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鹿岳一ノ岳南壁フリークライミング(紀行)

群馬県南牧村鹿岳一ノ岳南壁7ピッチ5、10cオールフリー(2021年11月15日 浅井・及川)※今のところ他にフリーで登った記録は見当たらなかったので現時点では「フリー化」として記録します。


西上州のフィッツロイ

といえば群馬県南牧村の鹿岳。この南壁の最もすっきりしたフェースに一本のクライミングルートがある。しかし下部岩壁の2ピッチがエイドクライミングとなっていて、フリークライミングで登りたい自分としては何となくトライを躊躇ったまま1年が過ぎてしまっていた。

今回このルートをオールフリーで登ってみようと思ったのには訳がある。

山と渓谷社のクライミング雑誌に西上州のクライミングルートを紹介することになり、この機会に鹿岳をフリークライミングで登り紹介したいと思ったのだ。だが原稿の締め切り前に行ったときには雨に降られ登攀を断念した。

ただ、今このルートをオールフリーでクライミングした後、やはり今回の記事のテーマでは雑誌に紹介しないでよかったと思っている。その理由はこのルートに存在するプロテクション、主にリングボルトとハーケンがあまりに脆いということ。しかもビレイステーションに打たれたボルト類が全て錆びて自然にかえる寸前、中には赤錆びた鉄の砂となっているものもある。フリークライミングやコンペシーンにおけるクライミング情報を主軸とする雑誌に、ここまで危険なルートを掲載するというのはちょっと恐ろしい。
パートナーは「山の神様は知ってたんだよ」と言う。後日、出版社から届いたゲラ原稿を眺めながら、ふと、そうかもしれないと自分も思った。

さてここからはルートの詳細を記載するが、再登には十分すぎるほど注意をしていただきたい。特に1ピッチ目で並々ならぬ恐怖を感じた場合はトライを断念しても良いと思う。ピッチによってはフォロワーが墜落すれば、ビレイステーションごと崩壊しそうなものもある。大袈裟ではなく、知識と技術の不足が死に直結するルートだ。


アプローチ

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群馬県南牧村鹿岳登山口(下高原)から鹿岳を目指す。一般登山道の分岐を過ぎると、南壁が近付いてくる。南壁の基部付近をだいたいの検討で適当なところから右にトラバースすると薄かぶりの岩壁の基部に出る。ここには小さな祠が二つあるので、鹿岳南壁基部であることの目印になる。ルートの取り付きは祠を過ぎて50mほど先。腐って朽ちかけたリングボルトの連打のさらに右側を見ると左上に伸びるオフセットした、いかにも脆そうなバンドというかコーナークラックがあるのでここを登る。ちなみにこの連打されたリングボルトをエイドで登るのが本来のルートだ。

ピッチごとの解説

1ピッチ目(Ⅳ)出だしが悪い。地上から数メートルは小さめのカムが効く。ピナクル状を左にややクライムダウン気味にトラバースする部分が非常に脆く、全ての岩が浮いている。プロテクションも取れないか取れても墜落に耐えうるものではない。ピッチはハングの真下で切る。

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2ピッチ目(Ⅴ)ハングをやや左から登る。デシマルグレードで5、10cだがここはリーチで差が出る。ハングはほんの数メートルで終わり、やや左に登ってピッチを切る。写真は2ピッチ目出だしをクリーニングしている様子。

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3ピッチ目(Ⅳ)左上してカンテに合流。そのままカンテを辿り適当なところでピッチを切る。

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4ピッチ目(Ⅳ)左側に迫るハングの下を右上するようにフェースを登る。岩は硬くプロテクションもしっかりしている。ビレイステーションは狭い。

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5ピッチ目(Ⅳ)ほぼ直上。上部のフェースでプロテクションが取りにくい。バンドまで行ってピッチを切る。写真は折れてしまったビレイステーションのハーケン。

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6ピッチ目(Ⅲ)
クライミングジムにあるような顕著なガバホールドがずっと続くフェース。出だしは傾斜が緩くスラブ。どこを登っても同じようなグレードだが、なるべく真っ直ぐ登った方が良い。プロテクションは、ガバホールドとの間に出来たクラック状の隙間にカムがセットできる。岩は硬いので安心だ。ビレイステーションは非常に脆弱なリングボルトと抜け落ちそうなハーケン。カムで支点を増やしたい。

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7ピッチ目(Ⅳ)6ピッチ目のフェースの続きを登る。ここも6ピッチ目と同じようにカムで支点が取れる。ナッツやマスターカムがあると、それほどランナウトしないだろう。このピッチで最後まで抜けることができるが、ほぼ50mのスケールなのでロープが重い。途中でピッチを切っても良いと思う。

下降は一般登山道を高原方面へと下る。下山路の途中で鹿岳ニノ壁がよく見える。

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