死んじゃった女子高生の亡骸と




部屋の隅に置かれた指定スクバを眺めて思う。あれ、3年間毎日使ってる人なんて片手に収まるくらいだったよね。化学室特有の鼻を突く匂い、旧館4階にあるトイレの個室で食べたお弁当の味はもう覚えていなくて、でも涙のしょっぱさだけは鮮明に覚えているの、息苦しくて嗚咽が止まらない。逆光に追い詰められて黒く染まった自分自身の影を踏めなくなった。

あれは去年の夏のこと、
外気温は37.5° くたびれる。
午後に微睡む君のもの寂しげな視線は、夏の温度とまざって溶けてしまいそうだった。濃すぎるよ、あまりにも濃くて胃がもたれる。逆流する胃液が体内を支配する。ふと、小学校の頃を思い出した。本当は欲しかったピンクのプールバック、私はあえて水色を選んだ。逆張り精神は洗っても落ちない。透明な心は何にも触れないで、おねがい、ピンクが正義とか、水色が強がりだなんて言わないで。あの時の私は確かに、水色に、救われた。水色があることで、君と一緒にいられたから。水色のシュシュ、水色の傘、水色の長靴。君とおそろいのキーホルダーヘアピンネックレス、私が水色で君がピンク。染み込んだこの色を私は心から好きになることができなかった。
致死量ピンクのオーバードーズはこんな過去の反動で、絶食した後の焼肉のような感じ?数年ぶりの君は、もう到底届かないところに存在していた。

どうか、成仏できますように。授業を抜け出しトイレで腕を切ることで耐え抜いた学校生活の思い出や、私を滅茶苦茶にした先生の記憶や、やり残した未練達が、私の心の奥底で、深い眠りにつき、二度と目を覚ましませんように。

私は新品未使用品で、誰にも触れられずに生きてきたから、私が今感じている君の唇のやわらかさ、あたたかさが果たして本物なのか、分からない。君の三白眼なその瞳で見つめられたら、私の内部まで透けて見えてしまう。恐ろしく揃った歯並びは机上に並べて保管しておきたいくらいだった。ウェーブがかった髪は艶めいていて、それが揺れ動く姿は、君の自由奔放さそのものを示していた。きっと私も、ピンクを神格化するための水色的存在なんだろうし、君に利用されるならいいと思ってしまう。でも、誤解しないで、もう私は君でいっぱいじゃないよ、君のお人形でもないから、十字架ネックレスは当たり前にぶら下げていたいし、ロリータ服を着て死にたいし、髪色もネイルも自分の思う可愛い色でいたい。君によって変えられた私は私だと思っていない。私をベストな状態へとカスタマイズできるのは私だけだから。やっぱり重たい前髪は精神を安定させるのに必要不可欠で、フリルがこってこてに装飾されたお洋服でないと着る気になれない。だから、私、中途半端でよかった。君にとってのアイドルになれなくて、心底安心してしまった。これでも好きでいてくれる?君が好きな私じゃなくても。

君を思い出す度に、脳内に張り付いていたはずの先生の顔がぼやけていく。先生の輪郭を宙になぞっていた頃が遠く昔のことに思えた。先生、先生、先生、先生、先生、先生、私は先生を先生と呼んだことがない。先生さ、火曜日の朝は何時に起きてるの?好きなお酒は?休日はどんなところに行くの?全部知りたい、ぐーぱんちされても好きでいるから、教えて。先生のその明るい瞳は私をどう映しているの?
渡しそびれた最後の手紙は、次に会う時まで取っておく。

無装備でも戦えるメンタルは使い果たして残機0になった。白く焼けたその肌に貪りつきたい、ピンクのままの君を手に入れることが出来たならば、な。ほら、こういう風に言えないことが増えたのは18歳になってから。だから18歳に、大人に、なりたくなかった。明るい死念と承認欲求の行き先はどこ?お揃いの地獄なら永遠に夢見続けられるよ、でも、そうじゃない。目に見えないものは、触れられないから大切に扱わなくてはならない。ですよね?先生。奥底に秘めた思いも、感情も、愛も。

おそろいだったキーホルダー、ヘアピン、ネックレスを、家の裏庭に埋めた。その真上に君の名札を刺し、すぐ横に生えていたフシネハナカタバミを数本毟って、君の名札の前に並べた。

少女性って、残酷



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