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1分読み切り短編小説「彼女が美人に着替えたら」

ダンボールで
梱包された荷物が届いた。

差出人には覚えがなかったが、
「ギャランティ」とだけ書いてある。

「ギャランティ?
どういう意味だろ?」

ユカは首を傾げたが、
荷物の中身が書かれた品名に
さらに疑問が深まった。

「美人ボディスーツ」

送り先を間違えたのかと思い、
宛名を確認してみても、

しっかりと
自分の名前と住所が書かれてある。

商品を送りつけて、
あとで高額な請求をする
詐欺かも知れない
とも思ったが、

「美人」という言葉に
どうしても惹かれた。

ユカは、日頃から健康や
美容、容姿に気を配っている。

もともと
美人だと言われる方だ。

それでも
美に関して、
常に手を抜かない。

それなりにモテたし、
随分恋愛もしてきた。

しかし、
どうしても独占欲が強いからか、
付き合った相手に数ヶ月で
別れを告げられてしまう。

そして、どういうわけか
どの別れた彼も次に付き合う彼女が、
いつも自分より美人に思えた。

別れた相手にいつも未練はないが、
そこのところが
どうも気に食わなかった。

だから、
もっと美人になりたいと思っていた。

「美人ボディスーツ」と書かれた
ダンボールの箱を開けてみる。

 ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄
中にはフェルト生地で
丁寧に包装された商品と、
説明書が入れられていた。

「このスーツを着ると、
世界中の男を虜にする
絶世の美女になれます。

ただし、使用は一度きりとなります。」

ひどく不親切な説明だし、
馬鹿馬鹿しいとも思ったが、

絶世の美女になれるという言葉には
逆らえなかった。

一見、ボディスーツは、
自分のバカさ加減を後悔するほど
お粗末な代物だった。

見た感じ、全身タイツだ。

ただ、素材は見たことも
触ったこともない
よくわからないものだったし、

青みがかったシースルーで、
どこか妖艶な雰囲気を
醸し出していた。

ユカは、
衝動を抑えられないタイプで、
よく考えず、
すぐに行動してしまう癖がある。

そういうわけで、
それを着てみることにする。

 ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄

鏡に映った自分を見て、
言葉を失うほど、

まさに絶世の美女が
そこに立っていた。

これ以上はない、
というくらいだった。

嫉妬や劣等感は
一瞬でどこかに消し飛んでしまった。

ユカは、ずっと求めていたものを
今まさに手に入れた恍惚感に
酔いしれた。

しばらくその絶対的優越感に
浸った後、

ただ、

もともとの自分らしさは
微塵も感じないことに気がついた。

「本当の美人とは
ほど遠かったってことね、、。」

と自分をからかい笑った。

 ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄
脳に直接
流れているかのように、
自動音声のような声が聞こえてくる。

「この度は、美人ボディスーツの
ご利用ありがとうございます。

絶世の美女になられたことで、
これから絶世の美女の人生を歩まれる
ことになります。

そこで、
旧型のユカさんの代わりを
お届けしましたので、

交代をお願いします。

当方の報酬(ギャランティ)は、
旧型のユカさんが歩まれるはずだった
残りの人生となります。

ご利用ありがとうございました。」


突然チャイムが鳴る。

ドアの向こうに
旧型のユカ「元の自分」に
そっくりな誰かが立っていた。


(おわり)


作/画 りょう

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 ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄
今回、小説に登場してみたい人の
募集をして、

応募いただいた方の中から
ピックアップし、

作品のインスピレーションだけ
いただきました。

主人公のユカは、
香港でCAをされている
ゆかさんがモデル。

主体的で
エネルギッシュなゆかさんだが、

「できない」を乗り越える
努力家。

そんなゆかさんから
イメージをもらい、

新しい物語が生まれました。

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