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花がすぐ枯れる⑤

思いつくままに書く読み物
第五話「落語に救われる」



ダスキンが来てくれた家は3日も経つと、
再び足の踏み場も無くなっていた。
散乱しているのは妻のものが主だ。
使ったものを元に戻さない。
着た服をハンガーにかけない。
そうしていれば、
おのずと部屋は散らかっていく。
エピペンはバッグから出していない。
落語に必要なものは部屋の一角に固めて柵で囲っている。いつの間にかそうなっていた。
締め太鼓に平太鼓、その台とバチは2種類。
座布団と毛氈、茣蓙、めくり台とめくり。
コロナ対策のものを数点。
あと4日。予約も80%に迫った。
本当に新聞社の鈴木さんは来るんだろうか。
目的はなんだろうか。
今度の寄席は芸協のニつ目さんの独演会だ。東京の落語仲間と、俺も出る。
社会人の落語会も主催するが、
プロの落語会も主催している。
地元に落語文化を根付かせたいのは、俺が落語に救われたからだ。
高校時代、入るはずのなかった私立の男子校に入った俺は、人生がどうでも良くなっていた。
松田と友達になったのは、アイツが入学式で隣に座っていたからだ。
式典中にイヤホンをつけていた。
ラジオみたいな音が聞こえて、
気になって仕方がなかった。
だから、式が終わって何を聞いているのか
聞いてみたら
「落語」
って、言って、その日にCDを貸してくれた。
調べれば調べるほど、落語が面白くて。
談志がいて、志ん朝がいて。
落語に憧れた。
東京の専門学校に行って、寄席に行った。
色んな芸人がいて、客がまばらだけど、
客はずっと好きに過ごしていて。
こんな非日常な日常を俺も作ってみたかった。
松田は、地元の医大にいたから、
就活で東京に来た時に寄席に連れて行っていた。いつか、こんなこと2人でやろうって、
架空の番組を組んで楽しんでいた。
松田が、東京の病院で研修医になったころ、
俺は都会に疲れて
病気になって地元に戻った。
松田がどうにかして、
俺を地元に送ってくれた。
もう、東京には戻れない。でも、
落語に触れたくて、落語を始めた。
落語をやってるうちに
病気はどこかに行ってしまった。

小さな会から始めてコツコツやっていれば、噺家の名前だけでお客さんが来てくれるようになっていくだろう。仕事とはまったく関係ないが、やれる範囲で主催している。
それで松田のように喜んでくれる人がいるならいつまででもやり続けていたい。
「百太っていくつだっけ?」
「37だよ。」
「28入門だもんな。真打にはまだならないか」
松田は、落語会が近くなるとメッセンジャーを送ってくる。
俺のモチベをキープしようとしてるらしい。
「太鼓叩くから、安心しろ」
松田は、素人ながら太鼓が好きで、
一番太鼓と二番太鼓を叩いてくれる。
子どもの頃から祭りで太鼓を叩いていた。

…つづく…


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