、まずは久しぶりにファックスを使ったり、手紙を書いたりして、やや急ぎの連絡をした後に、ご近所の方に調べてもらったアップルサポートの電話をした。

 去年の夏に、8年ぶりにコンピューターを買い替えたのは、ヤフーのサイトすら開けなくなって、壊れていないけれど、実際は使えなくなっていたからだった。その時は、あまりにもマシンの状況が違ってしまったので、恥ずかしい話だけど、独力で新たに設定する自信もなかったので、初めてアップルストアでマックブックプロを買って、設定までをお願いすることにした。

 その時に、表参道のアップルストアは、残念ながら工事中だったので、全貌が分からなかったのだけど、20年も使ってきたのに、あまりにも未熟なユーザーにも親切で、でも適度な距離を保って接してくれて、それは、行ったことがないのだけど、インターナショナルスクールが、こんな感じなのかもしれない、と思った。

 それまでは電器店などで購入し続けたのは、ポイントがついたりするせいもあったのだけど、アップルストアには去年の夏に初めて行って、遠かった場所が気持ち的には近くなっていた。


 自分にとっては、マックは「オーバースペック」なのは分かっているし、ある意味では「分不相応」なので、ずっと後ろめたい気持ちも続いている。

 1999年に、ワープロかコンピューターを買うか悩んだ。文章を書くことについてだったら、まだそんな選択で迷うような時代だった。さらに、ウインドウズか、マックかで、迷った。当時は、アップルは倒産するのではないか、といわれた時代だったのだけど、コンピューターに詳しい知人が、アップルを使っていたこともあり、それからマックを使い続けている。ほぼワードとメールとサファリ、ここ10年でやっとパワーポイントを使えるようになったレベルで、上達したのは文章を書くスピードだけだったかもしれない。

 だけど、使い続けていると愛着も生じるし、機械に弱い人間だから、最初に慣れたもの以外は、使いにくくなってしまって、今もマックを使い続けているのだけど、他のマックユーザーは基本的にコンピューターに強い印象があるので、いつも後ろめたかったり、恥ずかしいまま時間がたった。


 2020年、りんごのマークが無限にリピートされるような状況になった午後に、アップルサポートに電話をした。つながるまで、しばらく待ってから、サポートのスタッフに指示を受け、OSの再インストールのところまで進んだが、ワイファイがないと、次に進めないことがわかった。家にはないし、近所の方にもいないし、どうしようもないので、いつもADSLでOSの更新はしているので何とかならないでしょうか、とお願いをしたら、さらに違うスタッフに変わってくれた。

 でも、どちらにしても、ワイファイがないと無理で、スターバックスやネットカフェ、最終的には近所のガストの電話番号まで教えてくれたが、どう考えても、自分だけではうまく行く気がしなかったので、御礼を言って、電話を切った時には、アップルストアへ持ち込もうと決めていたが、1時間話をしただけで、疲労し、それに妻と相談をして、アップルストアに出かける日を決めようと思った。

 明日は用事で出かけるから、あさってに電話をしようと決めていた。
 情けないのだけど、これだけで疲れていた。

2日目

 noteの連続投稿を9ヶ月続けてきたのだけど、この日に投稿できないと、それが途切れることになる(リンクあり)。昼間は用事があって、忘れていたのだけど、夜になって、12時過ぎたら、その連続更新が途絶えることになって、やっぱり時計も意識したが、ノートブック型コンピューターは、ただ電源を切って、置いてあることになって、何もできなかった。

3日目

 アップルサポートに電話をした。2日前に電話をした時に、自分の登録番号のようなものを告げられたので、そのことを伝えると、先日は、電話の途中でスタッフが交代してしまった上に、解決できず、申し訳ありませんでした、と謝られ、こちらが恐縮して、そんなことはありません、みたいなことも伝える。

 さらに話をした上で、神奈川県・川崎のラゾーナという楽園感のあるショッピングモールに去年できたばかりのアップルストアに、今日は金曜日で、明日や明後日を提案されたけど、その2日間は都合により行けないので、3日後、月曜日、午後2時に予約をした。コンピューターは、部屋の中で、ただそこにあるだけだった。


4日目、5日目
 

 自分の用事があり、そのことでかなり気持ちがいっぱいになり、コンピューターのことはそれほど考えられなかった。それでも、5日目、図書館に行く前に、読んだ本の記録をとる時に、レポート用紙に手書きで書いて、不便な感じがした。昔は、ずっとこうしていたのに、もう戻るのは難しいかもしれない。

6日目

 ちょっと緊張しつつ、初めて川崎のラゾーナにあるアップルストアに行った。人が並んでいる。午後2時の10分前にストアの前に行き、2時の予約のことを警備の男性に伝えたら、すみませんが、5分前になってから来ていただけますか?と言われて、厳密なんだ、と思う。もしかしたら、今のコロナ禍のために、なるべく「密」を避けたい、ということかもしれないと思いながらも、そばのベンチのようなところで座って、その時間を過ごす。

 また列に行き、今度はアップルのジャージのような制服を着たスタッフに案内される。20年くらい前に映画などで描かれていた宇宙船内の服装を思い出す。担当してくれた若い男性は、ただ再インストールで完了するかもしれない「未熟なリクエスト」にも丁寧に対応してくれて、そして、初期化の可能性があること。さらには本体に不具合があった場合には、数万円かかる可能性があることを説明してもらい、アイパッドの画面をタッチして署名をする。

 30分で、全部の話は終わった。


 できたら、初期化されないで、すぐに使えるようになっていればいいな、と思った。
 元々、2ヶ月ほど前に、外付けハードディスクが壊れたようで、新しくデータが保存できなくなっていた。だけど、コンピューター本体を買ったのが去年で、まだ1年くらいなので、壊れないだろうし、アイクラウドで「どこか」に保存されているから、と油断をしていたら、本体がおかしくなった。

 その外付けハードディスクを今日アップルストアに持っていったら壊れているのが分かったから、近くのビッグカメラで新しく買った。以前、国産ですから、大丈夫です、と勧められて買ったのが東芝製だった。国産製だからといって、こうした製品の信頼性とイコールとは思わなかったが、使っていてスムーズだったので、同じように、大型ショップで、そのメーカーのものを買おうとしたら、倉庫から持ってきてくれたようだった。箱には違うメーカーの名前も書いてあって、すでに純粋に東芝製と言い難くなっているようだった。

 いろいろな変化が、知らないうちに訪れていた。

 その日の夜に、修理が完了した、というメールが来た。
 以前、使っていて、ヤフーのサイトも開けなくなっていた、9年前に購入していたマックブックプロをつなぎ、メールだけは使えるようになっていた。

7日目

 午後からギャラリーに妻と出かけ、そこから、私は川崎に向かい、妻は帰宅した。川崎に行き、今回は修理のための書類を入り口で見せたら、スムーズに入店できて、スタッフに案内され、渡されたコンピューターは初期化されていた。

 結構がっかりした。ここからは、自分で設定しなくてはいけない。ありがたいことに、料金はかからなかった。

 帰ってから、新しく買った外付けハードディスクに、今、メールだけを使っている古いコンピューターのデータを読み込んだ。午後4時半から始めて、3時間近くかかったので、今日、初期化されたコンピューターにそのデータを移すのは、明日にしようとした。

 もう疲れていた。

8日目

 午前中に、修理から戻ってきたコンピューターに新しく買った外付けハードディスクのデータを移そうとしたら、全く反応がなかった。どうやら、今のコンピューターのOSは、1年半の間に何回か更新していて、そのOSに、古いコンピューターのデータは、すでに届かないから、移すのは不可能のようだった。

 がっかりした。

 最初から設定をする。

 途中までは、自分にとっては順調で、なんとかインターネットにつなぐことまでできた。今振り返っても、よく覚えていないくらいだったかけれど、これで、あとはメールが復旧すれば、という感じだったのだけど、ここで、止まった。メールがつながらなかった。

 そのせいなのか、マイクロソフトのオフィスもインストールできない。アカウントがロックされている、という表示がでている。そこから指示に従って、何度も何度もパスワードのやり直しをしたのだけど、メールは古いコンピューターで受け取り、そして操作をするためか、何度もメールがきてはダメになるの繰り返しで、どうしたらいいか、わからなくなった。

 プロバイダーに電話をして、また新たに書類を送ってもらうことにした。

 その書類が届くまで、あと3日くらい。そこで、うまくいく保証はなく、だから、どうしようもない気持ちになって、それならば、書類が来てメールが復旧して、それからまたマイクロソフトにはチャンレジすればいいや、というような気持ちにはなったけれど、さらに復旧は遅れた。

9日目

 マイクロソフトのアカウントのロックを解除するために、携帯電話がないと難しいが、自分は恥ずかしながら持っていないので、それを前提にチャレンジをしていたのだけど、妻に相談をしたら、ご近所の方に頼んでみれば、と言われたので、お願いをすることにした。

 夕方になって、マイクロソフトに連絡をして、今度は、ご近所の方の携帯電話の番号を打ち込み、送った後に、またご近所に行きコード番号を聞いて、家に戻って、また打ち込んでの繰り返しをして、ようやく復旧の要請ができた。

 ただ、返事が来るまでは、最大24時間かかるらしい。

 時々、コンピューターそのものを捨てたくなる気持ちに襲われる。

10日目

 コンピュータ復帰に関する作業は、(スキルの低い自分にとっては)何しろしんどく、そのたびに、どうして早く外付けハードディスクを購入してバックアップをとっていなかったのだろうか、といったような後悔にも襲われる。

 これでメールを復帰できなかったり、マイクロソフトのオフィスが使えなくなっていたら、本当に嫌だと思う。でも、どうなるのか、今はまだわからない。

 この種類の不安って、不思議で、テレビなどの家電には感じないような感覚で、だけど、まだ持っていない携帯電話なども、これに近いはずで、スマートフォンは電話もできるコンピュータだから、こうした不安定さと共にあるのだろう。

 だから、常にメンテナンスが必要で、と思ったら、少し検索をしてみたら出張のそういうサービスは結構あって、それは、信用さえできれば、多少のお金を払っても、という気持ちには確かになる。

 早く、なんとかしたいけど、なかなかうまくいかない。

 マイクロソフトからメールが来た。

 残念ながら、本人の確認は取れませんでした。

 就職活動の、お祈りメールみたいだと思った。

 なんだか頭にきて、また送ったら、戻ってきた。だから、今度は色々な方のメールアドレスを入れて、送ったら、1日あたりの確認数は上限、という表示が出た。24時間以上たってから、また送ってください、といった言葉が画面に出る。

 なんだか、いろいろなことを一気にやめたくなった。
 拒絶されているような気持ちがする。

11日目

 何か拘束感が抜けないのは、コンピューターのことが気になり続けていて、まだ戻っていない、戻れない、そして、いつになるか分からない、といったことでもあると思った。

 それは、本当に微妙な辛さで、コンピューター関連のことは、他のものの不具合とは違って、見えない、分からない、自分のコントロールできる範囲が狭い、といったことで、その不具合は、(自分が未熟なのがいけないのはわかっているものの)、天災に微妙に近い。

 だから、どこか待つしかないようなことが多く、それで独特の苦痛があるのだろうけど、そんなことと無縁な「PC強者」の方にとっては、ここまでのことは、理解し難いことを言っているのだろうな、とも思う。

 用事が終わって、夕方に帰ってきて、マイクロソフトにメールを送るために、いろいろなことを打ち込んで、また送って、そうしたら、すぐに戻ってきた。

 最初のパスワードを打ち込むのを忘れていて、そのうえで、クレジットカードの下4ケタの数字も入れたり、さらに、また送った。

 またメールが来ていて、そうしたら、また「復旧願い」を受け取りました、と言った内容で、それは、一昨日来たメールと同じだった。

 だけど、明日、戻ってくるのは、また拒否的な内容かもしれなくて、嫌にもなって、そして、これだけの手間を約3万円で購入したソフトのためにやっていると思うと、本当に嫌になったりする。

 それでも、今日もポストを午後6時に見て、プロバイダーからの郵送もなく、だから、メールの復元もあさっての月曜日以降になり、noteの復帰もそれ以降になる。

 note投稿の中断期間が2週間になってしまうと、もう一度できるのだろうか、というような不安だけが強くなってきて、嫌にもなり、復帰できるのだろうか、また書き続けることができるのだろうか、と思う。

12日目

 朝、コンピューターを2台並べて、メールを見る習慣がついて、そして、今日もマイクロソフトから「本人確認できませんでした」というメールが来た。もう、3回は届いた文章だった。

 ほとんど絶望的な気持ちになり、もう1回、オフィスを買うのかと思って、なんだか分からないまま、また最初のセットアップのサイトに行ったら、その前に、もう一度、おこなった操作が有効だったのか分からないけれど、入れた。

 だまされたような気持ちになって、進んで、初めて、数字12ケタを打ち込めて、そうしたら、否定的な言葉が出てきて、またか、と思ったが、さらに進んだら、インストールしますか、という表現が出てきた。

 そのまま続けていたら、インストールはできて、そして、使おうとしたら、またサインインがあって、ややビビりながらも、打ち込んだら、こうして、使うことができるようになった。

 10日くらいこのワードを使うことができなかったが、その間には、マックに入っているテキストみたいなものを使い続けていたのだけど、その使い方というか、リズムがワードと微妙に違うので、微妙なイライラがあるせいか、書くときに、意欲が少しずつ削がれていくのがわかるけれど、でも、ワードが復元されても、その微妙に違う感じは続いている。そういえば、変になる前、変換が確かにおかしかったのだけど、それでも、慣れていくしかないのだろうと思った。

 それでも、よく分からないままでも、ワードが戻ってきたことによって、書く気力みたいなものが確実に上がってきたし、状況に振り回されるだけでなく、自分がなんとかできるようなことが一つでも増えると、それはとてもありがたい気持ちになり、少しずつ日常に近づけているような感覚になる。

 あとはメールが復旧できれば、といったことを願うように、祈るように、思っている。

 今の自分では、どうしようもできないことだし、書類の郵送をお願いしてから、何日かたって、まだこないので、なんともできないままだ。ただ、届いた書類が、今、自分が把握しているデータと一緒だったら、その時に軽く絶望するような予感もあるが、それを今から想像しても、やたらと気持ちが重くなるので、そこを考えるのはやめよう、とは思うが、だけど、これから先に、noteを続けたとして、どうなるのだろう、意味があるのだろうか、という疑問までふくらんだ。

13日目

 コンピューターがおかしくなってから8日目に、プロバイダーに電話をした。その時に、自分が把握しているパスワードが違うんじゃないか、と言ったことを考えて、書類を送ってもらうことをお願いして、それから、先週には届かず、今日、月曜日の午後についた。

 パスワードを見た。自分が打ち込んだものと一緒だった。別の場所に打ち込んでから、それをコピーアンドペーストしたけれど、結果は同じで、それ以上進めなくなった。

 またコンピューターを捨てたくなった。

 書類を見たら、プロバイダーに問い合わせをできるのは、年内は、今日までで、しかもあと20分だった。
 迷って、プロバイダーに電話をした。

 途中で、あきらめそうになったけれど、電話の向こうのスタッフの人はあきらめずに、指示されるままに打ち込み続けて、今まで見たことがないような画面を何度も見ることになり、聞いたこともない数字やアルファベットを打ち続けて、自分だけでは、もう2度と同じ操作はできないけれど、でも、急にメールが復旧して、画面が動き始めた。

 嬉しかった。

 年内に復帰できる。




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