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【読書メモ】競売ナンバー49の叫び (ちくま文庫) トマス・ピンチョン著

ピンチョンといえばアメリカ最大の覆面作家。寡作でも知られるが、その中でもカリフォルニアを舞台とした作品が少なくない。今作もその一つだ。

昨年末に映画の「インヒアレント・ヴァイス」を観て、ヒッピーカルチャー全開のあやしい世界観に浸りきっていたので、勢いで積ん読だった今作も読む。主人公エディパが過去の愛人・大富豪インヴェラリティの遺産を管理を任され、遺したものを探っていくうちにアメリカ社会にうごめく謎めいた組織<トライステロ>による偽造切手を用いた奇妙なコミュニケーションを目の当たりにするという探偵物語。インヒアレント・ヴァイスと比較するとエディパが主人公ドックの恋人シャスタで、インヴェラリティが不動産王ミッキー・ウルフマンなんだろうなという感じ。インヴェラリティは最初から退場してるけど。

暗喩が仕込まれまくり、かつ固有名詞が過剰で情報の洪水に飲まれる感覚があるが、それが不思議とだんだん心地よくなる感じ。本編と同じくらい集中して解注も読まないと意味が取れない箇所も少なくない。また、話がほんの脇道にそれたと思ったら異常に詳細になって収集がつかなくなる感覚もある。実際読んでいて何の話をしていたのかわからなくなることが多かった。よくいえば迷宮世界といったところ。ところで作中の暗喩の中には内輪ネタも多いようで、学生時代の友人や大学の唱歌の替え歌が仕込まれていたりするらしい。それに関連して、豆知識的に面白かったのはピンチョンはナボコフの講義を取っていて、授業では物静かだが文章は素晴らしいと評価されていたという記述。驚くと同時にもう結構な高齢なんだろうということも伺える。多少年代はずれるかもしれないが、ナボコフの授業に出ていたアメリカの最高裁判事が去年亡くなっているし。

ピンチョンのカリフォルニアを舞台にした作品といえば「ヴァインランド」も積ん読のまま。年内には読みたい。

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