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【体験談】ハウルのフリをしてたら、エレベーターでおばさんに叱られた話
僕は時々やらかす性格なのだが、
これは割と恥ずかしい話である。
数年前のある日、僕は一人カラオケに行った。
カラオケはみんなで行ってわいわい騒ぐのも好きだが、一人で思う存分歌いまくることも割と気に入っている。
この日も、一時間半歌いまくって僕は満足だった。
毎回、温泉に入った後のような清々しいリフレッシュ感を覚えながら、店員さんに会計を渡して、店を後にする。
その日行ったカラオケのレジは四階だったため、階段を使わずにエレベーターへ一人で乗った。
フロアボタンの前に立って、一階のボタンを押すと、ドアがウィィンと閉まった。
そこは誰もいない一人の空間。
僕はカラオケの余韻に浸り、妙なテンションになっていた。
あろうことか、誰も聴いていないのをいいことに、鼻歌を歌い始めたのだが、途端に、三階でエレベーターが動きを止めた。
お前の鼻歌なんか聴きたくないから出て行けとエレベーターが僕を吐き出すかのような俊敏さだった。
僕は人に聴かれるのは想定していないため、
ドアが開くよりも速いスピードで鼻歌を止め、「なにもしてませんよ?」とばかりに平静を装う。
ドアが開くと、70〜80くらいのお婆さん寄りのおばさん5.6人が立っていた。
どうやら、三階はカフェらしい。
僕は「開」のボタンを押して、「どうぞ」と言わないながらも紳士のつもりで向かい入れた。
ボタンを押してもお礼なんて言わないのがスタンダードっぽくなってしまっている世の中で、気さくなおばさんたちは、みんな「ありがとうございます」と言ってくれた。
僕は、少し鼻が高くなるのを感じた。
昨日見た『ハウルの動く城』がなぜか頭に浮かぶ。ハウルがカッコよかったのだ。
気づくと、ソフィ婆ちゃんをエスコートするハウルになったつもりの男がそこにはいた。
少しギュウギュウな状態で、一階へと向かう。
気さくなおばさんたちは、「お兄さん大きいねぇ」などと言ってくれるが、ハウルになったつもりの男は「ハハッ、そうですか?」と本人になりきったつもりでも実際には逆であろう愚かな対応をする。醜い大根役者である。
ちなみに、身長を褒めるときに「デカイ」「大きい」「木みたい」は嬉しくない。「すらっとしてるね」が適した褒め言葉である。このおばさんたちにも以後覚えてほしいが、ハウルはそんなこと指摘しない。
そんな中、一階に着いた。
ニセハウルは「開」ボタンを押して、
「どうぞ〜」と口にする。おばさんたちは声を揃えて、「ありがとぉねぇ〜」と言ってくれた。
お礼されるのは気持ちが良いものだ。
そう思った。
そんな僕を他所に、
突然、一人のおばさんが「うわぁっっっ!」という悲鳴と共に二つの鉄の扉にプレスされた。
えっっ!?!?と思って、自分の指先を見ると、指は堂々と「閉」を押していた。
その瞬間、ハウルは粉々に散った。
お前なんで、そこ押してんの?
と、自分の意志に反する行動をとった人差し指を叱りつけて、目の前のおばさんに「悪いのはこいつです!」と人差し指だけを差し渡し、僕本体は地下へ隠れたい思いだった。
しかし実際問題、指をどう差し出すかを考えるより、どう謝るかを考えた方が生産的なのは僕であってもさすがに分かった。
すかさず「ごめんなさい」以上の懺悔の言葉を脳内フル回転で検索するも、ヒットせず、
「うわっ!ごめんなさい!」と言葉を発した。
「うわっ!」は「意図していなかったんです、わざとではありません」という意味を存分に詰め込んだ至極の言葉のつもりだった。
結果的に、懺悔の気持ちより保身が優った瞬間であった。
しかし、挟んだドアが開くと同時に、挟まれたおばさんの「あぶないじゃないのぉ!!」という怒号が響く。
これは怒られてる時のイメージだ。
決して馬鹿にはしていない。
僕は、非常に申し訳なく思い、「ごめんなさい」と必死に謝った。
一方で、エレベーターのドアが人を怪我させるものじゃなくて本当に良かったと胸を撫でおろした。
何回か頭を下げ、他のおばさんたちからは「そういうこともある」との御言葉を頂けたが、
御本人はプンプンなようだった。
「どうぞ〜」という若者の一見親切な言葉を信じた結果、突然ドアで挟まれたのだから、怒るのも当然である。
その後、ご本人から「気をつけなさい」とご注意を頂き、おばさんたちは駅の方向に向かって歩いていった。
しかし、僕の目的地なのも駅なため、
一緒に帰るのは気まずかった。
エレベーターを降りた一歩目で立ち尽くし、
振り返って、何でこのエレベーターは駅直結じゃないんだよ。と思いながら、遠回りして駅まで歩いた。
髭男の『相思相愛』の歌詞の冒頭が頭をよぎり、胸がやけに痛かった。
しかし、おかげで二度とハウルになった気にはならなくなった。
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