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元寇の沈没船を蘇らせる最新テクノロジー @サイエンスZERO: 元教授、定年退職185日目

子供の頃、とりわけ男の子は「考古学」にロマンを抱くことが多いように思います(これは昭和世代だけでしょうか?)。理由はよくわかりませんが、理系の私も例外ではなく考古学が大好きでした。そのため、映画「インディージョンズ」シリーズが始まった際には、すでに大人になっていたにもかかわらず大喜びしたものです。今回は、そんな考古学に関する話題をお届けします。

<追記> 奥様は文系のはずですが、どちらかというと地質学に興味があるようで、今でも老舗のデパートに行くと、大理石の壁を細かく観察し、アンモナイトの化石を探しています(笑)。


先日、NHK Eテレの「サイエンスZERO」で「考古学をリードする最新テクノロジー」という特集が放送されました(タイトル写真、下写真:注1)。いくつか興味深いトピックスがありましたが、今回はその中から「水中遺跡で活躍するテクノロジー」について取り上げます。驚くべきことに、中高時代に社会科の授業で学んだ「元寇」に関連する話題でした(下写真)。

サイエンスZERO:タイトル(注1)
元寇の絵図(注1)


長崎県と佐賀県の県境に位置する伊万里湾で、元寇の沈没船の遺跡が発見されました。これは日本に攻めてきたモンゴル帝国の軍船で、嵐(神風)によって沈んだとされています。鎌倉時代ですから、約800年前の出来事であり、解析が進めば歴史的に貴重な証拠となります。しかし専門家によれば、木片が水中の微生物により浸食を受けてスカスカになっており、単に引き上げただけでは、乾燥して縮んでしまうという大きな問題があったそうです。

モンゴル帝国の軍船の絵図(注1)


今回のメインテーマは、その乾燥による収縮をどのように防ぐかという点です。実は私の研究分野の一つである「ゲル」でも同様の課題があり、「スルメを見てイカがわかるか?」という格言があるほどです。要するに「現状のままをいかに保持するか」が重要なのです。もし成功すれば、想像図ではなく、実物の模型が目の前に現れるという、まるで夢のような話です。


長崎県の松浦市立埋蔵文化財センターには、その成果として船の隔壁板(内側の仕切り)である5メートルを越える長い板が展示されています。木材の質が保たれており、非常に良好な状態だそうです。なぜ収縮しなかったのか、ここからが本題です。(下写真参照)

引き上げ、処理をした5メートルを越える長い板(注1)
船の隔壁板とのこと(注1)

解決策として、砂糖の仲間である二糖類、トレハロースを使用し「砂糖づけ」にしました。しかし、それだけでは水分が蒸発すれば乾燥して元の状態に戻ってしまいます。そこで、トレハロースの特殊な性質を利用します。

トレハロースには、水温により溶ける量が劇的に変化するという特性があります。番組では実際の実験が紹介されましたが、80℃では水100mlあたり85gも溶けるのですが、室温まで下げると結晶化が始まり、どんどん固まっていきます。この特性を利用して、木材の空洞の部分にトレハロース溶液を浸透させ、温度を下げて結晶化させることで、木材内部をトレハロースの結晶で支え、元の形状を保持することに成功したのです(下の模式図参照)。トレハロースには多くの水酸基があり、木材との親和性が高いことも浸透しやすい理由の一つと考えられます。

「トレハロースの結晶で元の形状を保持」の模式図(注1)


これらは素晴らしい成果で、今後の展開にワクワクします。この技術の普及には、デンプンからトレハロースを生成する酵素の発見も大きく貢献しています。酵素の発見によりトレハロースの価格が100分の1に低下し、研究が加速できたのです。科学者として、この点も強調しておきたいです。

<追記> 私たちの分野では、生物や食品などの水や油を含む試料をそのまま観察する方法として「クライオSEM」という方法があります。そのまま真空環境下で顕微鏡観察すると、試料内の水や油が気化して試料の形状が変化してしまうので、それを防ぐため、試料を急速冷却して凍結させ、真空環境下でも形状が変化しないようにするものです(SEMは走査型電子顕微鏡の略です)。


「サイエンスZERO」のこの回は非常に興味深く、他にも古墳内の土で覆われた絵をX線で観察する技術や、ナスカの地上絵をAIで探索する試みなども紹介されていました。機会があれば、これらのトピックスについてもご紹介したいと思います。お楽しみに!


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注1:NHK Eテレ「サイエンスZERO:考古学をリードする最新テクノロジー」より


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