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【Interview #015】研究者はもっと自由でいい。化学とセキュリティの両方で見つけた、私らしい生き方。

化学系の博士後期課程を中退しエンジニアを目指した牧野さん。苦労の多かった大学院時代やエンジニアになろうと思ったきっかけ、そして3Sunnyに入社することで見えてきた「新しい研究者」の在り方についてお伺いしました。

研究者なら誰しもが憧れる「特別研究員」に選出。だからこそ、キャリアとお金に悩んだ大学院時代

━━━━━牧野さんの今までの経歴をざっくばらんに聞かせてください。

実は、高校生の時から化学者になるのが夢だったんです。

高校の化学の授業が本当に楽しくて、筆記ではなく毎度行われる実験が面白くて仕方がなかったんですよね。

なので、化学系の大学院まで進学して、「触媒」について研究をしていました。

触媒とは、それ自身は変化をせず、化学反応を促進する物質のことを指します。ちょっと難しい話になるのですが、「窒素固定」をテーマに新規ルテニウム触媒の開発をしていました。

具体的な内容としては、ハーバー・ボッシュ法よりも低温低圧で窒素分子をアンモニアに変換できる触媒を探していました。

ハーバー・ボッシュ法は、1913年にドイツで開発された方法で、現代においても肥料や爆薬などの製造に重要な役割を果たしています。世界人口の爆発に貢献し、人類の食糧生産に革命を起こしました。

ただしこの方法は、高温(400-600℃)高圧(200-1000atm)を必要とするため、より穏和な条件で反応が進む触媒の開発をしていたんです。

博士後期課程になってからは研究の成果が認められ、日本学術振興会から「特別研究員」という枠をいただくことができ、授業料の免除だけでなくお金をいただきながら研究をすることができるようになりました。

━━━━━「特別研究員」に選ばれるとは、素晴らしいですね!

そうなんです。とてもありがたい状況ではあったのですが、お金をいただくことによって「この先どうしよう」とキャリアとお金で深く悩むようになりました。

先程の「特別研究員」は3年という期限が設けられているのですが、こういった化学の研究では成果を出すのに長期間が必要でして、たった3年では難しいというのが現実なんです。

「公的機関からお金をもらっているのに、全然還元できていないのでダメではないか」と、研究者として優遇されているがゆえのジレンマに日々悩むようになりました

早く成果を出さなくてはいけないという焦りがあり、心理的な安全性がまったくなかったですね。

また、研究機関ではまだまだ女性が少なく、結婚して子どもが生まれても研究者に戻れるかはわかりません。

そういった研究者としてのキャリアに漠然とした不安を感じていました。

それなら企業に就職しようかな…」と思った時に、たまたまSNSで見つけたのがリクルートのサマーインターンシップでした。

そこで、3Sunny創業者の1人であるである志水さんに出会ったんです。

IT業界と開発の素晴らしさに魅了され、大学院を中退しエンジニアへ

━━━━━リクルートのサマーインターンではどのような経験をしたのですか?

リクルートのサマーインターンでは、サービスプランナーという事業企画職の体験をしました。

5日間ほどあり、私のチームでは志水さんがメンターをしてくださったんです。

私のチームで企画した内容は不思議にも3Sunnyと近い分野でして、高齢者の見守りを行うプランを発表しました。

当時、志水さんご自身も新規事業の社内コンペを通過していたタイミングでして、「起業するんだ!」と意気込んでいらっしゃいました。

今まで研究人生一本で生きてきた私にとってIT業界は驚きの連続でして、

「研究者の世界と異なり、どうして起業家はこんなにも支援の幅が広いんだろう」
「発表の場で開発したプロダクトを見せるだなんて、エンジニアのスピード感ってすごいな」

IT業界に強い憧れを持つようになりました

今でも覚えているのは、インターンの飲み会で交わした志水さんとの会話です。

どの職種で就活をすべきかご相談したところ、

僕は営業や企画職から始めたけれど、プロダクトを理解できるエンジニアに今でも憧れがあるんだよね。だから、エンジニアから始めるといいと思うよ

とアドバイスいただき、その場でエンジニアになると決めたんです。

大学院を中退すると両親に伝えた時は「気の迷いじゃないの!?」と猛反対を受けたのですが(笑)、いつの間にかエンジニアの道を応援してくれるようになりました。

新卒で就職するまでの半年間には、志水さんから「起業したんだよ!もしよかったらインターンで来ない?」とお誘いいただき、創業間もない3Sunnyで働くことになりました。

当時は『CAREBOOK』という医療介護業界メディアを運営しており、訪問看護ステーションへのインタビュー取材や記事作成をしていましたね。

━━━━━新卒で入社した企業での仕事内容を教えてください。

新卒ではビズリーチという会社でエンジニアとして入社し、最初の2年間は20代向けの転職サイトの開発をしていました。

スクラム開発の中で、フロントエンドやバックエンド、データベース設計などエンジニアとして必要なスキルを一通り学ぶことができました。

エンジニアになって特に面白いなと思ったのは、①現実解を導き出すこと②幅広く学ぶこと③他職種との関わりです。

①「現実解を導き出すこと」についてですが、開発では「リアーキテクチャ」というレガシーコードをモダンなコードに変えていくプロセスを行なっていました。

このプロセスでは理想を追い求めることをしがちですが、実際にはレガシーなコードでも問題なく運用できているケースもあり、理想を追い求めるだけが正解ではないことがありました。

その時に、理想と現実の落とし所=現実解に深い興味を持つようになりました。

また、エンジニアとして働く中でハードウェアであるコンピューター自体にも興味を持ち始め、②「幅広く学ぶこと」ができる職種はないのかと考えるようになりました。

③「他職種との関わり」ついてですが、転職サイトの改修する際にカスタマーサクセス(以下、CS)やデザイナー、エンジニアで深く議論をし合ったことがあり、それぞれのプロフェッショナルと熱く討論できることの素晴らしさを感じていました。

そういった様子を見てくださったのか、上司からの打診もあり、開発よりも①②③に深く関われるセキュリティ室へセキュリティエンジニアとして異動することとなりました。

━━━━━セキュリティエンジニアとして、どのようなことに取り組まれていたのですか?

セキュリティエンジニアになってすぐに上司にお願いをされたのは、「開発部門とセキュリティ室の橋渡し」になることでした。

実は、当時のセキュリティ室は開発部門に脆弱性診断結果レポートを渡すだけの状況でして、コミュニケーションがまったく取れていなかったんです。

開発部門から見ても、難しいレポート結果だけ渡されても何をしたら良いのかわからず困っており、双方の連携を強化することが急務でした。

そのため、様々な施策を練り込んで、わかりやすいレポートを作成したり、診断前後に説明会を実施するなど、開発部門のリーダーやメンバーを巻き込みなからリスクと優先事項を伝えていきました。

最初は草の根運動のような状況でしたが、セキュリティエンジニアになり3年が経つ頃には、開発部門とセキュリティ室の双方理解が進み、同じ方向を見ていると感じるようになりましたね。

最終的には会社全体でセキュリティの重要性を感じていただくようになり、上司の後押しもあって会社の規程自体を変更することとなりました。

地道ではありますが小さなコミュニケーションを大切にした結果、会社全体を良い方向へ変えることができ嬉しかったですね。

研究者か、セキュリティエンジニアか。両方の道があると教えてくれたのは3Sunnyだった

━━━━━3Sunnyへの転職を考えたきっかけを教えてください。

私が個人noteで書いた脆弱性診断士の記事を3Sunny CTOの矢澤さんがたまたま思って読んでくださり、セキュリティエンジニアとして働かないかと声を掛けてくださったんです。

セキュリティエンジニアにとって医療介護業界は力量を試される重要な業界である一方、私にその実力があるのかという不安もあり、最初は業務委託としてお仕事をさせていただくことになりました。

3Sunnyへの転職を本格的に考え始めた頃、大学時代の恩師から「牧野さん、東京医科歯科大で助教をしませんか?」とお誘いをいただきました。

まさか、また研究ができるチャンスが巡ってくるとは思ってもおらず、飛び上がるほど嬉しかったですね。

しかし、セキュリティエンジニアとしてのキャリアはどうするのか、研究者に戻って経済面は大丈夫なのか、再度キャリアとお金で悩むようになってしまいました。

そこで、矢澤さんに正直な胸の内をお伝えしたんです。

世の中には本当に不思議なご縁があります。矢澤さんに相談してみると、実は3Sunnyは東京医科歯科大学とのつながりが深かったことがわかったんです。

医療福祉業界と会社の双方にインパクトを残せるという点から、3Sunnyに働きながら医科歯科大へ出向することで、セキュリティエンジニアと研究者の両方のキャリアを歩むことができるようになりました。

私の強みを活かせられるように考えてくれた3Sunnyにとても感謝しています。

━━━━━3Sunnyの雰囲気やメンバーの人柄を教えてください。

優しくて温かい方が多いので、とても居心地が良いですね。

看護師や介護士など医療業界のバックグラウンドを持っている方も多く、業界について何でも気軽に聞ける環境なので、チーム皆でナレッジを共有できているのが強みだと思います。

メンバーやユーザーさんに寄り添う雰囲気を持ち、良い意味で「巻き込まれ上手」が多いところが素敵だと思います。

誰かが出したアイデアも否定することなく、さらに皆で色んな意見を出し合って進めるところも魅力ですね。

私の人生を通じて「新しい研究者の在り方」をもっと多くの方に広めたい

━━━━━牧野さんが考える人生の目標はなんですか?

私の人生を通じて「新しい研究者の在り方」を体現したいと思っています。

研究者というと、大学に所属し一筋で研究を続ける方がほとんどです。しかし、企業に勤めながら研究をする人だって存在して良いですし、業務内容と研究内容が異なる分野であったとしても、企業や大学の両方にエンパワーを提供できるのではないかと考えています。

お金とキャリアで悩み研究者を辞める方は一定数いるので、「そうじゃないよ」というのを伝えられたらいいな、と思っています。

3Sunnyでやりたいことは、3Sunny=セキュリティに強いというブランディングを成し遂げることですね。

そのためにもセキュリティ部門の立ち上げ・組織作りを実現し、1人目のセキュリティエンジニアとしてチームを牽引する存在になっていきたいです。

個人的に大好きなのが、3Sunnyの社名の由来である「三方良し」という考え方です。

私も前職からユーザーさん・メンバー・社会の三者すべてが「安心だよね」と言えるセキュリティを担当したいと思っており、同じ思いを持っていると思います。

とはいえ、所属している部署によってはその思いの方向性は変わってくると思います。

例えば、CSであればユーザーさんへの思いが強くなりますし、エンジニアであればプロダクトへの思いが強くなります。

お互いにそこも理解した上で、ユーザーさん・メンバー・社会の三方を守れるセキュリティってなんだろう、というのを皆で話し合い、使いやすく守りやすいセキュリティを叶えたいですね。

(終)

株式会社3Sunnyでは、セキュリティマガジンの連載をスタートしました。

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