【短編】クズの猟犬①
「もし、地球に隕石が迫ってきて、それが落ちるのが日本だったら、…どうする?しかも、日本と同じ大きさで」
高木はいつも意味のない質問をする。だから、なんだよ?って言ってやりたい。けど、周りは盛り上がる。大学の学食で安い定食を食べながら。
「お前、それ隕石のレベルじゃねーよ」
って、軽くツッコミを入れるのが岩橋。
「あたし、迎撃ミサイル撃ちに行く!!」
変な責任感というか、訳のわかんねえ正義感を放り込むのが芝浦。顔はアイドル並みなんだけど期待通りのアホだ。因みにみんな公認で俺のセフレ。アホだから、体にしか興味ない俺に都合よくヤらせてくれる。
「しばちん、あたしもそれ参加ー。」
白ギャルの酒井が言う。コイツは強めのバカだ。
「ハム君は?」
4人がこっちを見た。
「は?」
俺の名前が公法(きみのり)だから、頭の悪いコイツらにハムと呼ばれている。
「隕石が、お前の上に接近してるって話。」
「してねーよ。」
「日本に隕石が落ちるならば?」
「んなもん、自衛隊とかに任せて俺は、家に引きこもって、しばちんとヤりまくるわ。」
言った瞬間、しばちんが俺の手を握ってきた。
「ハムちゃんのそばにいる。」
酒井がそれを聞いてため息。
「しばちんは、迎撃ミサイル撃つって言ったじゃんよ。」
「そか。ごめんね、ハムちゃん」
高木は、密かに芝浦が好きで、俺に睨みをきかせてきた。だったら、セフレ認めんなよって思うんだけど。
「やっぱ。ハムはクズだな。」
岩橋が俺の頭をわしゃわしゃしながら言ってくる。因みにコイツは男も女も喰いまくってる。俺は時々コイツに金をもらって抱かれる。
たまたま一緒に飲んでて終電逃してとりあえず寝る場所確保のために一緒にラブホに入ったのがきっかけ。岩橋に服脱がされて無理やり突っ込まれた。岩橋は俺がそういうタイプだと思ってるみたいだけど、俺はやめたい。痛えし、気持ち悪りい。セックスは俺の方が100倍上手いって断言できる。それに筋肉至上主義のタンパク質ヲタクでもあって鶏肉も食いまくってる。
「地球のために活躍しないハム。」
酒井がニタニタしながら言う。
「あのね。俺は、お仕事してる人の邪魔しないいい子なわけ。そういう時、俺が家にいて大人しくしてれば、死体をひとつ減らせるかもしれないでしょ?それに下手に現場うろついてみ?なんにもわかんない素人がうろちょろして、目障り極まりないでしょ?外出るより、家でヤってる方が地球のためだよ。」
みんなが静まり返った。俺は俺の正論を振りかざして多少気分がいい。
「素っ裸で女と繋がって死ぬのか?」
高木が軽蔑の目で見てきた。
高木は普段から俺を見下してる。まん丸い子豚みたいな体と顔で、どうやったって俺の方が高木よりは良いのに。
「は?死なねえけど…ま、イッてからなら本望かな。」
「どんな時もお前らしくクズであってくれよ。」
「はいはい。そうですね。俺クズですから。」
高木を焚きつける訳じゃないけど芝浦の胸を揉んで見せた。ますます睨みつけられるけど嫉妬がおもしろくて仕方がない。
「ちょっとハムちゃん!」
芝浦はそう言いながらもたまらない顔だった。こんな感じだから、セフレは俺以外にもいる。だけど、1番体が合うのは俺なんだって言ってた。高木はそんなこと知らない。
「後でしよう、しばちん。またね。」
食器を下げようと立ち上がると空が光った。振動と爆風で窓ガラスが割れて景色が吹き飛んだ。
それがつい3ヶ月前の話。
俺は呑気な大学生だった。
今、俺の目の前にあるのは爆発が起きた後の事件現場だ。また、俺に似合わない仕事を押し付けられている。無理無理。死体だらけじゃん。家帰りたい。
「何をぼーっとしている!犯人を探せ!」
首には首輪。右腕には管理のための数字が彫られていて、触ると硬い。皮膚の下にGPS機能のあるマイクロチップが埋め込まれている。
「そんなすぐには無理だって」
「口答えするな!」
ネームプレートに川嶋と書かれたこの男は警察と軍隊が合わさったような公共機関の人間で、
「役に立たないなら、お前の脳を吹き飛ばす。」
俺が少しでも逆らうと銃を向けてくる。
「生かされてるんだから命令を聞け、犬!」
見た目こそ人間だが、扱いはいわゆる犬だ。コイツらの言いなりになって命令を聞いて成果を上げなければいけない。
「クソっ」
どこをどう見ようと犯人の手がかりがない。と、商業ビルで爆発が起きた。
「この役立たずのクズが!!」
川嶋に罵倒されて背中を蹴られた。俺はビルに走るが、もうどうにもできない。ビルの内部には死体、死体、死体。怪我人、死体。泣き叫ぶこども。怯える生き残り。ひたすら犯人を探してまわる。なんで俺がこんなことしなきゃいけないんだ。俺は、こんな場所にのこのこ出てくる人間じゃなかったはずだ。イラついてくるのを堪える。ここでイラついて上手く行った試しがないからだ。
「君、何番目の犬?」
体にダイナマイトを巻いたいかにもアタオカな感じのやつに声をかけられた。犯人から声をかけてくるなんてラッキーだ。都合が良いにも程がある。
「さあな。24て彫ってあるけど。」
「俺を逃せよ。」
「バカ言うな。すぐ捕まえてやる。」
体はほとんど機械だ。顔、頭、脳みそ、右腕、右手、左手の人差し指…セックスするとこ以外。
俺は、飛翔体落下に巻き込まれてひどい有様になったらしいが、気がついた時には、なんだかわけわかんねえ実験室にいて、犬っていう役割を与えられていた。犯人を捕まえる…じゃなくて犯人を猟る犬らしい。
左手で鳩尾を殴って首元も殴れば大体の人間は捕まえられる。コイツもそうだ。あまり暴力せずに最後は、睡眠薬を飲ませてパトカーまで運ぶ。この体で並みの人間に負けるわけがない。
「キミノリお疲れ。」
「てめえは楽でいいよな。」
川嶋は表情がない。100%の人間だけど。
「予定より遥かに多く犠牲を出している。」
それを言われると何も言葉が出てこない。Dマットに救急隊が現場を駆け回っている。
「俺の知ったこっちゃ…」
鼻を力強く摘まれた。
「鼻が効かない犬は役に立たない。その鼻、修理してもらえ。戻ったら即だ。ラボには俺から言う。」
血管が切れて鼻血が出る。
「血液、残ってるのか。鬱陶しい!」
俺の人間である部分は、大体全部否定される。鼻血を拭って川嶋を睨みつけた。
首輪にリードをつけられて引っ張られる。自由なんかない。車の後部座席に押し込まれて、
「本署に戻るまでに報告書をしあげろ」
タブレット端末を渡されて渋々書き始める。
現場報告蘭からエリアを探して状況を書き込んでいく。川嶋は黙って運転してる。窓の外は飛翔体が落ちて以来、荒れきっていてテロとか強盗とか当たり前の世界になっている。本当に日本なのか?平和と安全はどこに行った?国際テロリストとか言うよくわかんない奴らがうじゃうじゃいるらしい。
「キミノリ」
川嶋に声をかけられた。また、ぼーっとしてるって怒られたくない。
「書いてるよ、報告書。」
「君は公共機関の責務を負っていることを忘れるな。俺が、ただこき使っているみたいに感じているかもしれないが、国からの職務を遂行しているんだと自覚しろ。いつまでも学生気分でいるな。」
「……はーい。」
タブレットの報告書を保存する。
「キミノリ、鼻の修理が終わったら今日は上がれ。首輪、出動から待機に戻せ。」
「…はーい。わっかりまーしたー。」
首輪にはスイッチがあって出動と待機を切り替える。一応、出動分は給料がもらえる。スイッチを待機にした。
「おい、やめろよ。学生気分。」
「はーい。おつかれっしたー。」
「やめろと言っている。」
本署に着いて車を降りると同時に川嶋に思いっきりしばかれた。
クズの猟犬①
②に続く