息子が急性散在性脳脊髄炎になって倒れた話31

遡ること10日程前。

長男が目覚め、まだ寝たきりで食事は取れないけれど、少し会話が出来るようになったころのこと。

PICUのベッドサイドで長男に絵本を読んでいると、主治医の先生が来てくれた。

「お母さん、ちょっとお話したいことがありまして。」

少し改まった雰囲気で会話が始まった。

「実は、ADEM(急性散在性脳脊髄炎の略称)を含めたいくつかの疾患で、再発しやすい抗体というものが発見されています。

『MOG抗体』

という名前で、比較的新しく発見された抗体です。

まだ研究段階で、今は東北大学でしか抗体の有無を検査できません。

それで、長男くんの髄液と血液をこのMOG抗体の有無を調べる検査に出したいのですが良いでしょうか?」

このMOG抗体は、発病の原因となったウイルス感染あるいは予防接種を受けた際に出来ていることがあり、通常1年半から2年ほどで体内から無くなると考えられるそうだ。

「再発率が上がる可能性がある抗体、ということですか?もちろん検査していただけたら助かります。」

すぐにそう返事をした。

「ご協力ありがとうございます。

正直このMOG抗体はまだ研究段階で詳しいことが分かっていない部分も多いです。

ただ、『この抗体を持っている人と持っていない人を比べると、持っている人のほうが再発率が高い』というデータがあります。

今回の検査に費用は発生しませんが、『情報提供をするかわりに抗体検査の結果を教えてもらう』という流れになります。

長男くんの名前や個人を特定出来る情報は出ませんが、『3歳男児の症例』のような形で、どのような治療をしてどのように治ったかを論文や研究成果として発表に使われる可能性があります。

それでも検査に出して良ければ同意書にサインを頂きたいのですが…」

そんな説明を受け、その場で同意書にサインをした。

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時間は戻り、長男が倒れて18日後。

主治医の先生が一枚の紙を持って面会中の部屋へ来てくれた。

そこには、

MOG抗体の検査結果は血液・髄液共に陰性でした。この結果を踏まえて、翌日よりステロイドを減薬予定。再発や副反応を含め問題無ければ、週明けに退院できます。

と記載されていた。

再発の可能性を高めるMOG抗体は陰性だった。

これで、長男は『たまたま10万人に1人レベルの確率で自己免疫が間違えて自分を攻撃してしまっただけ』ということになる。

『退院』。

夢にまでみた二文字が、目の前に現れた。

『再発』『副反応』。

どちらも不安な言葉ではあったが、再発を恐れてばかりいては進めない。

長男が、病院の皆様が、そして家族が。

頑張って乗り越えてここまできたのだ。

それをまずは素直に喜び、長男を家でゆっくりさせてあげたい。

たくさん甘えさせてあげよう。

そのためにはあと一歩。

減薬を無事に乗り越えられますように。

ここから3日間、長男が倒れてから目覚めるまでに感じていた、あの胃がせり上がってくるような緊張感を伴いながら、必死で様子を見守った。





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