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10年前のあの日の記憶13

震災発生から5日目。

相変わらず朝日と共に起き、夕暮れと共に布団に入る生活を続けていた。

午前中の明るいうちに掃除や水汲み、買い出しを行い、午後はぬるま湯で交互に身体を洗い、夕飯を作る。

合間に新聞やラジオから情報を得るようにしていた。電気は少しずつ復旧しているようだった。

前日くらいから、自宅のまわりの住宅地でもちらほらと電気がつき始めた。

そして遂にこの日の夕方、雪がちらつく中で電力会社の工事の車が自宅マンションに来た。

薄暗く、雪が降るほど寒い中、マンションの住人が皆一様に各階の玄関先に出ていた。

大人から子供まで目を輝かせて、スーパーヒーローを見るかのように、変圧器の修理の一部始終を見守っていた。

「修理完了です」という一声が聞こえ、拍手喝采で感謝の気持ちを口々に伝える。

今考えればなんとも異様な光景なのだが、それほどまでに皆待ち望んでいた瞬間だったのだろう。

これで日常に一歩近づける。

安堵の気持ちを抱えながら自宅に戻る。

靴を脱ぎ、ふとリビングを見ると光が溢れていた。

電気の光に目が慣れず、眩して目を細める。

姉や母と喜びを分かち合った。

そして、テレビを点ける。

どのチャンネルもニュースばかりだった。

今回の震災のことばかりが報じられ、バラエティ番組は放送されていなかった。

いくつかチャンネルを変えてみたが、どこも同じような内容に感じて、適当に一つのチャンネルを選ぶ。

そこで流れてきたのは高台に避難した人が撮影した津波の映像だった。

音声はカットされていた。

それでも、流されて水に浮かぶ家や、その屋根の上で助けを待つ人々を見て、心臓がバクバクと脈打った。

目からの情報は強烈だ。

ラジオや新聞で得た情報で分かった気になっていたときとは全く違った。

けれど、この映像を見て感じている恐怖心ですら分かった気になっているだけなのだろう。

こんなに恐ろしいことが、突然何の心構えもないままに起こっているのだ。

それが何万人という人々に降りかかったのだ。

電気が戻ったという喜びは一瞬で掻き消された。



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