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言葉は熱を生み出すことを実感 映画「三島由紀夫vs東大全共闘 50年目の真実」 #524

伝説の人物が動いて、話している。

ムキムキの筋肉は身体だけじゃなく、脳にもついているんじゃないか。そう感じてしまうほどの熱い対話が繰り広げられる映画「三島由紀夫vs東大全共闘 50年目の真実」。1969年に行われた三島と東大全共闘との討論会を映したドキュメンタリーです。

映画を観たのは、実はだいぶ前のことです。映画館を出る時、なんともいえない虚脱感があって、同時に、自分の中に言葉が駆け巡る感じがしました。だからよけいにnoteに書きにくかったんですよね。

60年代から70年代は、戦後の日本の中で、一番「政治」が熱かった時代といえるのかもしれません。暴力も辞さない団体のところへ、たったひとりで向かう天才作家。言葉を尽くしてお互いの信念を語り合う姿は、たとえ理解し合えなかったとしても気持ちのいいものでした。

なにより、三島に、学生を見下すようなそぶりが見えなかった。決してウケ狙いの浮ついたことは言わないんです。

だから熱い討論に引きずり込まれるように観られたのだと思います。時に飛び出す冗談も、辛らつな言葉も、相手を一人前と認めてのこと。ガチの“筋肉”勝負であることが伝わってくるんですよね。

言葉は熱を生み出すことを感じる、「対話」の映画なんです。そして、対話するためには「傾聴」することが大事なことも伝わってきます。ちゃんと聴いているから、ちゃんと議論をかみ合わせることができる。頭に血が上ったとしても、ロジカルなんです。

自分の考えを、こんなにも熱く、鋭く、語れるなんて。

一番の見どころは、芥正彦さんとの論争です。芥さんは東大全共闘随一の論客と呼ばれていたそうで、現在は劇作家、演出家、俳優、舞踏家、詩人として活動しておられるのだとか。この会場にいた学生へのインタビューは、他の方にも行われるのですが、芥さんへのインタビューは背筋が凍るほどの緊張感に包まれていました。

たぶん、この人だけが、「負けた」と思ってない。

他の方が語る当時の学生運動に対しては、「過去のこと」という断絶を感じるのです。一方で、芥さんだけは現在進行形で戦っている。

あの時の三島と、現代に生きるなんちゃって政治家と。

ニュースを見ていると、「いや、もう少し、覚悟を持ってやってくれないかな……」と思ってしまう。それは、言葉に熱を感じないせいなのだと、三島と東大生たちの討論と比較してしまったのでした。


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