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翼が無いと分かった僕は地面をひた走る⑪【小説】

「先生、俺が、万引きをしたんです」

ゆっくりと、しかし力強く言う翼に石下がたじろぐ。俺も、少なからず驚いていた。普通は、こういうとき他人を売るだろ。担任が味方をしていて、容疑を掛けられている相手は不良。それなのに。

石下が俺の方を困ったように見た。学校側からしたら、全国模試で上位をとり続ける優等生の翼が万引きをする方が世間体的にも痛い。それは、そうだよな。

「いや、もういいよ」

俺が誘った。
そう、それに間違いは無い。万引きをすると思っては無かったけど、俺の余計な一言で翼が万引きをしたのだから。 

 「俺が命令しました」

そう言うと石下は安心したように肩をなで下ろした。そして店長に向かって「申し訳ありません、今から親を呼びますので」と言う。
 親?おい、ちょっと待て。

「先生!」

俺が口を開く前に、翼が立ち上がり石下に詰め
寄った。しかしそれを無視し俺に詰め寄る。

「何だ、その顔は。二回も万引きをすれば、当然そうなるだろ」

「だから、今回の万引きは白上じゃあ・・・」

「黙ってろ!」

石下が声を張り上げた。

「大体、何だ、お前らは」

目を血走らせながら、俺と翼の方を見る。

「俺がやっただの、やってないだの。仲良しごっこに興じるのは結構。事実として、昨日お前は万引きをした。そして今日、新たに万引きが発覚。今度はそこに学校が誇る優等生の富田もいる。聞くが白上。富田が言うように、万引きをしたのがお前では無いとしても、この場に居るのは偶然か?」

そう問いかけられる。そうだ、事実として、昨日俺は万引きをし、今回は翼に万引きを促した。本来、昨日の時点で親に連絡が行ってもおかしくなかったことだ。

「あの、私は、商品さえ買って貰えれば。それに、二度と繰り返さないようにして貰えれば。なので、出入りはもう止めていただきたいのですが・・・」

店長がしどろもどろでそう言ってきた。石下は何度も頭を下げる。結果的に、俺が翼の盗んだ商品代を払い、二度と出入りをしないという約束で見逃して貰った。

店を出て、石下が「この馬鹿野郎!」と俺たちを怒鳴った。

「白上は今から学校へ来い。富田は帰りなさい」

「だから先生、違うんです」

「もういい」

石下に必死で訴えかける翼の肩を押さえる。

「悪かったな。巻き込んで」

翼の顔が情けなく歪む。今にも鳴きそうだった。

「ありがとうな」

そして、俺は一週間の停学処分となった。

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