見出し画像

第5次男⼥共同参画基本計画にパブコメを(2020年9月7日締め切り)

 パブコメ募集中の政策に関する記事、毎度ギリギリになってしまって失礼してます。今回も「今日の今日」でごめんなさい。

 内閣府男女共同参画局が、第5次男⼥共同参画基本計画に関するパブコメを募集しています。締め切りは、本日2020年9月7日の23時59分です。パブコメ1通につき1000文字まで送信できます。

女性が働けば、女性の貧困問題はなくなるって?

 素案を取りまとめたメンバーを見ると、それなりに意義と内容の伴った「男女共同参画」について提言しそうで、しかも世の中の動かし方を熟知している方々が目立ちます。しかし、「なぜ、この方がここに?」というメンバー、はっきり言えば「右翼?」や日本会議との関係を取り沙汰されている方々も。あまり過大な期待はできそうにありません。

 たとえば貧困問題に関する「安全・安心ワーキンググループ」には、貧困問題と対策を熟知している研究者の阿部彩氏が参加しています。しかし、貧困の解消に関しては、「女性が働いてもっと稼げばいい」「離婚したら養育費を取ればいい」と言わんばかりの内容が並びます。でも、子どもがいる日本の女性は、働いてます。特にシングルマザーは、働くのに無理があっても、目一杯働いてます。80~90%は就労しています。なのに貧困から脱却できないんです。シングルマザー以外の世帯類型でも、「子どものいる家庭で働く大人が増えたら、その家庭は貧困になる」というのが、日本の不思議な不思議な傾向です。

 「今後3年間で、女性の働きやすさや就労状況を抜本的に改善し、就労意欲があって1週間あたり30時間働ける女性が必ず年間400万円稼げるようにします」というのなら、就労促進は正解になるのかもしれません。しかしそれは「いや具体的には、内閣府ではなく厚労省マター」ということになるんでしょうね。ともあれ、「女性が働けば、稼げて貧困から脱却できる」と言える状況がスピード感をもって実現されることは、全然期待できません。つまり、今後数年間、女性の貧困問題が解消される見通しはないのです。

なぜ現金給付を無視するんですかー(棒)

 就労によって貧困問題を解消する見通しがない以上、目の前の貧困問題=現金欠乏障害 については、どうしても現金給付が必要です。しかし、全11分野のうち「第6分野 男女共同参画の視点に立った貧困等生活上の困難に対する支援と多様性を尊重する環境の整備」を見ると、現金給付に関する言及が非常に慎ましいのです。生活保護に至っては、一言も出てこないという徹底ぶり(皮肉)。

 私は、阿部彩氏が部会委員を務めている貧困問題の政府委員会を、簡単に回数を数えられないほど傍聴してきました。ガッチリ作り上げられてしまった厚労省の既定路線(その背後には、政権や財務省の路線があるわけです)に風穴くらい開けて、貧困の中にいる子どもたちや親たちが少しでも良好な環境で過ごせるようにという場面での阿部氏の粘り腰とタフな主張には、いつも敬服しています。今回の第5次男女共同参画計画素案の貧困解消については、「阿部氏が一人で頑張っても、これが精一杯」と見るべきなのでしょう。

 しかしながら、外から風を送りこむことはできます。ゴマメの歯ぎしりか、はたまたミミズの溜め息か、ミジンコの悪あがきか。でも生態系下位の生き物が「マス」で動くと、とんでもないことが起こります。土壌中のミミズが、ある日全部いなくなったら、生態系は大崩壊です。ゴマメやミミズやミジンコなりに、やることはやってみようじゃありませんか。

海外からも熱い視線が!

 今回の第5次男女共同参画計画素案は、そうはいっても海外の視線をけっこう意識しているようです。特に、2016年3月に国連女性差別撤廃委員会(CEDAW)が日本に対して発した総括所見は、かなり意識されているようです。
 日本語訳には、政府公定訳・日本女性差別撤廃条約 NGO ネットワーク(JNNC)訳がありますけど、原文に盛り込まれたニュアンスが反映されているのはJNNC訳の方です。世の中には英語不要論もありますが、英語がある程度できないと、日本の中にいながら日本に関する国際的な動きの情報を受け取れないということになっちゃうんですよね。

 この総括所見には、日本の女性と貧困について、2つのパラグラフを使って言及があります。

経済的・社会的給付

40.委員会は、締約国が、貧困削減のために、収入創出活動や少額融資へのアクセスを通じた戦略を展開していることに留意する。しかしながら委員会は、女性の貧困、特に女性世帯主、寡婦、障害のある女性、高齢女性の貧困に関する複数の報告を懸念する。委員会は特に、年金給付におけるジェンダー・ギャップの結果である彼女たちの生活状況を懸念する。さらに委員会は、「災害弔慰金の支給等に関する法律」において、(a)災害弔慰金の支給額が、生計維持者の場合は 2 倍であること、(b)災害援護資金の貸付に関しては、多くの場合、男性である世帯主が優先されることにより、男女間の所得格差が拡大することを懸念する。

41.委員会は、締約国に、貧困削減及び持続可能な開発をめざす努力を強化することを求める。委員会はさらに、締約国が女性世帯主、寡婦、障害のある女性、高齢女性のニーズに特別の関心を払い、年金制度をこれらの女性たちの最低生活水準を保障するものに改革する可能性を探るよう要請する。委員会は加えて、ジェンダー平等の視点を組み込むために、締約国が、「災害弔慰金の支給等に関する法律」を見直すことを勧告する。

 白状しますと、CEDAWに対して女性と子どもの貧困とメンタルヘルスの劣悪な状況と生活保護制度改悪のことしか書いてないレポートを送付し、本審査でロビイングし、総括所見のこの部分のうち生活保護や障害年金のオタクでないと分からない部分を日本語訳したのは私です。
 やってくださる方が他にたくさんおられると嬉しいんですが、「女性差別撤廃」という一語が出てくると、歴史が長くて実績のある貧困問題関連団体は取り組みにくくなりがちです。「女性が貧困に陥りやすい」「子どものいる女性は特に貧困に陥りやすい」という事実は、貧困状態の男性に「自分は男でありながら」「女性と子どもの貧困には光があたるのに、男の貧困には光が当たらない」などなどの複雑な感慨を呼び起こさせることがあります。また、そういう状況の中だからこそ「せめて性差別する権利を」という感情が湧いたりする場面もあります。
 その男性が厳しい状況にあって、限られた選択肢の中で自分の尊厳を保とうとしていることは、頭では理解できます。でも女性として、かつて女性かつ子どもであった者として、現在進行中の女性と子どもの厳しい状況を知っている者として、男性の状況より女性の状況の方が実際に厳しいことを知る者として、厳しい状況にある男性がそのような心情を示すことに対して「それもアリ」と認めることはできません。
 といいますか、そこにいたら文字通りの意味で身の危険レベルの何かが起こりますから、車椅子の進路を阻まれたりする前に、逃げるっきゃない。下手に抵抗したり抗議したりすると、「障害者でありながら、しかも生活保護問題について書いている立場でありながら、生活保護の障害者を差別した」という噂に尾ひれがついて流通していることを、数ヶ月後に知ったりすることになります。この「車椅子の進路を阻まれてセクハラされた件」とその後は、私の実経験です。

 というわけで私は、男性もいる既存の組織の中で何かをすることを断念。2016年のこのCEDAWの時以来、その時その時の実質2人や3人の小さな協働によって、国連へのレポーティングを続けています。協働の仲間には男性もいます。

送付したパブコメ(1000文字以内)

 まずは評価すべきところを評価。右翼や家族主義者もいるメンバーの困難な舵取りの末、一応の取りまとめに至ったことは評価すべきです。国際的な動きが一応は抑えられているところは評価すべきでしょう。貧困解消に1分野が割り当てられていることも、評価すべき。
 また、セクマイや少数民族(アイヌと明記あり)が特に厳しい状況に置かれやすいことも記載されています。これはすごい。でも、最後に述べることにします。

 このたび、国内外のさまざまな動きを踏まえ、多様な委員の皆さまのご尽力によって素案が取りまとめられたことに、敬意を表します。また、第1部「基本的な方針」には、国連SDGsをはじめとする国際的な重要な潮流が紹介されており、その潮流の中に日本の男女共同参画が位置づけられています。このたび、素案第6分野において貧困問題が独立した取り組み対象と位置づけられていることについては、国連SDGsの17の目標のうち最優先目標が「貧困をなくそう」であることを鑑みますと、まことに時宜に適った適切なご対応と存じます。

 個人的にちょー気になるのは、国連女性差別撤廃委員会の総括所見に関する言及がないことです。内容は反映されている感がありありなのですが。だってだって、日本の女性の貧困解消について、国連から日本への勧告類で、ここまで具体的に突っ込んでいただいたものは他にないんだもーん。具体的に考慮して、ほんっとに貧困を解消していただきたいのです。自分が関わったもの以外に30種類も50種類もあるのだったら、一番効きそうなものの引用を願うのみですが。

 第1部「基本的な考え方」には、国連SDGsを含め、日本が実施する意向を表明している目標や宣言等が数多く紹介されています。第6分野における貧困への取り組みを、より具体的かつ実効性のあるものとするためには、ぜひ、2016年3月に国連女性差別撤廃委員会が公表した日本報告審議総括所見の内容をご反映いただきたく存じます。以下、日本女性差別撤廃条約 NGO ネットワークによる訳を引用いたします。

 国連CEDAWは、日本の女性の貧困について何をすべきと言ったのか。

 同総括所見には、「経済的・社会的給付」として一節が設けられています。この節に含まれている第40パラグラフおよび第41パラグラフには、以下の記載があります。

40.委員会は、締約国が、貧困削減のために、収入創出活動や少額融資へのアクセスを通じた戦略を展開していることに留意する。しかしながら委員会は、女性の貧困、特に女性世帯主、寡婦、障害のある女性、高齢女性の貧困に関する複数の報告を懸念する。委員会は特に、年金給付におけるジェンダー・ギャップの結果である彼女たちの生活状況を懸念する。(以下略)

41.委員会は、締約国に、貧困削減及び持続可能な開発をめざす努力を強化することを求める。委員会はさらに、締約国が女性世帯主、寡婦、障害のある女性、高齢女性のニーズに特別の関心を払い、年金制度をこれらの女性たちの最低生活水準を保障するものに改革する可能性を探るよう要請する。(以下略)

 第40パラグラフは、女性の貧困、特に不利な条件が重なった女性の貧困がより深刻であることを示しています。特に老齢年金における女性の不利は、そこまでの人生のすべての側面におけるジェンダー問題の反映です。この認識については、素案第6分野においても同様に示されています。第41パラグラフにおいては、日本のすべき対処が「貧困削減及び持続可能な開発をめざす努力を強化」と示されています。この「持続可能な開発」の意味するところは、あらゆる人がジェンダーによらず人権を保障され、自らの人生と幸福を追求し、その中で家族に関する権利を行使し、職業生活を含む社会生活を継続し発展させ、その自然な帰結として少子化も解消されうるという未来像です。言い換えれば、持続可能性のある日本社会です。この点におきましては、素案にも同一の認識が示されています。
 実現する方法として、「女性世帯主、寡婦、障害のある女性、高齢女性のニーズに特別の関心を」払うこと、そして最低保証年金の導入が挙げられています。この意味するところは、「貧」と「困」のただなかにある女性と子どもに対しては、第一義的に現金給付でしかありえません。第40パラグラフは、日本の収入創出の取り組みや社協の貸付制度について、貧困を解消する方策として評価しつつも、それでは不十分であることも示しています。

 そして素案はどうなっているか。

 素案第6分野には、女性の貧困対策として、就労による収入の増加、結果として女性の低年金問題が解消されること、その前提となる教育へのアクセス、現金や現物によらない支援があげられています。しかしながら現金による支援においては、児童扶養手当と母子父子寡婦福祉貸付制度、さらに離婚の場合の養育費しか言及がありません。
 どのセーフティネットにも救われない方々、たとえば素案に詳細な記載があるマイノリティ女性を含めて物心とも救済しうる可能性があるのは、日本においては生活保護制度のみです。前掲の制度の利用も、参照されている生活保護制度が扶助費ともどもさらに充実すれば、連動して充実します。ところが、生活保護という用語は素案に出現しません。

 さあ、どうしましょ。構成自体がツッコミどころであることを述べるっきゃないね。

 一般的な「雇用・保険・扶助」の社会保障三層モデルにおいて、雇用がすべての人を救済することは、もしも可能であれば理想なのかもしれません。しかし現在、コロナ禍が多くの人々から職業や収入機会を奪っている事実があります。公的保険でも救済されない場合、結局は扶助の出番となります。日本においては生活保護と児童扶養手当ですが、就労収入を得られず年金の対象でもない一人親にとっては、生活保護しかないということになります。
 ぜひ、素案のうち現金給付に関する記載を全面的に見直され、社会保障三層モデルの根幹となる扶助の部分が土壌として充実しているがゆえに保険や雇用といった葉や花が咲くという本来の姿が反映され、名実ともに貧困を解消するものと改定されるよう、心よりお願い申し上げます。

パブコメは数が力。あなたの「1」は無駄じゃないかも

 パブコメで政策が動くことは、多くはありません。体感でまあ9割は「あーあ、手間が無駄だったなあ」という結末になります。でも、たまには動きます。動かなかったら「ちくしょ、無視しやがって!」という証拠ができます。「国民の声を聞いた」と政府が言う時、「私のパブコメは無視られた」と反論できます。そのためにも、できることはやっておきましょう。

 なお今回、第5次男⼥共同参画基本計画策定に当たっての基本的な考え⽅(素案)には、さまざまな懸念がもたれています。JNNCも複数のパブコメを送付しています。
 私が個人的に、貧困問題の次に気になるのは、政府が「男女共同参画」を口実として、メディア企業の人事に手と口を出す可能性です。これについては、メディアで働く女性のネットワーク(WiMN)パブコメを送付しました。

 言えることは言っておきましょう。一言でもいいから。ねっ。

後記:実際に提出したパブコメ

結局、3分割しました。

パブコメ1  該当分野:第1部 基本的な方針
 

 このたび、国内外のさまざまな動きを踏まえ、多様な委員の皆さまのご尽力によって素案が取りまとめられたことに、敬意を表します。また、第1部「基本的な方針」には、国連SDGsをはじめとする国際的な重要な潮流が紹介されており、その潮流の中に日本の男女共同参画が位置づけられています。このたび、素案第6分野において貧困問題が独立した取り組み対象と位置づけられていることについては、国連SDGsの17の目標のうち最優先目標が「貧困をなくそう」であることを鑑みますと、まことに時宜に適った適切なご対応と存じます。

 第1部「基本的な考え方」には、国連SDGsを含め、日本が実施する意向を表明している目標や宣言等が数多く紹介されています。第6分野における貧困への取り組みを、より具体的かつ実効性のあるものとするために、ぜひ、2016年3月に国連女性差別撤廃委員会が公表した日本報告審議総括所見の内容をご反映いただきたく存じます。以下、日本女性差別撤廃条約 NGO ネットワークによる訳を引用いたします。

 同総括所見には、「経済的・社会的給付」として一節が設けられています。この節に含まれている第40パラグラフおよび第41パラグラフには、以下の記載があります。

40.委員会は、締約国が、貧困削減のために、収入創出活動や少額融資へのアクセスを通じた戦略を展開していることに留意する。しかしながら委員会は、女性の貧困、特に女性世帯主、寡婦、障害のある女性、高齢女性の貧困に関する複数の報告を懸念する。委員会は特に、年金給付におけるジェンダー・ギャップの結果である彼女たちの生活状況を懸念する。(以下略)

41.委員会は、締約国に、貧困削減及び持続可能な開発をめざす努力を強化することを求める。委員会はさらに、締約国が女性世帯主、寡婦、障害のある女性、高齢女性のニーズに特別の関心を払い、年金制度をこれらの女性たちの最低生活水準を保障するものに改革する可能性を探るよう要請する。(以下略)

ぜひとも第1部で同総括所見についてご言及のうえ、第6分野で具体的政策について記述いただきたく存じます。
パブコメ2
該当分野:第2部 II 第6分野 男女共同参画の視点に立った貧困等生活上の困難に対する支援と多様性を尊重する環境の整備

2016年3月に国連女性差別撤廃委員会が公表した日本報告審議総括所見(日本女性差別撤廃条約 NGO ネットワークによる訳)には、「経済的・社会的給付」として一節が設けられ、第40パラグラフおよび第41パラグラフには、以下の記載があります。

40
・日本が貧困削減のために、収入創出活動や少額融資へのアクセスを通じた戦略を展開していることに留意
・女性の貧困、特に女性世帯主、寡婦、障害のある女性、高齢女性の貧困に関する複数の報告を懸念
・特に年金給付におけるジェンダー・ギャップの結果である生活状況を懸念

41
・貧困削減及び持続可能な開発をめざす努力を強化することを求める
・女性世帯主、寡婦、障害のある女性、高齢女性のニーズに特別の関心
・年金制度をこれらの女性たちの最低生活水準を保障するものに改革する可能性を探るよう要請

女性の貧困、特に不利な条件が重なった女性の貧困、老齢年金における女性の不利は、日本のジェンダー問題の反映です。この認識は、素案第6分野において同様に示されています。
日本のすべき「持続可能な開発」は、あらゆる人が人権を保障され、自らの人生と幸福を追求し、家族に関する権利を行使し、職業生活を含む社会生活を継続し発展させ自然な帰結として少子化も解消されうる未来像、言い換えれば、持続可能性のある日本社会です。素案にも同一の認識が示されています。
実現方法は「女性世帯主、寡婦、障害のある女性、高齢女性のニーズに特別の関心を」払うこと、そして最低保証年金の導入です。
「貧」と「困」の最中にある人々または子どもに対する「特別の関心」は、第一義的に現金給付でしかありえません。第40パラグラフは、日本の収入創出の取り組みや社協の貸付制度について、女性の貧困を解消する方策として評価しつつも、それでは不十分であることも示しています。
素案第6分野には、女性の貧困対策として、就労による収入の増加、結果として女性の低年金問題が解消されること、その前提となる教育へのアクセス、現金や現物によらない支援があげられています。現金による支援は、児童扶養手当と母子父子寡婦福祉貸付制度、さらに離婚の場合の養育費しか言及がありません。
現金給付に関する記載、特に「最後のセーフティネット」である生活保護の充実と利用拡大に関する具体的記載をお願いします。
パブコメ3
該当分野:第2部 II 第6分野 男女共同参画の視点に立った貧困等生活上の困難に対する支援と多様性を尊重する環境の整備

 素案第6分野には、女性の貧困対策として、就労による収入の増加、結果として女性の低年金問題が解消されること、その前提となる教育へのアクセス、現金や現物によらない支援があげられています。しかしながら現金による支援においては、児童扶養手当と母子父子寡婦福祉貸付制度、さらに離婚の場合の養育費しか言及がありません。
どのセーフティネットにも救われない可能性がある方々について、素案には詳細な記載があり、この点は素晴らしいと思います。セクシャル・マイノリティやアイヌ女性について、具体的な類型とともに述べられたことは、大きな一歩であると考えます。
どのような方に対しても、物心ともに救済しうる可能性があるのは、日本においては生活保護制度のみです。前掲の制度も、参照されている生活保護制度が扶助費ともどもさらに充実すれば、連動して利用しやすくなり実質的に充実します。ところが、生活保護という用語は素案に出現しません。このことの問題点は、男女共同参画や貧困解消のみならず、日本社会の基本設計に及ぶ深刻なものと考えます。
一般的な「雇用・保険・扶助」の社会保障三層モデルにおいて、誰もが雇用される完全雇用状態は、理想像の一つなのかもしれません。しかし自由主義経済下においては、仮想モデルの一つです。また現在、コロナ禍が多くの人々から職業や収入機会を奪っている事実があります。公的保険によって救済されない場合、結局は扶助の出番となります。日本においては生活保護と児童扶養手当です。就労収入を得られず年金の対象でもない一人親など、雇用や保険の部分的利用も困難な場合には、生活保護しかありません。雇用と保険によって救済され得ない方々が数多く存在する現実は、本計画に反映されるべきです。
ぜひ、素案のうち現金給付に関する記載を全面的に見直され、社会保障三層モデルの根幹となる扶助の部分が土壌として充実しているゆえに保険や雇用といった葉や花が咲くという本来の社会像が反映され、名実ともに貧困を解消する計画案として改定されますことを、心よりお願い申し上げます。

ノンフィクション中心のフリーランスライターです。サポートは、取材・調査費用に充てさせていただきます。