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夜中に、電球のスイッチを入れたら、小さな炎があがって、コードが焼き切れてからのこと。

 古い木造の家に住んでいて、1階の庭に面した細いスペースがある。

 そこは、今は部屋としては、あまり使っていないのだけど、造り付けの本棚と、折り畳みのできる机が2つ並んでいて、それは、妻のお父さんが娘たちのために制作してくれたものだという。

 天井は木材で、そこから布で包まれた電気コードがぶら下がっていて、その一番下には裸電球がある。

 そこには、黒い回すスイッチと、コンセントもついていて、あまり使わないのだけど、その電球を点灯させるときに、スイッチをひねると、明るくなる。

 たぶん、そんな照明装置自体がある住宅は、あまり残っていないと思う。

 そのスペースには、乾いた洗濯物が、イスの上に、いったん置いてある場所がある。やたらと汗をかいて、その上、寒がりだから、夏には1日に10着以上のTシャツを着替えることになり、毎日の洗濯の時には、運動部の合宿くらいの洗濯物を洗うことになる。

 洗濯をして干すまでは私の役割だけど、取り込んで、たたんで、整理するのは妻がやってくれる。短い時間ですぐにTシャツを脱いで、また新しいのを着る季節はまだ続いていたから、そのいすの上から洗って干したシャツやパンツを選んで、風呂上がりに着ることになる。

 先日の夜中、洗濯物を探そうとして、電球の黒いスイッチを回した。

 やや重い感触になっているから、電球も傾いて、それでも、明かりは灯ったと思ったら、コードと、スイッチが付いているプラスチック製の装置の境目から、小さい炎があがって、消えた。

 怖かったけれど、きれいだった。

 そのあと、再び、一瞬、電球はついた。大丈夫かと思ったら、すぐに消えた。まだスイッチを持っていたけれど、急に少し重くなった。裸電球と、それがついているプラスチックの部分がコードから離れていた。

 電線コードが燃えたせいで、切り離されたようだ。まだスイッチを持っていた、自分の手の中には、少しの重量感とともに、もう明るくならない照明器具があった。天井から、コードだけがぶら下がっていた。

テープ

 焦った。

 天井からは、布に包まれた電線コードがぶら下がっていて、その先端は、無理やり引きちぎったように、ちょっとバラバラな感じになっていたから、怖いのは、再びショートをして、炎があがることだった。

 築50年以上の木造家屋だと、あっという間に火事になってしまう。

 それだけは避けたいが、何をしたらいいのか、わからない。

 もう夜中で妻は寝ているから、まずは懐中電灯を探したけれど、前にあったはずの場所にない。

 さらに焦る。

 玄関にあった、とても小さいLEDのランタン型の明かりがあって、それを使う。

 コードを照らしてみても、布と金属があるようだけど、どうなっているか見えないし、どの程度の危険性があるのかも、わからない。

 これから眠ったとしても、その時に音もなく炎があがって、それがコードをつたって、天井に燃え広がったら、あっというまに家全体が炎に包まれて、火事になったら、あまり距離がなく建てられている、このご近所の方々にまで迷惑がかかってしまう。

 怖い。

 そんなふうにバタバタして、勝手に焦っていて、もう10分以上は経っていたけれど、そして、せっかくこれから眠ろうとしている時に、と改めて怒りのような気持ちがわいてきたけれど、それは今は意味がなかった。

 廊下をウロウロし、工具箱のようなものも探し、確か、ビニールテープのようなものを巻いておけば、絶縁にはなるだろうけど、でも、それを巻いたことで、むき出しになった電線がくっついて、ショートするのを誘発してしまったら意味はないけれど、でも、このままにして寝ることもできないし、と思って、でもビニールテープはなく、だから、仕方がないから、その辺りにあった太めのセロハンテープのようなもので、そのコードの切り口を、ややゆったりとテープで覆った。

 自分では絶縁したつもりだったけれど、とにかく、何も目に見えた変化はなく、静かな夜のままだったので、眠ることにした。

 このことを、メモに書き加えて、注意してもらいたいので、妻の寝ているそばに置いた。

電気屋

 翌日、その電線コードは、電球をつけていない姿で、ただぶら下がっていたけれど、焦げ跡もなくて、無事だった。

 ホッとした。

 ただ、このままにしておくのは、怖いので、どうにかしないと、と思ったけれど、当然ながら電気の工事を素人が何かをするのは、ただ危険なので、急には無理かもと思ったけれど、この前もエアコンを購入し、取り付けてもらったので、近所の電気屋に電話をする。
 
 とても忙しそうだったのけど、今日の在宅を確認されて、すき間の時間ができると思いますので、その時に伺います、といつものように丁寧に対応してくれて、それから1時間もかからないうちに、チャイムが鳴った。

 こちらは何も準備もしていないし、乱雑なままだったのだけど、そこにあるものに毛布のようなものをかけてくれて、そして、小さめの脚立に乗って、作業を始めている。

「ブレーカーを落としましょうか」。
「大丈夫です」。

 手慣れた手つきでペンチのようなものでコードを2ヶ所切って、たちまち、そこにあった布で巻かれた電気コードは姿を消した。コードが取り付けてあった丸い金属の部分だけを天井に残して、もうそこに照明があった痕跡はなくなった。

 たぶん、10分足らずで、作業は終わった。
 当たり前だけど、プロだった。

部屋

 もう1ヶ所。小さい部屋の天井には同じように裸電球が、布で巻かれたコードでぶら下がっている場所があって、電気屋さんには申し訳ないのだけど、その確認だけをしてもらった。

 布を使っている、こういう構造自体が危険で、今はなくなっているのですが、といった前置きで、今は大丈夫です、と言ってくれたので、少し安心をして、さらに、注意事項も聞いた。

 電灯をつけるとき、スイッチの根元を押さえるように、そっと大事にひねるようにしてください。

 そういえば、炎が上がった電球は、片手で、いつも電球も傾くくらいな感じで、スイッチをひねっていたことを思い出し、少なくとも、今、まだ残っている電球は丁寧に扱おうと、秘かに思う。

 そして、このままだと怖いので、その部屋にも照明をつける話を少しだけしたら、ランタンを置くことも提案されたけれど、どちらにしても、今日は相手が忙しいので、少しだけ聞けて、それだけでもよかった。

 お礼を伝えると、そのまま、電気屋さんは、家の前に置いたバンのようなクルマに荷物を積み込み、そして走り去っていった。
 
 ホッとした。とてもありがたかった。

ホームページ

 久しぶりに、その電気屋のホームページをのぞくと、きちんと整備されていた。

 そして、地元で仕事をしてきたし、これからもしていきたいという気持ちが書かれていて、そういえば、義母が生きていた時も、テレビを購入した時に、普通にリモコンを使えば、文字放送になるように調整してもらったり、これまでにも数々の細やかなサービスを受けてきたことを改めて思い出した。

 だから、家電製品に関わることだけではなく、水周りや、住宅に関する相談まで受け付けています、という言葉も並んでいるのをみた時に、確かに、このあたりは、住民の高齢化も進んでいるし、昔から知っているお店の人が、いろいろと相談に乗ってくれたら、ありがたいことだと改めて感じた。

 ちょっとしたことをしてくれる安心できるプロがいるのは、街としても安心感が増すし、これだけ量販店がある中では、こうした日常的なさまざまなことまでしてくれる店だから、それは大変なことなのだろうけど、生き残っていけるのだとも思った。

 自分では経験がないのだけど、経営していくこと、続けること。これだけ時代が変化していくことに対応していくことは、とても難しいことなのだと思ったが、今回も、当日に電話をして、すぐに来てくれるのは、やっぱりすごい対応力ではないか、と改めて思った。

 地元の電気屋としてのビジネスモデルが、近くにあった。


 何日か経って、妻と、その時の話をしていたら、セロテープは絶縁しないよ、と言われた。知らなかった。



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