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これからも変わらない、仕事で重要なこと

私の仕事場は自宅だ。あの憎きウイルスのせいではない。

3年前からWebライターという、ネット記事を書く仕事をしている。収入が少なすぎてバイトした時期もあったが、現在はなんとか在宅ワークだけで生計を立てている。


完全在宅で働き始め、10ヶ月ほど経った。

会社で働いても、自宅で働いても、私が思う「仕事で重要なこと」は変わらない。

ただ、仕事をする場所、仕事のやり方が変わっただけ。根本的なことは変わらないなあと思っている。



喫茶店で学んだ「目配り気配り」

私は約10年前、喫茶店でアルバイトをしていた。時給は、今思い出すと涙が出るぐらい低い。

しかし、接客は驚くほどレベルが高かった。



お客様が大声を出さずに済むように、注文は決まっていそうな雰囲気を見極めて聞きに行った。

飲み物を持っていくタイミングは「食前」「食事と一緒」「食後」のいつなのか聞く。

「食前」なら注文を厨房に通した後、すぐに持っていく。
「食事と一緒」なら、すぐ持っていけるようにコーヒーカップやグラスをトレイに乗せておく。
「食後」なら、食事が終わってすぐ運べるように、お客様を観察しながら準備した。

お客様がゆったりと寛げるように、空いたお皿はなるべく早く下げる。空いたお皿を下げないのは厳禁だった。

お冷やは「お冷やください」の声がかかる前に注ぐ。

事前にデザートの注文があれば、食事が終わりそうな頃、厨房へ伝えなければならない。



時給と反比例し、やることは膨大だった。

ランチタイムはお祭り騒ぎのような忙しさで、注文をとる・お冷やを注ぐ・料理を運ぶ・飲み物を準備する、運ぶ・空いたお皿を下げる・グラスやカップを洗う…などをこなす。時にはレジ打ち、コーヒー豆の販売も加わる。


他の飲食店に訪れるうち、「あ、私が働いているお店は接客レベルが高いのか」と気づいた。給料が比例しないのは悲しかったが。



喫茶店では「目配り気配りが大事」だと教わった。

お客様が大声を出さずに済むように。
食後にすぐコーヒーを楽しめるように。
テーブルでゆったりと寛げるように。

これらはすべて、お客様を思ってのことだ。お客様が「来てよかった」と思えるように、目配り気配りを忘れない。



喫茶店では約3年働いた。

慣れると、「お客様がカウンターに近づいてきたら、ほぼ100%トイレの場所を聞かれる」と分かる。カウンターに近づくお客様にはこちらから目を合わせ、トイレの場所を伝えた。

90%は正解だった。
(ちなみに残り10%は「内緒でケーキを用意できますか?」などのお願い。素敵。)



常連さんのなかには、障がい者の方もいた。空いたお皿をキッチンに運ぼうとすることが度々あった。当然ながら、キッチンは関係者以外立入禁止。

その方の気持ちを極力くみ取り、
「すみません、ありがとうございます。でも私の仕事がなくなってしまうので、このままで大丈夫ですよ」
と伝えた。

笑いながらお皿から手を離してくれた……だけではない。私は、その障がい者の方のお気に入りの店員さんになった。私の出勤日を選んで来てくださるようになり、たまに折り紙をいただいた。



私は決して、接客が得意なわけではない。人見知りだし、話すのは今も昔も苦手だ。

喫茶店では目配り気配りを意識して、「どうすればお客様が心地よく過ごせるか?」を考えた。お褒めの言葉が少しずつ増え、接客業が楽しいと思えてきた。


目配り気配りの精度を高めるには、相手のことを想像しなければならない。

私が思う「仕事で重要なこと」は想像力だ。


喫茶店では、仕事における想像力の重要さを学んだ。

お客様に対してだけではない。一緒に働くスタッフに対する想像力も重要だ。

ベテランのMさんが冗談をよく言い、誰とでも明るく接していたのが影響している。(慣れない私に、とても良くしてくれた。)


普段からよく話していると、ランチタイムのような忙しい時間帯でもスムーズに仕事を進められると知った。

Mさんはさすがベテラン。私に話しかけなくても、「〇〇ちゃん(私)は2番テーブルのお皿を下げに行ったな。コーヒーを準備しよう」と私のことを想像し、的確に分かってくれる。

私もそのうち、Mさんの動きが分かるようになった。慣れると話さなくてもお互いの動きを想像でき、次に何をすればいいのか自然と気づく。


ある時、40人ほどのお客様をMさんと2人で接客した。あうんの呼吸とはこのことか、と知った。ギリギリな状況だったが、クレームはなく、仕事が終わるとお互いの働きぶりを称えた。筋肉痛になったのは無理もない。

お客様、Mさん、厨房のスタッフ、いろんな人や状況を瞬時に想像できたからこそ、無事に仕事が終わったとも感じた。



ジェントルマンから学んだ想像力

ある1年間、地元の有名な百貨店で何十年も働いていた方(Aさん)と一緒に仕事をした。定年退職後、プロジェクトのために仕事を引き受けてくださった。

Aさんは「ジェントルマン」と呼ぶのがふさわしい。スーツにはポケットチーフを欠かさず、オシャレで、気品があり、どんな人とも優しく接していた。

百貨店時代はかなり上の役職についていた方で、私がご一緒するのは申し訳ないと思っていた。しかし、貴重な機会だととらえ、有意義な1年を過ごした。



その年の私の誕生日、大きな仕事が入った。日曜だったが絶対に外せず、休日出勤で対応した。後日、職場のお2人が誕生日を祝ってくださった。

誕生日会を提案したのはAさんだ。

私は誕生日に仕事が入ったことに対し、文句も愚痴も一切言っていない。そもそも、自分の誕生日にさほど執着していない。

それなのに「3人で祝おうか」と提案してくださったのは、心底うれしかった。



当日は心あたたまる料理をお共に、貴重なお話を聞け、とても穏やかで優しい時間を満喫した。私の誕生日と、大きな仕事を無事に乗り切ったこと。3人で楽しく祝った。

「なんていい日なんだろう」と思っていたら、急に花束が登場した。

Aさんにも、もう1人のスタッフ(Sさん)にも、大切な家族がいる。ただでさえ貴重な夜の時間を、私なんかの誕生日に時間を割いてくださって申し訳ないし、心からありがたいと思っていた。

食事で気持ちはもう十分なのに、さらに花束をプレゼントされるなんて、予想外だったのだ。


Sさんはこっそり「花束はAさんから」と打ち明けた。

私が喜ぶように、と考えてくださったのが嬉しかった。しかも両手で抱えなければならない、大きな花束。とっても嬉しく、いくつかドライフラワーにして自宅に飾った。



ある日Aさんと、「仕事では何が大切か?」という話をした。
Aさんは「長年働いてきて、1番大切なのは想像力だと思う」と答えた。

百貨店で何十年も働き、たくさんのお客様、従業員と関わってきた方だ。仕事のベテラン中のベテランの方が、「想像力」だと答えた。強く印象に残り、私は今でも「その通りだなあ」と心のなかで何度もうなずく。


私が知る限り、Aさんはプロジェクトに関わるすべての人に目配り気配りを欠かさなかった。

いつも先回りして情報を集め、私の急な質問にも的確に答えた。
「このほうが相談しやすいだろう」と提案し、部屋のレイアウトを変えた。
(実際に相談者が増えた)
どんな人にも挨拶を欠かさず、非協力的だった人とも打ち解けるようになった。


相談者、市役所や委員会などの関係各所、事務所、スタッフのSさん、私。
Aさんは誰と話していても、会話が弾む。

Aさんは威圧的に話していたわけではないし、Aさんに気を遣って相手が話を合わせていたわけでもない(少なくとも私はそうだった)

打ち解けやすいように、仕事を進めやすいように、Aさんは想像力をフルに働かせていたように思う。どこまでもジェントルマンで、相手への気遣いを忘れない。

お茶を出してくれた女の子には「お茶、ありがとう。美味しかったよ」と伝え、相談者には「なぜ〇〇を始めてみようと思われたんですか?」と優しくたずねていた。誰に対しても寄り添おうとするAさんの姿は、私に響いた。



会話が弾むのは、想像力の賜物だ。

相手の心情や状況を想像した上で、話しやすい質問をし、気に触るようなことは聞かない。すると、会話は初対面でもどんどん弾む。

Aさんと一緒に働いた1年間、想像力の大切さを間近で学んだ。
気兼ねなく会話できると、仕事の相談もしやすい。相談者が増えたのは、きっと部屋のレイアウトだけが理由ではない。

話しやすい雰囲気が漂っていたAさんのお陰で、プロジェクトは成功した。


退職する日、「何か仕事で困ったら、急に連絡するかもしれません!」と伝えた。Aさんから「いいよ。どうぞどうぞ」の答えと、笑顔が返ってきた。

結局一度も連絡していないが、間違いなく、今の私の土台はAさんによるものだ。



この先も、仕事で重要なことは変わらない

今の私の仕事は、Webライター。クライアントから依頼され、ネット記事を書く。書くジャンルはさまざまで、美容やFX、生活の悩みなど、わりと幅広い。

しかし、どんな記事を書こうと「読者を想像する」のは変わらない。

何に悩んでいるのか?
何が不満なのか?
何に戸惑いそうなのか?

これらを想像して読者の考えに近づけば近づくほど、より良い記事が書ける。


「分かりやすく書く」が仕事における私のモットーだ。「分かりやすく」するために、難しい言葉を使わない・誤字脱字をなくす・1文を短くするなど、欠かせない要素は多々ある。

「読者に寄り添った、分かりやすい内容なのか?」も重視し、読者を想像しながら書いている。

たとえば、気分転換に関する記事のなかで「趣味を楽しみましょう」と書いたとする。“趣味がない人”を想像できれば、「特に趣味がない人は、普段選ばない道を散歩するのがおすすめです」のように書ける。



仕事のすべてを在宅で行ない、クライアントとはチャットまたはメールで連絡している。電話やZoomなどで話さない。

チャットやメールでは相手の顔が見えない。顔文字はほとんど使わないので、100%近く文字だけでやり取りする。想像力がとても大事だ。

クライアントのなかに、気配りが素晴らしく、いつも優しく気を遣ってくださる方がいる。文字だけのやり取りだが、仕事ができて、きっと周りに気を配っているんだろうなあと感じる。


連絡時は、なるべく「ありがとうございます」と書くように意識している。クライアントと、少しでも心地よく仕事をするためだ。

相手の不手際に気づいたときも、まずは「ご対応ありがとうございます。」と書き、その後に「しかし、〇〇では後々トラブルになる可能性があるため、…」などと伝える。

書いた記事を毎回すぐにご確認くださる方には、「いつも迅速にご対応いただき、ありがとうございます。」と返信する日もある。

想像をふくらませ、感謝の気持ちを伝えている。



メールやチャットでは、表情、声のトーンで微妙なニュアンスを伝えられない。その分、対面とは違う想像力が必要だ。

月末は仕事が立て込んでそうだから、「〆切前でお忙しいとは思いますが…」と付け加える。
修正してくださったことに対し、「お手を煩わせてしまい、恐れ入ります。」と謝る。
先回りして「お早いかもしれませんが、資料に〇〇と書いていたため、今回△△を添付いたしました。」とやり取りを少しでも減らす。


私が想像して行なったことは、相手が必ずしも喜んでいるとは限らないだろう。

しかし幸い、クライアントから感謝されることが多い。先日は「新しい案件で引き続きご一緒にお仕事できて、うれしいです。」と返信がきた。私もうれしい。



仕事では想像力が重要だ。

相手のことを真剣に考えて想像すれば、おのずと「自分が何をすればいいのか」が見えてくる。

お客様を想像すると、「こうすればもっと快く過ごせる」「こう書けば理解しやすい」がだんだん分かる。

一緒に働く方を想像すると、「緊張して作業しにくいのでは?」「先に〇〇を伝えておくと早く終わりそう」と気づき、仕事がスムーズに進む方法が見つかる。


想像力は仕事に好循環をもたらす。

お互いに思いやると、職場はどんどん快適になり、仕事がはかどる。

対面でも、電話越しでも、会社に出勤しても、テレワークでも。



この先、どんな未来になるのか一層分からない。もしかすると、AIでは到底予測できない想像力こそ、仕事の、そして人間の強みなのかもしれない。

私の想像をこえて花束が登場したあの日のように、優しさの想像力を養いたい。



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