ブス認定　vol.03

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私は何十年と好きでもない、なんのエピソードもでてないピッチャーくんの好みに振り回されてただただ、卑屈な人生を送っていたのか。そう思うと悔しくて仕方がない。あの時もあの時も、あの呪いさえなければ。くぅーっ。

　悔やんでばかりはいられない、今後も2度と同じことが起きぬよう自分の中でしかと学びに変えねばならぬ。早速、その言葉を自分の中で繰り返しながら、なぜこんなことが起きてしまったのかを考察してみることにした。

・スクールカーストの頂点である野球部
・そのエースは問答無用で影響力がある
・影響力がある人間には権力がある
・権力者の言うことは絶対だ
・権力者には逆らえない
・権力者は正しい

　すでに思い込みの時点で随分、赤字を入れたくなるようなものが羅列されているが、これこそが知らぬ間に、刷り込まれてしまった自分の当たり前であり思考の癖だったりもする。誰にでもこの思考の癖があり、それをもとに自分の世界や現実を作っているのだけれど、私の場合は、偉人や権力者のいうことは絶対である。皆が崇める影響力のある人間の言うことが正しい、という前提があったために、この呪いをさらに強力にしてしまったのだと思われる。

　悲劇、いや、喜劇としか言いようがないが、私の人生プログラムには必要不可欠なエピソードだったのだろうと折り目をつけるしかない。今の年齢の私から見ると、まずスクールカーストという概念がないし、エースだから影響力がある、という理論に結びつかない。野球部は絶対でもないし、権力があるわけでもない。いろいろおかしすぎてへそで茶を沸かすほど。

　しかし、当時の私は真剣だった。だからこそ本気で苦しんだし、悩んだのだ。そしてちょと前の私のように、いまだにこういった呪いに縛られている人はきっといる。

　答え合わせをする教育で育ち、自分から湧いてくる意見や考えよりも、用意された答えを採用してしまう習慣。みんなが言うのだからと、多数決をよしとする風潮。自分より立場が上の人間の意見を疑わない、鵜呑みにする「うのみん」達。

　私の場合は「ブス」だったけれど、親に、先生に、先輩に、恋人に、友達に、自分より立場が上だと思っている人間に言われた一言に、囚われてしまって、それを信じきって、自分の人生に採用している人はきっといるし、その呪いにがんじがらめになって動けなくなっている人もきっといる。

　でも、どんな話においても、誰かの言ったそれは、正解ではなく、単純にその人が「正しい」と思い込んでいる解釈の話であって、決して私の、あなたの、誰にとっての「正しさ」ではないことを知らなければならない。そして、それを受け入れるか受け入れないかは自分で選択できることを、あまりにも私は知らなすぎた。

　個性を大事にするという世の中にありつつあるが、どうしても声の大きな人の意見が「正しい」とされがちで、それにうっかり引っ張られてしまいそうになる。こんなに偉いんだから、こんなにすごいんだから、こんなに人気なんだから、こんなにお金持ちなんだから、こんなに美人なんだから。。。言ってることは正しいに違いない。

　しかし、ほんとうにそうなのか？

　私が本当にブスかどうかはこの際どうでもいい。定義のないことにいちいち悩んでいる暇はない。ただ、野球部の少年が私に対して「ブス」だと思ったことは事実だろう。だからと言って私が本当に「ブス」かどうかは別の話だし、私の存在価値とはなんら結びつかない、ブスだと証明もできない。

　なぜならそれは野球少年の個人的主観だからだ。

　この答えに辿り着くまでに大層な時間を費やしたが、今はとても晴れ晴れした気持ちだ。　

　もし、今の私がタイムマシンに乗ってその場に居合わせたとしたら、私に「ブス」と言い放ったその野球少年にこう言おうと思う。
「あんたが私をブスだと思おうが思うまいがどうでもいいけど、個人的主観で絶対的に決めつけるのはやめてくれ」

　どんなにメディアに引っ張りだこのひとだろうと、どんなに有名な人だろうと、どんなに偉い人だろうと、どんなに金持ちの人だろうと、その人が言っている意見は「絶対的正解」ではなく「個人的主観」であることを忘れてはならない。

　もちろん参照しているデータがあったり、根拠のある情報だったりすることもあるが、それでもその意見は「その人が取捨選択した上で採用した個人的な意見」であると言うことを忘れてはならない。

　昨今様々な情報に埋もれている現代人だけれど、もし自分以外の何かしらの意見に心を痛めたり、気を揉んでいる人がいるとするならば、私はこう伝えたい。

「それはその人の一意見であって、事実ではないし、あなたの存在価値とは一切無関係だ」と。

　他人の心無い言動で呪いをかけられてしまっている人の呪いが、瞬間的に解けますように。