「二千七百の夏と冬」本を読んだ感想

「二千七百の夏と冬」 荻原 浩(著者)

 僕は文庫本を読み始める前、いつも巻末の解説を読むことにしている。ネタバレもあるかもしれないから、あくまでもチラッとだけ。それで大体どんな小説かを確認するのだが、この作品はなんと2700年前の縄文人の物語だとのこと。

 歴史小説は好きだけど、縄文時代はあまり興味がそそられない。

 本編を読み始めても最初はしんどかった。なんたって作中に出てくる名詞が縄文当時の呼び方を想像してつくりあげているので( カァー  ➔ シカ、 ヌペー ➔ ドングリ など )、慣れるのが大変なのだ。

 でもこれに慣れてきた頃には物語も動き始めるので、気づいたらどんどんのめり込んでいってしまう。なんとこの作品、めちゃくちゃ面白いのである。

 物語は、2011年(なんと現代)ダムの建設現場から縄文人の骨が見つかるところから始まる。そして性別や年齢があらかた推測されたところで、今度は縄文時代のシーンに移る。そう、この物語の主人公はこの骨の人物なのである。

 主人公ウルクはピナイという村に住む少年。まだ成人の儀式を終えていないウルクは、まだ狩りの技術も精神も未熟。そんなウルクが狩り、村のしきたり、冒険、言葉の通じぬ人との出会い、そして恋…。色々なことを経験して成長していく。

 狩りのシーンは命の駆け引きを緻密に描写しているので、読んでいるこちらもハラハラするし、恋に悶えるウルクを見てこちらもキュンキュンする。

 同時進行で現代側の研究も進み、だんだんとウルクが命を落としたときの状況が分かっていく。

 この研究結果の方が先に分かって行くので、読者はウルクの命のリミット、死の瞬間そばにあったものがある程度分かった状態でウルク物語を読み進めていくことになる。

 これが本当に切ないのだ…。展開が分かっていても、どうして死んでしまうのかと考えながらどんどんページをめくるスピードも上がっていく。

 ラストシーンは分かっていたことだけど、どうしても涙してしまう…。ネタバレになってしまうから詳しくは書けないが、成長したウルクの死の瞬間に抱いた強いおもいが本当に美しいのだ。

 あぁ、今ラストシーンだけ見直しても泣ける。未読の人はぜひ手にとってほしい作品だ。


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