紫外線と戦うイクラと化粧品の意外な共通点: 元教授、定年退職193日目
北海道で学会が開催されると、さまざまな美味しい料理を楽しむ機会があります。ある時、二条市場に連れて行ってもらう機会がありました。そこにはカニやホタテが並んでいましたが、私が選んだのは「鮭の親子丼」という名物料理でした。イクラの濃厚な味わいと、焼き鮭のさっぱりとした切り身が山盛りになっており、絶妙なハーモニーを奏でていました。鶏の親子丼も大好きですが、この異なる味の組み合わせにより、あっという間に完食しました。
さて、NHK番組「チコちゃんに叱られる」で「イクラはなぜ赤いのか」という特集が放送されていました。通常なら川魚の卵は透明か薄い黄色をしており、敵に発見されにくいようになっています。しかし、イクラは鮮やかな赤なのです(タイトル写真:注1)。
この質問に対する答えは、私の想像を超えたものでした。単なる生物学的な理由ではなく、化学的な要因もあり、それは「紫外線から命を守るため」だということです。しかし、それならば、他の川魚の卵は赤くない理由については疑問が残ります。
番組ではその点について詳しく説明されました。鮭以外の川魚は、下流や中流の深い川底の岩や水草の裏に卵を産むのに対し、鮭は上流の浅瀬に卵を産むのだそうです。その理由は、鮭は一度に生む卵の数(約3千個)が他の川魚より圧倒的に少ない(他の魚は数万から数十万個)ため、敵の少ない「上流の浅瀬」に卵を産むという行動を取ります。しかし、浅瀬では紫外線の影響が強く、活性酸素にさらされることになります。少量の活性酸素は体を守りますが、過剰になると細胞を傷つけます。(下写真もどうぞ)
そのため、強い抗酸化作用を持つ「アスタキサンチン」で卵を守る必要があります。少しだけ化学的な話をすると、アスタキサンチンは赤色の天然色素で、β-カロテン(ニンジン)やリコピン(トマト)などと類似構造の共役系化合物カロテノイドに分類されます。アスタキサンチンはオキアミやエビ、カニなどの殻に含まれており、鮭はそれを食べて体内に取り込みます。特にメスは卵巣でアスタキサンチンを凝縮すると言われています。これで、すべての説明がつながりました。
「アスタキサンチン」と聞いて、以前別の番組で特集されていた富士フィルムの化粧品の話を思い出しました。その特集は、TBS番組「がっちりマンデー!!」の「富士フイルム、大打撃から大変身で大復活!」というものでした。もともと、富士フイルムは写真の色褪せを防ぐために抗酸化成分の研究を進めていたそうです。その中で、アスタキサンチンが天然成分で強い抗酸化作用を持つため、紫外線から肌を守る効果が期待できる化粧品への応用を考えたそうです。
しかし、脂溶性のため水に溶けず、そのままでは化粧品には使えませんでした。そこで、番組に出演した社長の話によると、フィルムの「乳化技術を使って(マル秘?)」ナノテクノロジーを駆使し、1 mm の百万分の 1 の小さな粒子にして、水に溶ける様にしたとのことです。その結果、現在の「アスタリフト」などの製品につながったそうです。
こうして、イクラと富士フイルムの化粧品は「アスタキサンチン」という共通のキーワードで結ばれているのでした。意外なもの同士に繋がりを見つけると思わずワクワクしてしまいます。では、また。
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注1:NHK番組「チコちゃんに叱られる(10/5):イクラの謎」より
注2:TBS番組「がっちりマンデー!!:富士フイルム!大打撃から大変身で大復活!」より