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【ショートショート】私がやりたいこと

 すべてを器用貧乏にこなしてしまう私は、料理にしてもスポーツにしても、最初からなんだかんだ出来てしまう。けど短い時間で人よりも結果を出してしまうので、どうしても飽きてしまい、一つのことを長く続けることが出来ない。それゆえに部活動や学校生活で大成することが出来なくて、高校生にもなったのに、未だにやりたいことが見つからない。だから先週配られた早すぎる進路希望用紙は、未だに白紙のままだ。

 先生からは「何かやりたいことはないのか?」としきりに訊かれる。でも本当になにも思い浮かばないので答えようがない。逆に先生に「私は何をすればいいですか?」と訊くと、「それはあなたが決めること」と無責任な返事か返ってくる始末だ。それなので私は私が何をしたいのかが余計にわからなくなってしまった。

 やりたいことを見つけるためにとりあえず進学しよう、という漠然とした気持ちは持っている。だけど大学の四年間でやりたいことが見つかる保証がどこにもないので進学に躊躇もしている。それに加えて周りの友達が次々に進路希望先を決めて行くので、最近は焦りすら感じてきた。

「お母さん。私、なにがしたいかわんないんだけど、どうしたらいいの?」

「贅沢な悩みねえ。とりあえず進学すれば?」

「何それ。せめて進学のアドバイスとかしてよ」

「じゃあ藝大に行きなさい」

「それってお母さんが自分の母校に行かせたいだけじゃん」

「違うわよ。あんたなんでも器用にこなすけど、絵だけは下手だったでしょう。私がいくら教えても美術の成績で3以上取ったの見たことないもの」

「それの何が関係あるのよ。それに絵が下手なんだから藝大なんて行けるわけないじゃん」

「三年あれば合格できるわよ。私もそうだったんだから。それに、あんた少し器用過ぎだから、この辺りで続けることの重要性を学びなさい」

 母の言葉に、私は何も言い返すことが出来なかった。

 確かに私は人並みの絵しか描けない。頭の中で思い浮かべたイメージをうまく絵で表現できないからだ。だから、いくら器用で飽き性な私でも、これが原因で絵だけはイヤで辞めた。

 でも、できないままでいることはもっとイヤだった。

「わかった。じゃあ私、藝大に行く」

「あんたまたそんな軽い気持ちで決めて」

「お母さんが行けって言ったんじゃん!」

 頬を膨らましながら、確かに軽い気持ちで選んだことに少し恥ずかしさを覚えた。それでも、私は私がやりたいことを見つけた気がした。



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