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そんなつもりじゃなかった。【短編小説】


「なぁ、俺たちのせいじゃねーよな」

須藤くんが、周りの取り巻き達に同意を求める形で聞いてきた。

「なぁ。どう思う」

そのうちの一人である僕は、返答に困った。

そんなの、当たり前じゃないですか。

だよな、だって、あいつもネタだって分かってただろ。

取り巻き達の笑い声が、耳に入ってくる。

いや、僕たちのせいだろう。

ねぇ須藤くん。そんな質問をしてくるくらいだから、自覚してるんでしょ。

昨日、田口が転校した。

朝のHRで、担任の杉崎先生からいきなりそう告げられた。親の転勤が理由だそうだ。

周りは当然ざわつき、しばらくそれが続いた。

田口が一ヶ月ほど学校に来ていなかった時点で、薄々予感はしていた。

「杉崎の野郎も、ふざけてるよな。あいつもやってたくせによ」

一人の取り巻きがそう言う。
コンビニの駐輪場で固まっている僕たちに注意をする人は誰もいない。

耳にピアスを開け、髪型は金髪オールバック。目つきは鋭く、人の気持ちを玩ぶ男。学校はほぼ不登校で、ただたまに登校してきた時は、圧倒的存在感で周囲を支配する。それが須藤くんだった。

須藤くんの言葉に逆らう人はいない。大体が、そうだった。

だが、田口は少し変わっていた。

「須藤くん、これ、君が休んでいた時のノート」
「須藤くん、次のクラス行事の班だけど」

田口は、積極的に須藤くんに話しかけていた。

須藤くんは「うぜぇ」と、田口の態度に段々と腹を立てていた。

それでも田口はめげなかった。
周りのクラスメートは、そんな田口を敬遠していたが、僕は嫌いじゃなかった。

ある日、学校が終わり帰っている途中、後ろから「南條くん」と声をかけられた。

後ろを振り返ると、田口が笑っていた。

「今から帰るの?」

「え、うん。まぁ」

「そっか、家、どこら辺?」

僕は、少し躊躇ったが答えると、田口は目を輝かせ「近くじゃん」と喜んだ。

その日は、何故か一緒に帰ることとなった。高校生になり、初めて自分以外の誰かと下校した。

「高校生活はどう?」

慣れた?と、まるで教師のように聞いてくる。

「まぁまぁかな」

と僕は素っ気なく返した。

「これから色々なイベントもあるし、楽しみだよね」

田口は一方的に話しかけてくる。

「ごめん。僕の悪い癖なんだ。何か、南條くんからも話してよ。あぁ、でもそういえば」

とまたしゃべり続ける。なんてマイペースな男だ。
ふと、気になったことを聞いた。

「なんで、須藤くんに話しかけるの?」

すると、田口のマシンガントークは止まった。そして、短い髪を撫で、なんでって、と苦笑いをして答えた。

「須藤くんってさ、きっと、寂しいと思うんだ」

明るい口調で田口は続けた。

「だって、そうでしょ。本当に来たくなければ、来なかったらいい。でも、来るんだよ、彼は。そんな彼に教師含め、誰も近づかないでしょ」

だから僕は、話しかけるんだ。

さも当然、まるでそれが自分の使命のように言う。そんな田口が、嫌いではなかった。

「実はさ、僕、転校するかもしれない」

脈絡無くそう言ってきた。どうして、と聞くと「親がさ・・・。でも、好きにしなさいって。困ってるよ」

詳しく言わなかったし、なんでそれを僕に言ったのか分からなかったが。

ある日、また久しぶりに登校してきた須藤くんが「おい」と話しかけてきた。

僕は一瞬肩をビクッとさせ、須藤くんの方を見返す。

「今日から、田口の事を無視しろ」

「え?」

「いいから、そうしろ」

そう言って須藤くんは他のクラスメートにも声をかけていった。

「おはよう!」

何も知らない田口は、いつも通り登校してきて話しかけるが、誰も返事をしない。

「どうしたのさ、みんな」

誰も返事をしない。担任教師ですら、田口との会話を避けていた程だ。

須藤くんはその様子を、笑いもせず見ていた。

そんなことが、一ヶ月も続いた。当然、僕も話しかけられたが、逃げるようにその場を去った。

だって、須藤くんが監視をするように毎日登校してくるんだから、仕方ないじゃないか。

田口が休む前日の事だった。「南條くん」と覇気がない声で話しかけられた。そこには、やつれた顔の田口がいた。

「ねぇ、南條くん。みんなさ、まるで僕のことが見えてないみたいなんだよ」

無理やり笑った顔は、歪んでいる。

「サプライズかなぁ。僕、誕生日、まだ先なんだよね。二ヶ月後なんだよ」

流石に、きついよ。ねぇ、南條くん。

「僕、何かしたかな?みんなに、嫌われるようなこと」

僕は、返事をしようとした。違うんだ、田口。
だけど、須藤くんの顔がちらついて、やっぱり逃げた。

あの、すがるような、泣きそうな顔が今でもふとしたときに蘇る。

「あいつよ、俺にこう言ってきたんだよ」

須藤くんは、田口の真面目な口調をまねしてこう言ってきた。

「須藤くんは、見た目で損してるよ!そんなんだったら皆近づかない。折角の君の良さが、台無しになる!」

それは、酷いっすね。という取り巻きを睨む。そして、続けた。

「俺はよ、聞いたんだ。じゃあお前も、離れればいいじゃねかってな。だったら何て言ったと思う?」

思い出しながら、少し、笑いながら須藤くんは言った。

「僕は、君がどんな人か知りたいんだ!だってよ」

周りの取り巻きは何も答えない。
どう反応したらいいのか分からなかったのだろう。

「だからよ、あいつには、俺が味わってきたことを体験させようとした」

急に、トーンを落とした。

「あいつよ。最後の最後にこう言ってきた。須藤くん、人に無視されるってさ、つらいね。俺は、嬉しかった。だから、あいつとよ・・・」

僕は、思わず須藤くんを見た。

須藤くんは、田口と友達になりたかった。
でも、田口は転校した。

「そんなつもりじゃなかった。でもよ、やっぱり」

俺が悪いな、と乾いた笑いでそういった。

金髪で、目つきが悪く、たまに登校してくる。
周りに命令し、人の気持ちを考えず命令する。
見た目の印象から、不良という烙印を押し、須藤くんという人間を勝手に判断していなかっただろうか。

もし僕含む誰か一人でも「なんで、無視するの?」と聞いたら、須藤くんは何て答えただろう。

「悪かった。遊び半分のつもりだった」須藤くんは、僕たちの方じゃなく、その向こう側を見ながら謝った。
僕もその方向を見る。

田口。ごめん。本当にごめん。

田口が転校した理由は本当に親の都合かもしれない。でも、彼は選べた。転校する方へ舵を取らせた理由は、僕たちだ。

次の日、須藤くんは髪の毛を短く切ってきた。

そして、慣れない感じで皆にこう言った。

「おはよう」

その須藤くんの変わり様を見て、みんなやっぱり一歩引いていた。

でも僕は「おはよう」と須藤くんに近づいて挨拶を交わす。

須藤くんって、寂しいと思うんだ。だから、僕は話しかけるんだ。

そうだよな、田口。

もう間違いたくないから。須藤くんは、少し驚きながらも笑って返した。

(完/2755文字)

うたストの課題曲H『ツミホロボシ』から連想した物語を書かせて頂きました。

企画のリンクは下に張らさせていただきます。

課題曲Hの作詞・作曲はソーダ・ヒロさん。

素敵なメロディと歌声で、耳に残りました。

今回の作品は、そんな素敵な曲から連想させて頂きました。

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