サインバルタ

 9月19日。6回目の受診へ行ってきた。なかなか通院日記を書く時間と心の余裕がなく(心の余裕は今も無い)、9月も末日になってしまった。
 この日もいつもと同じように待合室で待っていたが、恐らく俺を呼びに来ただろうカウンセラーが、俺の姿が見当たらないというような様子で1度戻っていった気配を感じた。直視していた訳ではないが、確実に自分が認識されていないと感じた。多分、帽子を被っていたせいだろう。
 少し経った後で、受付の人に確認してやっと俺を認識したようだった。その時も直視していなかったが、確実にそうだ。
 まさに、綿矢りさの「勝手にふるえてろ」で主人公がやっていた「視野見」をしていた。
 声をかけられ、カウンセリングが始まるが、気付いていたことは言わなかった。
 今回のカウンセリングは、既に授業が始まっていたことから学校の話に始まった。
 グループで研究のようなものを行う(ようなものとは何だ)授業でリーダーになったということから、過去に何かを成し遂げたことはあるのかという話に展開し、そもそもやりたいことをやったことが殆どないと言った。上京するまではやりたいことを考えられる状況ではなかった。
 カウンセラーは「今までの自分と、現在またこれからの自分がぶつかっているのではないか」と言っていた。合っているのかは分からないが、そんなことよりも意識がはっきりしなくなってからは、柱や壁に体がぶつかっている。
 リーダーを務めることで何かが変わるかもしれないという話もしたが、それに関して少し書きたい。
 リーダーになったはいいものの、意欲の低いメンバーが多く、集まる日を決めることさえまともに出来ない。学校の先生には「そこは渡邉君の腕の見せ所だよ」なんて言われたが、リーダーの資質というものは、メンバーに志があって初めて問われるんじゃないだろうか。
 とにかく不安で仕方ないが、これも経験なんだろうか。グループで何かをする時はいつもこんな感じになってしまう。俺が悪いのだろうか(そんな風には微塵も思っていない)。まあ、何とかするしかない。
 先生の診察では、あまり症状が改善しないことと授業が本格的に始まることを考慮して、新しい薬を処方された。
 サインバルタ。何だかかっこいい名前じゃないか。
 そのサインバルタを飲み始めて1週間程経った頃から、少し意識の状態が良い。薬の効果かどうか分からないが、理由は何であれ嬉しい。高校生の時、半ば無理矢理入れられた放送委員であることによって体育祭のダンスをしなくていいと知った時くらいに嬉しい。また症状が酷くなるようなら、結局ダンスをやることになった時くらい悲しいだろう。
 そして本当に久しぶりに、映画をまともに観ることが出来た。
 去年、ムージックラボで観た「blue rondo」が「ABYSS」と改題された作品だった。12月頃に再び東京での上映を考えているそうで、この文章を読んでくれている物好きな人には是非観に行って欲しい作品だ。東京在住でない人は、これから始まる地方上映で観られるかもしれない(そんなにこの文章を読んでる人はいねえよ)。
 話を戻してサインバルタについてだが、ネットで調べると抗うつ剤だった。俺はうつ病なんだろうか。
 更に昨日、次の診察までにサインバルタが1日分足りないことに気が付いた。薬局で「今日から飲んでください」と言われて飲み始めたが、先生は次の日からのつもりで処方していたみたいでこうなったようだ。薬剤師め、やってくれたじゃないか。
 薬局に電話をすると、次回の診察で1日分多く処方してもらうように言われた。いや、まず謝るべきじゃないのか。お前のせいで1日分足りなくなっているんだ。サインバルタが。効果があるかもしれないサインバルタが。かっこいいサインバルタが。過ちを認めない人間なんだろう(そこまで言うこともないだろ)。
 今、日付を跨いで、10月が始まった。日に日に寒くなることが憂鬱であるが、どこかで高尾山にでも行きたいものだ。

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