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テレビについて⑧「パンとプール」……ロバート秋山の話しかけ方。

 まだ養成所にいる頃から、その笑いは新しく、分からない奴は「分かっていない」といった扱いを受けていたらしいのが、ロバート秋山竜次。というエピソードをテレビで誰かが話しているのを知り、納得ができた。同時に、そうした人物への微妙な警戒心も芽生える。

 それは、この人の笑いを分からないと、すでに古いと言われるのではないか、といった気持ちだった。これは怯えでもあり、そんな思いがあったら、たぶん、素直に楽しめていない、ということだったし、考えたら、いつから、「笑い」はそんな風なものになったのだろう、というような疑問も改めて思う。

「秋山とパン」

 オードリーは素直に面白いと思えることが多いのに、ロバート秋山について、ずっと構えが抜けなかったのは、これは面白いのだろうか、と考えてしまうことがあって、だけど、時々、そんな警戒心が関係ないように笑っていることも、もちろんある。

「あちこちオードリー」にロバートがゲストで出演し、最後に「秋山とパン」という番組をやっているのを初めて知り、若林が、バラエティ色の強い、という表現をしていて、それで見た。

 それは、変な時間だった。
 ロバート秋山が、各地で、地元に根ざしたようなパン屋を訪ね、そのパンを紹介する、という形式なのだけど、最初は、街ブラ番組と全く同様の入りを見せて、お店の人に話を聞き、おススメのパンを持ち、そのお店の方を相手に、話を始める。

 最初は、パンの話題から、いつの間にか話がずれていく。
 例えば、ある回では、ワイドショーの始まりや終わりに出演者が行う番組のポーズの9割が、秋山自身が考えた、ということを言い始め、じゃあ、と具体的な番組名を問われると、即座に秋山がやってみせて、その後に、実際の映像が映る。

 当然、フィクションだと分かっていながらも、反射的に「感心」してしまい、いや、これは嘘だから、と視聴者としての自分に言い聞かせることをする。

 その間の、自分の気持ちの動きも、変に面白くなってくる。

 その上、秋山はパンを手に持ったまま、お店の人を相手に話をしているから、見ている方も、まだ食べないのだろうか、と微妙に焦れてくる。お店の人は「早く食べてくれ」と思っているだろうし、場合によっては、怒らないのだろうか、と思いながらも、たぶん、こういう気持ちの動き方も含めて、ちょっと面白いと思ってしまう。

 一緒に見ていた妻は、長年、バラエティを見続けてきたベテランでもあるのだけど、こうやって、ずっとパンを持っていると、そこが手で湿ってくるのではないか。気になって集中できない、と言っていた。

 私は、そのあたりは鈍感なのだと思うが、同時に、色々な感覚を刺激しようとしているのかもしれない、とも思う。こうして、毎回、フィクションを語り続けていて、そんなに毎回熱心に見ているわけでもないのに、その映像が始まると、パンのことよりも、今回は、何を言うのだろう、とちょっと楽しみになってきたりはする。

 見ていて、これは面白いのだろうか。だけど、これは新しいことへのチャレンジと言っていいのではないか、という感心もあって、なんだかムズムズするような気持ちにもなる。さらには、放送回によって、自分にとっては、当たり外れみたいな思いもあるし、番組の中でも、面白く思える時間と、そうでない瞬間もあって、ずっと面白いと感じないのに、機会があれば、また見てしまう。

「一人ごっつ」の記憶とのつながり

 この「感じ」の記憶をさかのぼると、思い当たるのは「一人ごっつ」だった。

 ダウンタウン松本人志が、一人で、深夜の番組で、放送作家の声を相手に、さまざまなことをする。今振り返れば「IPPONグランプリ」の中の「写真で一言」など、おそらくは、この番組から始まったフォーマットも多いはずだと思う。

 この時も新しいチャレンジに見えて、だけど、これが分からないと、自分が古くなっている証拠ではないか、と怯えもあったのは、それだけ当時の松本人志に対して、面白いし、いつも試みているし、といった敬意もあったせいだと思う。

 だから、「一人ごっつ」の番組内の「全国お笑い共通一次試験」も、3回とも参加した。2回目以降は、確か、お台場のフジテレビまで回答用紙をもらいに行った。その時にすれ違った「参加者」のちょっと思い詰めたような感じは、今でも少し思い出せる。 

 笑いは、どこかで安心感も必要な感じもするから、お馴染みの、というマンネリもあった方が、素直に笑えるのだと思う。だから、どこがおかしいのか、よく分からないような新しい笑いは、戸惑いもあるから、すぐには笑えないこともある。

 それを、個人的には「一人ごっつ」を見ながら感じていたのかもしれないが、その感覚を久しぶりに思い出したのが「秋山とパン」で、それは、主に一人で話をしているせいかと思っていた。

 2021年の2月25日放送の回では、初めてゲストを迎えて、それはサンドウィッチマンの伊達みきおで、「秋山とパン」だから、サンドウィッチマンなのかな、という邪推を生む面白さもあった。

 そして、最初に秋山が、緊急車両のアナウンスのトーンを考案しているのは僕です、という話を延々と、パンを持ちながら話していて、それを聞いていた伊達が、今度は、ウォシュレットの勢いを決めているのは自分だ、という話を返していた。

 それは、倍面白くなる、というよりは、同じフォーマットなのに、秋山と伊達では、ちょっと面白さが違うような気がした。

 そして、ロバート秋山に対して、微妙に構えてしまうような感じを生んでいたのは、秋山の話しかけ方にあるのかもしれないと思ったのは、「パン」だけでなく、「プール」の番組を見てからだった。

「ロバート秋山の市民プール万歳」

 この「シーズン2」は、関東ではMXテレビで日曜日の午後に放映している。「シーズン1」は、確か別の時間にやっていて、冒頭で、ただ秋山がプールで泳いで楽しむだけの番組です。時間と気持ちの余裕のある方だけご視聴ください、という断りが入る。

 こちらも視聴者として、特に余裕があるわけでもないのだけど、本当に、プールに秋山が訪れて、泳いだ後に近所の飲食店で食事をするだけの番組構成だったのに、なんだか目が離せなかった。

 秋山は、カメラを向けられながら、スタッフに向けて、話しかける。そして、その様を視聴者が見る。その構造はずっと変わらなくて、だけど、なんともない話なのだけど、面白く感じるのは、その話し方のテンポや距離感なのかもしれないと思った。

ロバート秋山の話しかけ方

 一方的に伝える早口でもなく、時々、スタッフに確認するような会話がなされ、それが適度な間になっているように感じる。

 そして、個人的には最も特徴的なのは、一見、押し付けがましいような印象がありながらも、自分が伝えていることは自分は面白いと思っているけれど、それは、見ているあなたにとっては、それが面白いかどうかは分かりませんし、でも、分からないとしても、それで遅れているわけではないです、みたいなことまでの気遣いみたいなものを感じた。(ただの勝手な深読みかもしれませんが)。

 それは繊細な時代に特有な話しかけ方で、「一人ごっつ」の頃は、松本人志だけでなく、時代として、もっと自信を持って、話していたように思う。それは、まだ野蛮な時代だった。

 その野蛮な時代の話しかけ方は、合わない時は、拒絶感も強くなるし、こちらが悪いのか、劣っているのか、という怯えも生みやすいのだけど、その一方で、そこに共感できれば、受け取りやすくもあるし、ハマれば、面白さの強度にもつながりやすいように感じていた、と思う。

 ロバート秋山の話しかけ方は、そこまで押し付けがましさは、ない。視聴者の目の前に、そっと置くような繊細な距離感が、実はあると思う。

 松本人志の時代の話しかけ方に慣れている自分は、どちらかといえば、野蛮な人間なので、そのロバート秋山の話しかけ方に対して、慣れがなく、それで、笑いの質だけでなくて、勝手な警戒心を、こちら側が抱いているだけだと、「パン」と「プール」の両方を見て、思うようになった。

 それは、「秋山とパン」をみて、サンドゥィッチマンの伊達の語りが、少し松本人志寄りだから、それで、秋山の話しかけ方の繊細な距離感に、気づけたのかもしれない。

 決して目を合わせないのに、熱心に、だけど、思った以上に、こちらの反応に気を配りながら、話しかけてくる人物。もしかしたら、それがロバート秋山の話しかけ方かもしれず、その繊細さに関しては、より若い世代に届きやすいのではないか。

 だから、若くない世代にとっては、この笑いを分からないと、すでに古くなってしまった、という怯えも生んでいるのかもしれない、と思った。



 こうして、ごちゃごちゃと考えて、書いて、わざわざ伝えることまでするのは、野暮の極みで、もしかしたら、全くの的外れの可能性もあります。

 さらに、ロバート秋山本人には、ただ苦笑してスルーされそうなことだと思いながらも、こうしていろいろなことを考えさせられてしまうのは、やっぱり才能ではないかと、改めて思ったりもする。

「パン」と「プール」 

「秋山とパン」は、2021年3月いっぱいで終了してしまうそうです。関東では毎週水曜日深夜で、あと二回なので、もし、興味を持って下さった方がいらっしゃれば、見てもらえると、やっぱり嬉しいです。また「プール」は、春先まで不定期にMXテレビで放送されているので、こちらも、ご覧になるのは、いかがでしょうか。

 そうオススメしたくなるのは、見てもらって、そして、できたら、感想を語り合うことで、また新しい視点を持てるような気がするからです。

 勝手な話だと思いますが、ご検討していただけると、うれしいです。



(他にもいろいろと書いています↓。よろしかったら、読んでいただければ、ありがたいです)。



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