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病気とスイーツを抱える彼の夜

こんばんは。今日もお疲れさまでした。

会った彼は見ていた写真とは比べられないくらい、体も顔も大きな人でした。別人かと思うほど違う彼を見た時、マッチングアプリで男性がよく言う「会ったら別人」という言葉を思い出しました。

その日は食べたかったパンケーキを一緒に食べる約束していました。山手線のある駅にあるそのお洒落なお店は、女性客で溢れかえっていました。扉を開けてすぐ見えるガラスケースには、パンケーキ以外にも美味しそうなタルトやケーキが並んでいました。

彼と同じパンケーキを頼んで、私たちはドリンクを先に貰うことにしました。彼が今まで食べたと言うその美味しそうなスイーツの写真を見せて貰いながら、私たちはパンケーキを待つことにしました。彼はスイーツが好きで、聞いているととんでもない量のスイーツを食べていました。彼の体の大きさの理由を知った気がしました。そして、私は彼の声をうまく聞き取ることができませんでした。

美しいパンケーキを食べながら、彼はぽつりぽつりと自分のことを話しはじめました。彼が大きくなったのは、病気で長く治療をしていた事、その病気では子どもを望めない事などです。

彼はいかにも真面目そうな人でした。いきなり手を繋ぐ事も、私を無闇に褒め称える事などしません。ただし、お互いの恋愛感も話さなければ、子どもの話もしません。そこにあるのは、同僚と話すような日常の話だけです。

彼が私を選んだ理由も分かりました。特に子どもに興味はないけれど、子どもがいる私ならリスクが少ないと思ったのでしょう。

病気も、体が大きい事もしょうがない事です。そんな事は彼をイヤになる理由ではありません。でも、この逢瀬がただの妥協だと感じたのは私を虚しいと思わせるには十分でした。

彼は次に会う話をしているようです。でも、その声はもう私には届きません。駅で別れ、ふわりと会う約束を躱していたら、ひっそりとコロナがやってきていました。私たちは連絡を取りませんでした。だって彼の声は聞こえないのですから。

彼は宣言解除になった今、美味しいスイーツをまた誰かと食べているのでしょうか?彼がスイーツの話だけでなく、その女性の話をしてくれていますように。おやすみなさい。


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