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60を過ぎてスパイデビュー!? 『おばちゃまは飛び入りスパイ』 #621

わたしがこの世界に存在している意味なんて、ないんじゃないか。今日、消えてなくなったとしても、誰にも気づかれないのに。

これまで何度となく、そんな思いに襲われました。いつの間にか、溺れる直前になっていて、「息をしなきゃ!」と突然ジタバタしてしまった。

「おばちゃま」ことミセス・ポリファックスも、とつぜん、鬱の波に襲われてしまうんです。そこでとった打開策は、CIAにスパイ志願に行くことでした。

ぶっ飛びすぎ!!

60を過ぎてスパイデビューを果たしたミセス・ポリファックスの大冒険『おばちゃまは飛び入りスパイ』をご紹介します。

<あらすじ>
夫を亡くし、ふたりの子どもは独立、ひとりで暮らしているミセス・ポリファックス。ある日、生きる気力をなくし、ベランダから飛び降りようとしたところで、ハッと我に返る。このままではいけないと一念発起。CIAに乗り入んでスパイに志願し、メキシコに派遣されるが……。

日本で発刊されたのは1988年ですが、1966年に書かれた小説です。そのためスパイの小道具類がちょっと古い。でも、ミセス・ポリファックスのトーシローぶりと合わさって、うまい具合にユーモアとして昇華しています。

この本をきっかけに14巻まで続く「ミセス・ポリファックス」シリーズを書いたドロシー・ギルマンは、1923年の生まれ。離婚して、ひとりでふたりの子どもを育てながら、小説を書き続けました。

『おばちゃまは飛び入りスパイ』を書いたのは40代。お見事だなーと思うのが、60代であるミセス・ポリファックスの“枯れ”っぷりです。物語の冒頭、植木鉢の中で萎れた花そのものだったミセス・ポリファックスが、自ら飛び込んだ冒険によって、生き生きと蘇るのです。

メキシコで出会い、生涯の友となるファレルのかっこよさもしびれます。まーほとんどの時間、骨折して毒づいているか、熱を出してうなされているか、なんですけれど。

タイトルになっている「おばちゃま」は、そのファレルがミセス・ポリファックスに名付けた愛称です。素人故の大胆さと、勇敢さ。なにより、いまを生き抜くための知恵と好奇心にあふれたチャーミングな老女を、彼は限りない愛情を込めて「おばちゃま」と呼ぶのです。

拉致され、殺されかけ、地球の裏側から命からがら戻ってきたミセス・ポリファックスに、隣人が声をかけます。

「あなたはもっと旅をしなくてはね」

旅はもちろん、人生の幅を広げてくれるものですが、好奇心がなければ始まらない。「おばちゃま」は、旅を通して自分を再発見し、存在に自信を持つことができました。

わたしはいま、冒険しているだろうか?



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