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桜の思い出

 今年もが咲いている。
 普段は、それほど注目していない桜の樹木を見る機会が、圧倒的に増える。
 

 去年に引き続き、満開がいつになるか?がそれほど言われなくなったのは、コロナ禍で「花見」が、表立って、あまりできなくなっているせいだと思う。
 だけど、どんなことがあっても、今年も桜が咲いている。


 今は、コロナ禍で、メールの添付写真などで参加しているのだけど、毎月、ボランティアをしている。病院に入院している患者さんへ渡す誕生日カードの制作に、もう10年以上関わっている。コロナ禍の前は、病院が駅から結構遠いので、送迎バスに乗っていた。

 その時、病院のスタッフに久しぶりにお会いして、話をしたことがあった。
 母親の話題になった。

 母は、その病院に入院し、そこへ私は7年通っていたのだけど、病院で亡くなった。それから、すでに何年もたっていた。

 ちょうど、桜の季節だったから、桜の話題になった。

 その病院のスタッフが、少し考えてから、こちらを見て、少しゆっくりと話し始めてくれた。こんな内容だった。


 桜が満開になって、そのあとに散ってしまうと、寂しい気持ちになる。
 それは、毎年のことだけど、やっぱり寂しいと思っていた。

 そんなことを、入院している母に、話したらしい。

 そうしたら、母親は、力強く答えたようだった。

 何を言っているの。
 桜は散っても、また来年も咲くのよ。
 大丈夫。
 寂しくない。
 また来年も見られるから。

 その病院のスタッフは、私に気を使ってくれたと思うのだけど、その言葉で力づけられて、それから、桜が散ることも、そんなに寂しくなくなった、という。

 母は、入院後に何度も症状に波があったが、比較的安定した後に描いた絵は、それ以前よりも、率直でストレートな印象になっていた。同様に、記憶が危うくなったとしても、言葉は、より正直になっていたと思う。

 だから、そのスタッフの方にも、届いたのかもしれない、と思った。

 その話を聞いた時は、すでに母が亡くなって何年かたっていたけれど、その会話の内容は、初めて知った。
 入院している高齢の女性患者であった母親が、病院のスタッフの方を少しでも力づけることができたのは、やはりうれしかったのは、覚えている。


 いろいろな記憶が、どれも遠くなっていくけれど、桜が咲くとき、そんなことを、時々、思い出したりする。




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