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醸造用の木桶製作 青島桶店さんにお邪魔しました!

1925年から静岡県焼津市で桶屋を営む青島桶店さん。

HPの富士山を前に桶を作るビジュアル、かっこよすぎる!
なんと富嶽三十六景を元に、社長が考えたアイディアだそう。

工場見学

木桶を作成する為に整えた加工場。
桶屋でここまで広い工場を持つところはないそう。
今後の商売への意気込みが感じられた。
50石(9000ℓ)の木桶。
大きいほど製作に体力が必要となる。


工場を訪れた際、老朽化し漏れるようになってしまった木桶の
組みなおし作業が行われていた。
桶を解体して洗い、表面を鉋(かんな)をかけて綺麗にし、
再度組みなおす。
鉋をかける為、桶のサイズは一回り小さくするか、
または新たな木板を足して、同じサイズを作る。

老朽化し漏れるようになった木桶を解体した状態。
解体した木材を洗い、鉋をかけ綺麗にし、
これから再度組み立てる。
組み立てはクレーンなども使う重労働、且つ高所で行う為
常に危険とも隣合わせで非常に気を遣う作業。

この大きさの木桶となると、納品時に蔵の入り口を通過できないため、
一旦青島桶店の工場内で完成し、問題ないことを確認した後
再度解体し、納品先に運んで現地で組み立てる。

一方で社長の甥っ子さんが行っていたのは
竹箍(たけたが。周囲を囲む輪状に編まれた竹)の下準備。
京都の真竹を輪状にしやすいよう、節を整え、表裏を削り
薄く滑らかにしていく。

「同じように見えて竹は一つ一つ違うから、竹の呼吸を聞きながら」
微妙な力加減を調節しているそう。

木桶に使う杉材は木材メーカーでサイズに合わせてカットし
乾燥させた状態で仕入れる。

1㎝の木を乾燥させるのに約1カ月。
木桶の底板の厚みは10cmほど。
つまり乾燥工程だけで10カ月はかかる。
木桶は発注してすぐに納品できるものではない。
青島桶店さんは来年いっぱいの仕事が既に埋まっている。

家庭用の桶からスタート

昔は家庭用の小ぶりな桶や、旅館の浴槽づくりを生業としてきた
青島桶店さん。

元々作っていた家庭用の味噌を入れる為の桶

家庭用桶の需要が減り、これでは生活ができない!と
15年ほど前に醸造用の大桶作りに乗り出す。
当時、大桶の作り手は最後の一軒。
まさに絶滅寸前。
一体何が起こっていたのか。

醸造用の木桶 絶滅の危機

醸造用の大きな木桶は、丹念に作られたものであれば
なんと100年以上使うことができる。
味噌蔵や醤油蔵を見学させて頂くと、
100年前の木桶が平然と現役で使われている。
しかし、その物持ちのよさが仇となった。

桶屋さんの最大の商売道具、鉋。
「桶屋をやろうと思ったら鉋が最低100は必要」

戦後、農林水産省は衛生面の観点から、
醸造用容器は木桶ではなくホーロー等の素材を使うことを推奨。
多くの酒蔵や味噌・醤油蔵はホーロー製の桶に切り替えた。
もちろん、昔ながらの木桶を使い続けるメーカーもあったが、
木桶の寿命が長い為、買い替え等の必要性がない期間が
50年ほど続いた。

発注のない50年…。

その間、仕事を失った桶職人たちは次々と商売を辞めることになる。

近年、戦前に作った木桶の老朽化に伴い、
味噌蔵や酒蔵が数十年ぶりに新桶を購入しようとしてやっと、
木桶を作れる会社が日本に残り1社(大阪 ウッドワークさん)だけに
なっていることに気付く。
一昔前にどこにでもあった桶屋は姿を消し、職人は絶滅の危機に瀕していた。

青島社長は15年前、最後の一社となったウッドワークさんから学び
家庭用桶だけでなく大桶の製作に乗り出す。

現在はウッドワークさんで修行を終えた甥っ子さん(右)と社長(左)とで
様々な桶を製作している。

その後ヤマロク醤油さん中心とする木桶復活プロジェクトで
年に一度みんなで木桶を製作をする動きが生まれ、
木桶の良さが広く再認識されるようになってきた。
徐々に木桶で伝統調味料を醸造する価値も見直されてきている。

100年先を見る覚悟

「この流れをブームにしてはいけない」
青島社長はいう。
「一気に見直され、多くの蔵が木桶を発注する流れは素晴らしいこと。
しかし、そうやって作られた木桶も50年、100年と
活躍していくことになる。
一時的に仕事が忙しくなったとて、またその後数十年間、
発注が途絶えれば、生活ができない職人たちの技は
あっという間に消えてしまう。
ブームに乗って慌てて木桶を大量に発注するのではなく、
1年に1台の発注を長く続けてもらえた方が桶屋としては有難い。」

同時に
「木は他の材質と比べて、洗い等の面では管理の手間がかかる。
 これから先50年100年、本当に扱いきれるのか。商売は続くのか。
 長期的な覚悟を持って注文してほしい」

木材も同じ。
天然の木は100年以上かけてゆっくり育つからキメが細かい。
今はほとんどが植樹で、20年30年で杉材が採れるけれど、
植樹した木は天然と比べてキメが粗く、下処理をしないと
液体は漏れてしまう。
本当にいい桶を作りたかったら、100年後を見越して
木をゆっくり育てる必要がある。

社長の目はずっとずっと先の未来を見ていた。

左)天然の木材 右)植樹の木材 ※画像はさわら
残念ながら天然の杉はもう手に入らない。

伝統を守る。
今現在の生業の中核だけでなく、その関わりの先々の事情までも
大切にしなければ伝統を守ることはできない。
自分の「今」、「この」商いだけでなく、
その先は、その先は・・・と考える想像力。
時の流れと商売仲間を想う想像力なくして、伝統は続かない。

店頭で手に取る「木桶仕込みの醤油」の先には醤油蔵で伝統を守る人たちがいて、その先には桶職人、大豆農家がいて、更に先にはそれを支える自然がある。

一消費者として、私自身にできることは
木桶で醸造されたお醤油や味噌を食べ支えることくらい。
木桶は微生物たちが住み着きやすく、
温度変化も穏やかな為、蔵独自のおいしさを作り出すことができる。
そのおいしさと多様性を存分に楽しめる自分でありたいし
その良さを広めていきたい。












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