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「フリーター」という言葉が出始めた頃の、「プロのアルバイト」の姿。

 いつ使われるようになったのか、誰が作ったのか。新しい言葉は、それがはっきりしない印象があるのだけど、「フリーター」は、それがはっきりしている。

フリーターという言葉

──道下さんがフリーターという言葉を最初に使ったのはいつ頃のことですか。
 私が、アルバイト情報誌『フロム・エー』の編集長になってから3年目、1985年のことです。

 つまり、アルバイトをしている側が、自然に使い始めた言葉ではないし、個人的な印象だと、1980年代後半でも、アルバイトをしている人間が、「フリーター」と自称している場合は、とても少なかったように思う。

深夜の印刷会社

 1980年代後半は、のちに「バブル時代」と言われるのだから景気がいいはずだった。だけど、その頃、フリーのライターになった自分には、そんな実感が少なく、それでも冷静に振り返ると、自分のような「売れないライター」でさえ、仕事があったのが、バブルの恩恵だった。


 それでも、フリーになった当初は仕事が少なく、アルバイトもしていた。

 いくつかのアルバイトをしていたのだけど、今も覚えているのは、最初の頃にした、印刷会社のアルバイトだった。日払いで、1日だけ、という働き方をしていて、それは、深夜から早朝まで働いて、経験もいらない仕事だったから、本当に単純作業だった。

 細かくは覚えていないけれど、あるページをまとめて、機械を使って、ヒモを十文字にかけて、束ねる。それが終わったら、それを別の場所に重ねて、また、同じようにヒモをかける。その作業の繰り返しで、ずっと同じページだったから、ヒモをかけても、かけても、同じページがあらわれる。

 その繰り返しで、1時間くらい経つと、完全に飽きる。

 作業が単調なのは、仕方がないのだけど、できたら、違うページが見たいな、と思いながら、作業を続け、そのうちに、ほぼ何も考えずに体が動くようにはなったけれど、あとは、時間が早くたつことだけを祈るように思って、続けた。

 時々ある休憩時間には、私よりも、もっと歳が上の、30歳は軽く超えていたと思われる男性たちが集まり、雑談をしていた記憶がある。彼ら同士は、知り合いだったのだろうか。その輪の中には入れなかったけれど、彼らは、私のような若者(当時)にも「疲れたろ、同じ作業で」みたいな声をかけてくれた。

 その作業が終わったのは、早朝で、始発が出ていたから、電車で帰った。
 周囲の、明らかに作業に慣れているアルバイトと思われる人たちの姿は、その単純作業の時間の中でも、ずっと落ち着いているように見えた。
 

 私は、そのバイトは、その一回だけだった。

交通量調査

 アルバイトも職種によって、人気の上下があるのは、たぶん今でも変わらないと思う。当時、「交通量調査」は、「楽だけど、そこそこ収入がいい」と言われ、人気があった。道路で、クルマや人の移動について、ひたすら数えるアルバイトだった。

 そのバイトは、例えば、午前7時から午前7時まで、といった24時間と、午前7時から、午後7時の12時間の両方があって、それを見つけるのは、当時は、アルバイトの情報誌が主だった。

 だいたい2時間働いて、1時間休み、といったサイクルだったから、実動時間は、確かに少なめとも言えた。でも、一人でアルバイトに行くと、その休憩時間をどうしたらいいのか分からなかった。近くに公園があったら、そこへ行って、ベンチで座って、ぼんやりと空を見ていたりして、それは、楽でも楽しくもなかった。ただ、時間が過ぎるだけ、という体感しかなかった。

 交通量調査のバイトを何度かすると、そこでも、アルバイトだけをしている、と思われるグループに遭遇する。あちこちの現場で顔を合わせているらしく「おお」といったあいさつをする彼らは、やっぱり、30を軽く超えているように見えた。

 彼らは、休憩時間は集まって、何かを話していた。見ていたのは、アルバイトの情報誌。そして、そこで「いいバイト」を見つけたと思われると、彼らは、当時は、携帯電話も一般には広く普及していなかったから、公衆電話で、次のバイトを得るために電話をしていた。

 それを繰り返す姿は「プロのアルバイト」に見えた。

 だいたい二人1組で、バイトをするから、深夜帯に、ベテランの彼らと組むと、“2時間ごとではなく、4時間くらいで交代するようにして、その時間は、お互いに仮眠しないか”というフレキシブルな提案をしてもらったりして、それも現場に慣れている「プロのアルバイト」と思える言動だった。


 あの頃は、アルバイトも豊富にあったし、確かに、そこそこ豊かに自由に、暮らしていけるように思えた。だから、「バブル」だったのだろうと、今だとわかる。




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