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翼が無いと分かった僕は地面をひた走る③【小説】

「ちょっと出かけてくる」

 リビングでスーパーのチラシを見ている母さんに声を掛ける。

「図書館?」

「違うよ。今日は日曜日だろ」

そういうと母さんは「そういえばそうね」と頷く。
母さんはいつもはかけない眼鏡をかけていた。今年で50になる母は最近老眼が酷いと言い、老眼鏡をかけている。

「じゃあどこに行くの」

「ちょっと、友達の家」

「珍しいわね。田辺くん?」

チラシから視線を僕の方に移した。
田辺とは中学時代の同じ野球部のチームメイトだった。もう暫く会っていない。僕は母さんの質問に答えず「夕飯には戻るから」と伝えて家を出た。確かにここしばらく日曜日に出かけた事なんて無かった。友達の家に言ってくるなんて、見え透いた嘘をついてしまった。失敗したな。

外に出て後悔した。季節は12月。流石にまだ寒い。マフラーや手袋などの防寒具をつけるのを忘れていた。でも今更戻りたくない。やむなく、駐輪場の自転車に跨がり、コートに顔を埋めて出発した。

携帯の地図アプリを見ながら自転車を漕ぐ。この、白上武という人物はどのような人物なのだろうか。先輩とはどのような関係なのだろう。同じ学校の先輩なら、最悪だ。次から顔を合わせるときにとても気まずい。僕は先輩が自殺した原因を知りたいだけであって、交友関係を新たに広げたいなんて思わなかった。

 初めての道だったがアプリのお陰で迷わず来れた。時刻は17時。日は暮れ、段々と街明かりが灯っていく。着いた場所には一軒家が建ち並んでおり、自転車を降りて一軒一軒表札を見ていった。こうも一軒家が建ち並ぶと、探すのも一苦労だ。せめて目印でも書いてくれていればと内心毒づいていた時だった。車道の反対方向から犬の吠える声が聞こてきた。まさかな、と思いつつ車道を渡りその犬の元へ行った。

「あった」

表札には「白上」という名前が書かれていた。
「お前、でかしたぞ」と、柵の向こう側にいる犬に声をかける。犬小屋を見てみると名前が書かれており「らん」とあった。

「そうか、名前はあるよな。ごめんよ」

そういうとまた吠える。何度も吠えるその鳴き声に違和感を覚えたのか、玄関のドアが開いた。「どうした」と犬に声を掛け、犬が見ている方向を見る。僕は慌てて会釈をした。

「初めまして、えっと、僕は」

「もしかして、鳥飼くん?」

家の玄関アプローチのライトに照らされ、顔が浮かび上がる。まだ若かった。髪は肩まで伸ばしており、色は金色に染めている。

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